メディアグランプリ

家庭の手抜き仕込みで手前醤油を作っている話


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記事:すゞき かつみ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
薄い茶色い物体が、宅急便で届いた。
思わず袋を開けて香りを確かめたくなるのを堪え、袋の上から手のひらをそっと滑らすように撫でながら手にあたる感触を確かめた。
 
「これがしょう油麹というものかあ」
米こうじのような真っ白い、しとやかな雰囲気と違ってこれは、武骨でデコボコとしていて荒々しいイメージだった。
しょう油は春が仕込みの時期で、私でも出来るのか一度試してみたくて麹を取り寄せたのだ。
 
ようこそ我が家へ
 
しょうゆ麹菌は丁重に扱わなければ下手をすると死にかける。
そう、この薄茶色の麹は甘酒の麹や味噌の麹より強いので、体が弱い人なら肺をやられるらしい。
粷屋さんも命がけで作っているそうだ。
その麹屋さんから引き取って持って帰る方が、車の中でマスクをしていたにも関わらず、暫く喉がおかしいと話していた。
 
職人魂が入った袋を眺めては、本当によく作ってくださったという感謝と労い
そして
これから私の手元で仕上がっていく、生命の引継ぎバトンを受け取った気がした。
 
 
手元に届いたときには、あらかじめ塩を軽く混ぜてくれていたお蔭で、菌が舞い上がる心配は殆どなく、安全だった。
また、麴だけで届けてしまうと、温度が上がって納豆になってしまうらしい。
しかも、麹は3日の命と言われている。
納豆味の醬油は絶対にイヤだ!
のんびり眺めている時間はない。急いで仕込みにとりかかる。
 
強靭な菌を持っているのに、かなりのデリケート体質、放置すると3日もたない何とも神経質なヤツだと知った。
 
 
今回私が選んだ製法は、故・萩原忠重氏が既存の大規模な醤油づくりから小さい単位で作れるように研究されて考案された製法である。
 
この萩原氏が研究を始めたきっかけが、戦時中、体調を崩して日本に戻ってきたとき、残されたおじいちゃん、おばあちゃん、お母さんや子供たちが食糧難・調味料が手に入らないで困っていた現状を目の当たりにしたことだったそうだ。
何とか家庭で、簡単で美味しい醤油はできないかと女性グループと一緒に何度も試作を重ねた末、出来上がったのだそう。
 
プロのお醤油屋さんが蔵の中に置いた大きい樽を、長い棒で毎日混ぜて天地返しをしている映像を見たことがある。
 
でも、萩原氏の製法では塩が溶けきる1か月間は週1回の天地返しが必要だが、その後は月1回の天地返しだけでいい。
しかも、塩が溶けた後は日差しのよく当たる場所へ置くという、画期的なもの。
 
醬油や味噌は蔵で作る、冷暗所で作るという、従来では考えられない保管の仕方に興味を持ったのだ。
実際、私の手前味噌は冷暗所で眠っているのだ。
 
すでに作ったことのある方の話によると、だし醬油のような味がするという。
 
このだし醬油に目がない私は、以前は「鎌田醬油」をうどんやご飯など、何にでも多用し、垂らしていた。
ちょっと使うだけで味が締まる。
ただ、中年になって、歳とともに化学調味料やら砂糖の使用を気にするようになり、使わなくなっていた。
 
それが、今回は正真正銘の「おしょうゆ」。
化学調味料無添加
砂糖類なし
もう早く使いたくて仕方がない。
何か月も待ての状態なのに、どんなものが食べれるかは妄想だけで「おあずけされている犬」のようなもの、何とも狂おしい。
 
1か月間は冷暗所でゆっくりと塩を溶かしていく。言われた通り、約1週間ごとに天地返しをする。上下を入れ替えないと塩が下に溜まって大豆が浮いてくる。
 
塩が溶けた1か月後、
いざ! 天日での保管。
私は自宅で日差しが1番長く入る、南向きの窓辺へ、おそるおそる置いてみた。
明るい
気持ちの良い日光浴
本当にここでいいのか……
教わったレシピ通りならこれで正しい!
渾身の祈りを込めて窓辺へ奉納した。
 
 
 
ここまで出来たらほぼ完成したようなもの。
醤油絞りの時期は12月だから、あと残り3か月まで迫ってきた。
もろみに照りが出てきて、顔を近づけると醤油の香りがほのかにする。
 
絞ったら絞ったで嬉しいことが待っている。
搾りかすの事を「醤油の実」と呼ぶらしい。
私はこちらも心待ちにしている。
この先はもう暫く待たされる「おあずけ犬」なのだが、
ここはそう、仕込む前の私ではない。
 
焼きたての時間に合わせて並ぶパン屋さんの行列みたいに、目の前のゴールフラッグが、もうすぐそこに見えている物を待っている。
 
この醤油の実だが、大豆がお茶うけにピッタリらしいのだ。飲める人ならビールのおつまみに最高なんだそう。
お茶うけを堪能したら今度はお漬物。
醤油の実をぬか漬け同様に毎日混ぜて大根、人参、白菜など冬野菜を漬け込み、たまり漬けを作りたい。
これが今考えている密かな野望だ。
 
小規模単位で作る良さはここにあると思う。
大量に作ればお豆腐もオカラを捨てることになり、梅酒の梅も捨てることになる。
近頃は企業も副産物として、世に出てくるようになって嬉しい。
 
この副産物も含めて使えるかどうかは、人間の考える力で、昔の人が残してくれた英知なんだと感謝したい。
 
来年は、沢山の人たちが、しょう油の実の大豆をおつまみに一杯やっていたらいいな。
 
 
 
 
***
 
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2022-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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