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もっと自由に! 納得のいくお産を!!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田口のり子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「のり子さん、ありがとう。ほんっとにありがとう」
よく分からないけど、なんだか私、ものすごく感謝されてる? でも、え? そんなに? 一応聞いてみる。
「そんなに違う?」
「うん、もう全然違ったー。すっごくよかったー。教えてくれてありがとう。ほんと、ありがとう!」
兄嫁は、新生児用ベッドの中にいる2人目の我が子を気にかけながら、病室でそう繰り返した。
 
ことの発端は、たぶん、その2年5か月前。私が第1子を出産した助産院に、彼女が兄と一緒にお祝いに来てくれた時に違いない。私の初めての甥にあたる7か月の赤ちゃんを連れて、駆けつけてくれた。私は、前日の出産体験をいまだ興奮冷めやらぬ状態で語った、その時が発端だったのだと思う。
 
私は、子供のころからなぜか、親もあきれる医者嫌いだった。原因は不明。古い記憶では、自分の3歳児健診の時、内科健診のエリアにいたであろう白衣の医師を見かけただけでぎゃん泣きし、近寄ることを断固拒否した確かな覚えがある。ちなみに、自分で言うのも何だが、普段は聞き訳が良い、実に落ち着いた子供だった。
そんな私は、自分が病院で出産したら、難産確定だろうと考えた。もはや理屈ではない。リラックスできないからだ。出産のときは、人間だろうと動物的には非常に無防備になる。それゆえ、お産を進行させるホルモンは、安心できる環境にないと分泌されないという。アドレナリンが放出されているような状態では、お産は長引くだけなのだ。
 
私の母、母方の祖母は共に、初産はかなり難産だったと聞いていた。私は、なんとかその遺伝的呪縛から逃れたいと切に願っていた。であれば、私の場合、まず医師のもとでの出産はない、そう考えた。かと言って自宅出産の勇気もない。逆に安心できない。色々調べていたら、助産師が開業している助産院という施設があることを知った。入院して出産し、産後のケアもしてくれるらしい。医師が常駐していないので、医療行為は行えない。正常な出産が見込まれる健康な妊婦であることが前提条件になる。但し、お産の場面になって医療の介入が必要だと判断されれば、嘱託医や提携先の病院のお世話になるとのこと。それはそれで安心だ。
 
私が自分の初めてのお産の場に選んだのは、東京都内のある住宅地の一角にある、二世帯住宅を改装した助産院だった。そこでは、ベテランの助産師さんがフリースタイルでの出産をサポートしてくれる。
お産は病気ではなく、自然の営み。木の実が熟して落ちてくるように、自然に赤ちゃんは生まれてくるのだと、その助産師さんは語っていた。産婦は、自由なスタイルが取れるのであれば、陣痛のさなかでも本能のままに姿勢を変えたり、立ったり座ったり、いろいろ動くらしい。また、好きな姿勢になれるのならば、仰向けで産もうとする人はまずいないとも聞いた。起き上がって好きに動ければ、痛みも和らぐし、血行も悪くならない。重力で赤ちゃんも降りて来やすくなる。理にかなっていると思った。
 
迎えた出産の時。私は難産を逃れたい一心でできる努力をしてきた。現代人は自然からかけ離れた生活をしている。何もしないままお産だけ自然に、と都合よくはいかない。お産を本来の自然の営みとするために、私はたくさん歩き、スクワットもした。整体にも通って体を整えた。食べ物にも気を付けた。
 
陣痛は、確かに痛かった。でも、生命の危機を知らせる痛みとは全く異質のものだった。一方で、赤ちゃんが出てくるときにピーンと限界まで伸びる会陰の痛みは、痛みの種類としては嫌いだった。赤ちゃんは、ハイネックのセーターを着るときのように母体から頭を出すらしい。そのハイネックの部分が会陰だ。助産師さんが上手に保護してくれたこともあると思うが、私は、指導された通りに、いきまずに息を吐いて力を抜くことを意識し、全く切れることもなく、初めての出産を終えた。
 
来てくれた兄夫婦には、たぶんそんな話のほか、陣痛のさなか、私は大きなビーズクッションを抱きかかえながら、助産師さんに促された夫が腰を指圧してくれて楽になった話、陣痛最終章の1分間隔の痛みはきつかったけれど、1分ごとの陣痛の波の間にはふっと本気で眠ってしまって、自然に体が休まった話、最後は夫につかまって中腰スタイルで産み落とした話、へその緒は夫が切った話、赤ちゃんは産着を着せてもらってすぐに私の所に戻ってきて、直後から同じ布団で一緒に寝ている話、生まれたての赤ちゃんの案外豊かな表情を見ながら癒された話、続けてもう1回出産しろと言われても余裕でできるな、とよぎったくらい体が消耗していなかった話、等々を一気に話したのだと思う。
 
義姉は途中何度も「いいなー、いいなー」と繰り返していた。
 
そんな彼女は、2人目の出産に当たり、産む場所をとことん吟味したようだ。色々調べて、自宅から行ける距離の助産院にも行ってみたらしいが、要は人対人の話だと感じ、助産院だからいいというわけではないという結論に至った。結局、1周巡って、1人目を出産した個人病院で産むことにした。親身になって相談に乗ってくれた助産師さんが院長を説得し、こちらのバースプランを全面的に受け入れてくれることになったそうだ。
 
完全にフリースタイルというわけにはいかなかったものの、彼女は分娩台に乗ることなく、最後は陣痛室のベッドの上で後ろから兄に支えてもらい、上半身を起こした格好で2人目を出産した。いざ生まれる時には、助産師さんが主導し、医師の院長はその場に立ち会って見守っていただけ。1人目の時とは異なり、陣痛促進剤などの薬品を使うことなく、会陰切開もせず、無事に、体も心も楽なお産ができたとのことだった。また、その個人病院では、出産後24時間は赤ちゃんを新生児室に預けるのが原則だったが、個室入院を条件に、義姉は出産直後から母子同室にしてもらって、とても満足していた。そして、幸せそうな顔で私にその体験を語った。
 
義姉の出産に関わった助産師さんは、その後、転職したそうだ。義姉の出産に関わって、助産師本来の仕事とは何かについて改めて考え、思うところがあったらしい。
 
出産は、産む側はもちろんだが、時には関わった側の人生にも影響を与え得る、インパクトの大きいイベントなのだと思う。出産の形や産む場所は、現代のスタンダード以外にも、実は案外選択肢がある。何が自分にあっているか、また実際の体験者の話もよくよく聞いて調べてみて、十分納得して臨むといいかもしれない。ちなみに、私と義姉を見ていた妹は、歌って産む助産院を見つけてきて、初産で3980gの巨大児を無事自分の力で産んだ。
 
20年以上前、私が出産する場所を探した時にはたぶんなかったと思うが、今では院内助産所を併設している病院もあるようだ。一時よりは自然回帰の流れも、一部であるように見える。
せっかくの出産という貴重な体験を人任せにしてはもったいないと思う。医師に産ませてもらうのを前提としてしまうのではなく、まずは自分の産む力、赤ちゃんが生まれてくる自然の力を信じて、自分主体で産むことを考えてみる。そんな選択肢もあるのだ。納得のいくお産の先には、何か意外な発見が待っているかもしれない。

 
 
 
 
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2022-10-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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