映画館のいう名の飛行機
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉良健一(ライティング・ゼミ9月コース)
明かりがついてもその場を動けなかった。
なんということだ。
余韻を全身に感じていた。
よろよろと立ち上がり出口に向かう。
なんということだ。
いやー、やられた。
この2時間30分、別世界に行ったのだ。
日常の生活から離れて、紀元前、春秋戦国時代、中華の国「秦」にいたのだ。
そもそも私は映画館にあまり行かない。
この前に映画館に見に行ったのは2年近くも前のことだ。
けれども、「キングダム2」は気になっていた。
原作のマンガを読んで、テレビで放送された映画「キングダム」は再現性が高くて非常に面白かったからだ。
7月に映画が公開が決まった時、真っ先に妻を映画館に行こうと誘うが、2時間以上も座って観てるのがもったいないと断られる。
前作「キングダム」のようにテレビ放送を待つしかないかと、あきらめていた。
しかし、最近、ことあるごとに、映画の魅力を語る話を聞くようになった。映画館で映画を観るのがストレス解消になるという。感動の閾値を下げられるようになるという。
そのことが頭にあったせいだろう。
わずかにできた空き時間、1人で映画館に行くことにした。
9月、さすがに公開2か月後の平日となると上映されている本数も限られてくる。いまから行けるちょうどいい上映時間の映画館を見つける。
スマホで座席予約、決算を済まし、映画館に着くとすぐにシアターに行ける。
観るのはもちろん「キングダム2」だ。
1時間後、私は泣いていた。
「おいおい、40のおっさんが映画館で1人で泣くんかい」と言われるような気もするが、私はただ涙を流していた。
感情の振れ幅が丁寧に描かれていて、心を揺り動かしたのだ。
言っておくが、私はストーリーは原作のマンガを読んで知っている。
けれども、マンガと映画館の映画は違う。
マンガは、絵と台詞で世界観を伝える。
映画館の映画は、映像と音声と映画館の暗さで世界観を伝える。
視覚だけで捉えるマンガに比べて、映画館の映画は視覚だけでなく、聴覚、触覚にも訴えかけてくるのだ。
映画館を真っ暗にしているのは、映像をスクリーンに映すためだろうが、視界が映像だけに集中されるのだ。大画面で映像が迫ってくる。
スピーカーから音声が全身に伝えられる。セリフが耳に残る。
そして映画館という空間だ。ちょっと待ってと一時停止はできない。このシーンは飛ばそうと倍速再生もできない。あのシーンどうだったっけと巻き戻しもできない。動画再生に慣れた身には、この不自由さがかえって魅力なのだと感じた。観る側のペースで観ることができないのだ。
だからこそ、映画の中に没頭できるのだ。
考え抜かれた映画の世界に浸れるのだ。
この非日常で、自分でコントロールできない感覚は、飛行機に乗っているようだと思った。
普段地上で生活していると、雲の上で生活することはない。
飛行機は離陸すると着陸するまで機内から外に出ることはできない。
そのような制限と引きかえに、高速で目的地に運んでくれることができるのだ。
映画館も、真っ暗な中で、大画面で、大音量で、つくり上げられた映画を観ることで高速で、映画の世界に運んでくれるのだ。
監督の佐藤信介さんは、映画パンフレットのインタビューでこのように語っている。
―――
『キングダム2』はただでさえつくるのが大変な作品なんですが、撮影時期にコロナの流行が重なったため、我々がこうむった困難は計り知れないものでした。何度も暗礁に乗り上げそうになりましたが、自分の中では「何か道があるはずだ」と常に思い続けていました。そして、想定していたことができなくなったとき、代替案を立てるわけですが、それによって当初の目標値を絶対に下回りたくないと。どうせ変更するなら、まったく異次元の工夫をすることで当初の目標値を上回るところへ持ったいこうと考えていました。今回はその繰り返しだった気がします。なので、困難なこともたくさんありましたが、出来上がった作品はその困難の数だけ完成度が上がっていった感覚があります。
―――
そう、映画は簡単にできるものではないのだ。監督、脚本、音楽、美術、非常に大勢のスタッフの上で、俳優が世界観を演じて、道をつくっているのだ。
大雨で、強風で、困難な空路を、多くの人がよい作品を届けたいという思いで、安全な空路を作り上げているのだ。
そりゃあ、あっという間に映画の世界に没頭させてくれるわけだ。
作品にはこれだけ多くの人の想いが込められているのだから。
今度、もう一度妻を映画館に誘ってみようと思った。
***
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