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ボンジュール!パリ ~においの正体~


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Aiko(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
カフェで過ごす時間が好きだ。人によってその目的は様々。
美味しいコーヒーを飲むため。勉強をするため。パソコンを開いて仕事をするため。集中して本を読むため。誰かと会話をするため。
私の場合はここにテラス席で過ごすため、という欲求が加わる。
 
ヨーロッパでよく見かけるテラス席、特にフランス人はテラス席を好む傾向にある。
太陽の光に当たるため。喫煙が屋内では禁止されているから、気兼ねなく吸うため。
他にも、通行人の視線にさらされることもむしろ大歓迎という部分もあるのだろう。
 
パリ6区、サン=ジェルマン=デ=プレ地区のサンジェルマン大通りに面した有名なカフェがある。
旅でパリを訪れた際には、テラス席に座り、念願のショコラショーを飲んだ。
 
ショコラショーとはフランス語で「温かいチョコレート」という意味の単語。
英語で言えばホットチョコレートという意味になり、ココアとは明確に分けられているそう。
ショコラショーは固形のチョコレートを溶かして作り、ココアは原料となるカカオマスから一定量のココアバターを分離して粉末状にしたものから作る。
つまりショコラショーの方がココアより濃厚で、リッチな味わいなのだ。
 
チョコレートと牛乳。日本でもパリと同じ材料は揃う。自宅で作ろうと思えば作れる。
だけど、何度も写真を眺めて夢見て、想像していた味わいと体験を求めて、高い旅行費をかけて人は現地へ赴く。
私も例外ではなかった。
 
名探偵のエルキュール・ポワロを演じたデビッド・スーシェに似た、お茶目な表情の奥に鋭い眼光を光らせたギャルソンがテーブルを担当してくれた。
白いシャツ、黒のベスト、黒の蝶ネクタイ、白のタブリエ(エプロン)を着こなした姿はエレガントだ。
テーブルと人々の間を颯爽と歩き、軽快に私のテーブルへ歩み寄り、メニューを差し出しながら朗らかに声をかけてくれた。
 
「Bonjour(こんにちは)!」
 
私はカタカナで表記するしかない発音で必死で話す。
 
「ボンジュール、アン ショコラショー シルヴプレ(Bonjour, un chocolat chaud s’il vous plaît)」
 
意味は「ショコラショーを一つお願いします」。
 
念願の飲み物は、カップ二杯分がポットに注がれて運ばれてきた。
とろりとさらりの間の液体をカップに注ぐと、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
一口含むと、「パリに来たのだな」と実感がわいてきて、香りと味と舌触りをゆっくりと堪能したくなる。
通りを行く人々が吸っている煙草の煙の香りが、チョコレートの香りに混じる。
大型犬の毛むくじゃらの体から漂う臭いもそれに混じる。
日本の自宅で飲んでもそのアロマは体験できない。それこそ旅の醍醐味だ。
 
二杯分のショコラショーを飲み終えたら、緊張しながら発さなくてはならない言葉がある。
ギャルソンと視線を合わせて、なるべくはっきりと伝える。
 
「ラディスィヨン シルヴプレ(L’addition,s’il vous plaît)」
 
意味は「お会計をお願いします」。
 
この二つのフランス語は今でも空で言えるので、何度口にしたことか、いかに自分が食いしん坊なのかがわかるほどだ。
 
他にも、パリのカフェでは可能な限りテラス席を選んだ。
共通して得られる印象は、目の前の通りを行き交うお洒落なパリジェンヌたち、大きい通りなら車や自転車、そしてたくさんの綺麗な犬たちの散歩風景。
 
パリへ旅行した思い出を追いかけて、東京の中でパリを探すこともある。
似た風景は、代官山や神楽坂のカフェのテラス席で見られる。
だが何かが違うのだ。
行き交う人々は日本人が多いし、綺麗な毛並みの犬たちはパリよりも小型犬が多く見られる。街路樹はパリよりも背が低いし、植えている間隔が違うのか、こじんまりとしている。
 
あとは、空気が違う。すえた臭いがしないのだ。
 
パリでも、カフェの周辺は空気が綺麗だが、一歩道を入るといつも独特の臭いが漂っている。
下水の臭いだけではないのだろう。どことなく、獣の臭いがいつもしている。
メトロは特にそれが濃くて、地上に上がるといつもほっとする。
 
道や建物の壁もガラス窓も、いつもどこかがくすんでいる。はっきり言えば汚れたままなのだ。
メトロの車内も、ゴミはあまり落ちていないが壁や窓がいつも霞んでいる。
オペラ座などは中も外も綺麗にしてあるが、他の場所は、意外とそんな状態なのだ。
 
その点、日本は都心も地方も、どこもかしこもぴかぴかしている。
臭いも、繁華街は例外だが住宅街などはほぼ無臭で、清掃も行き届いている。
ただ、代官山のカフェのテラスに座ると、パリのあの独特の臭いを探してしまう。
なぜか懐かしく、恋しく思ってしまう。
 
芸術の都と言われるパリの街並みは、本当に美しい。
どこもかしこも、クリームで綺麗にデコレーションされたケーキのような建物ばかり。
石畳は敷き詰めたショコラだと想像したり、見上げた空は青い飴細工のようにぴかぴかしている。
統一感がある。街並みに、歴史と誇りが感じられる。
 
一方、日本の街並みは京都などを除くとどこも新しい、同じような建物が目立つ。
しかしどこもかしこも、とても清潔なのだ。
だから初めてパリを訪れた時は、少なからず動揺した。
それでも、二日目くらいからはそんな動揺すら吹き飛んで、パリの魅力にどっぷりと浸かる。
 
カフェのコーヒーの香り、ブーランジュリーの焼きたてのパンの匂い、高級ブランドのブティックの扉が開くたびにふわりと漂うパルファン(香水)の香り、セーヌ川の上を吹く風のにおい。
そして石畳の隙間や、路地裏の陰、メトロの階段付近にたまっている灰色のにおい。
それはきっと、人々の体臭や動物たちの獣の臭い、排泄物の臭いが混じり合ったもので、それこそがパリを生き生きと魅力的にさせているのだろう。
 
「パリ」という唯一無二の香水が調合される、そこに息づく生き物と歴史によって。
 
日本でパリに似た雰囲気の場所を探しても、どこもパリになりきれていない。
代官山も、神楽坂も、清潔で無臭で、何かが足りない。
 
あのにおい、「パリのにおい」がどこにもないのだ。
 
一度あなたにも体験してほしい。
生きている街、そこを歩く自分もまた生きているということをリアルに実感できるから。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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