メディアグランプリ

今夜、わたしは雲の上


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さかまきK(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「県内最大級! 家具の大特価セール! ベッド大量展示! お気に入りがきっと見つかる」
 
ポストから出てきたそのチラシが目に留まった。
 
「ベッドか……正直なところ考えたこともなかったな……」
 
実はこの一年以上、私は不眠に悩まされていた。
とにかく寝付けない。そして、ようやく眠れたとしても、途中で何度も目覚めてしまう。
ゆえに朝になっても疲れは癒えず、夜の延長のような体を引きずって家を出る。
そんな繰り返しだった。
 
すぐれない心身との生活は、睡眠がいかに大事なものであるかを知るには十分すぎるほどで、不眠の改善に効くとされるあらゆることを試したのである。
太陽の光を浴び、規則正しい生活を心がける。ヨガ教室にも通うようになった。カフェインを控え、ゆっくりと半身浴をして、呼吸法を意識したストレッチ。病院で薬を処方してもらうこともあった。自律神経を整え、リラックスすることが大切、とのアドバイスにも従って。
 
けれども、根本的な解決には程遠く、半ば諦めかけていたタイミングだった。
あろうことか私は、不眠に悩み続けながらも、寝具などの睡眠環境を整えることに関して、完全に失念していたのだ。
 
「うむ。これは、いいきっかけになるかもしれない……」
そう思い、その巨大な家具の展示会へ足を運ぶことにした。
 
会場に着くと早速、ホテルマンのような紳士に出迎えられる。
 
「本日はベッドをお探しでございますか?」
 
「はい、もう二十年以上使用しているので、そろそろ買い換えたいと思いまして」
 
「そうでしたか。マットレスに関してはスプリングが劣化してくるので、十年ほどを目安に買い替えていただくのがおすすめでございます」
 
「ということは、私のベッドは相当傷んでいますね……」
 
「使い方にもよりますが、おそらくは。使用していて、肩が凝る、腰が痛い、といった不都合はございませんでしたか?」
 
「大いにあります。特に肩こりは慢性的なものなので、もうどうしようもないかと」
 
「それは辛かったですね。ベッドによってはそういった症状も軽減されるかもしれません。よろしければ、こちらのベッドで実際横になっていただき、その感触をお試しいただければと思います」
 
言われるがまま、私は寝そべった。
 
「肩がスッと入っていく感覚です。腰もなんだか支えられているような感じ……」
 
「女性は男性に比べて体が曲線的なため、それに合わせて少し柔らかめのマットレスをおすすめしております。もちろんお好みもありますが」
 
「私が使っているものは硬すぎる、と今気づきました」
 
「体とマットの間に隙間や衝突が生まれると、その分負担がかかってしまいますからね」
 
そのあとも様々なベッドのお試しをさせてくれる。
こうして私は、その中のひとつと出会ってしまったのである。
 
「あぁ~雲の上にいるみたい~」
大げさでなくそう思った。
寝転んだ瞬間、包み込まれる感覚、それでいて沈み込むことがない。
あやうくこのまま眠りそうになったので、この雲の購入を即決したのだった。
 
それからというもの、私の睡眠ライフは充実している。
以前とは、熟睡感が段違いだ。
朝、すっきり目覚めるのが久しぶりのことで、なんだか身体が若返ったような気分。
そんなわけで、不眠でお悩みの方はぜひ、ベッドを買い替えましょう!
 
という話では、言い足りないのである。
 
私は今、眠りにつく時間が一日の楽しみのひとつとなった。
これまでは「今日こそちゃんと眠れるかな……」と気の重いタスクのように捉えていた節がある。
それが毎晩、「あぁ~雲の上って最高~」と夢見心地な気分に包まれている。
心身ともに疲れ切っていれば尚のこと。その流れでその日を駆け抜けた自分を労う。
今日はこれを頑張ったな、あれは楽しかったな、などと振り返っては、思い出し笑い。
日々失敗は尽きることがないが、繰り返さぬよう前を見ては、明日は明日の風が吹くのさ、と呟く。
そんなことを自然とするようになったのだった。
美味しいものを食べているときに怒り出す人はいないと思っているのだが、雲に寝そべって落ち込む人もいないのではないだろうか。雲の上はいつだって晴れなのだ。
 
ホテルの高級ベッドでも眠れなかった私が、こうして快眠生活を手に入れたのには、きっと自然に微笑んでしまうような穏やかな気持ちになれたことが大きいように思う。
夜が深まるにつれあれこれ悩み出すような面倒くさい私へ、そんな感情を運んできてくれた雲に感謝しつつ、ふと、毎晩、類まれな寝つきのよさを発揮している母のことを考える。
 
母は、子どもの頃からの習慣で、布団の中で今日一日を無事過ごせたことを感謝してから、眠りにつくという。時には、感謝し終える前に寝てしまうとのことだ。そうやって、そんな布団や枕でも即寝落ちできることをずっと羨ましく思っていた。
思えば、以前の私は恐ろしいことに、ヒーリング音楽をかけながら「早く眠らなくちゃ」「明日することはあれとそれと……」「今日の反省点は……」なんてことを考えていた。
ともすれば、これがたとえ煎餅布団であったとしても、幸せを感じるような心持ちがあればまた違ってくるのだろうか。
 
そんなわけで、快眠にはリラックスすることが大切だという、その意味がなかなか掴めずにいた私であったが、ようやく実感として理解できた。ベッドの買い替えはそのきっかけだったようにも思う。
 
風に吹かれて流れる雲のように、ふわりとやさしい気持ちで寝そべれば、夢の世界はあなたのすぐそばにそっと広がるのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2022-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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