メディアグランプリ

顔に100万円ぶら下げている姉がうらやましい


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記事:南雲小夜花(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
笑えない。全っ然笑えない。別にテレビでやってる漫才番組とか、飲み会のコールとか、友達がやる先生のモノマネとかが面白くないワケじゃない。ただ、私は自分の歯が気になって笑えないのだ。口紅が前歯についていないか、食べ物が歯と歯の間に挟まっていないか、歯並びが悪いと思われていないか。人前で素で笑えない日々にずっと悩んでいた。この話は、矯正歯科に100万円かけた私の話だ。
 
元々、私は歯並びがすごく悪かった。下の歯は前に出たり引っ込んだり。上の歯はいろんな方向を向いていて、そのうちの一本は斜めに生えてしまっていた(捻転歯〈ねんてんし〉というらしい)。しかし、矯正に踏み切れなかった。器具はなんだか怖いし、相当な痛みが伴うと聞く。加えて、「人生に一度のJK時代に、矯正の器具つけた写真が残るのは嫌!」「大学生はインスタの時代。矯正器具を付けていたら映えないよ……」などと、時代を口実にして逃げた。食事ができないとか、生きていく上で困る理由だったらさっさと始めていただろうが、そういうワケではないし。そして何よりお金。シンプルに高いのだ。親に気安く頼める金額ではないし、大学生がバイト代を注ぎ込める金額でもなかった。
 
家族で歯並びが悪いのは私だけ。しかも姉に至っては歯のサイズ感まで揃っていて、本当にキレイ。ハンドクリームのCMなどに出る手のパーツモデルは「手タレ」と呼ぶが、もし「歯タレ」があったら姉を推薦したい。そんな人は、生まれながらにして100万円を顔面にぶら下げているようなものだ。姉が笑っているところを見ると、「うらやましい」という言葉では表現し切れない感情になった。嫉妬していたのだ。
 
そもそも矯正は、海外と比べると日本ではまだまだ一般的なことではない。その理由は歯の印象に対する違いがある。皆さん、八重歯の人を思い浮かべてみてほしい。「チャーミング」「かわいい」という印象を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、海外ではまるで真逆。ドラキュラや悪魔などが連想されることから、八重歯はマイナスな印象になってしまうという。また、歯にお金をかけられることが一種のステータスでもあるため、矯正に対するハードルが日本よりも低いのだ。
 
私がようやく矯正に踏み切れたのは、社会人1年目のこと。きっかけは、新型コロナウイルスの流行だった。皆がマスクをしているため、矯正器具をつけていてもわからない。多少滑舌が悪くても、マスクのせいと思われる。人と食事をする機会も減った。2020年が最高のチャンスだったのだ。ネットで調べたいくつかの歯医者を受診し、大体の金額や治療方針を教えてもらう。歯医者ごとの違いが面白くて、気付けば都内の歯医者を合計で8軒回っていた。ようやく決めたのは、近所にある、女性の先生がいる矯正歯科。ハキハキと、そして丁寧に矯正の計画を説明してくれる先生で、私の中のセンサーが「ここだ!」と反応したのだ。
 
私の歯は内側に倒れてしまっていたので、それを真っ直ぐに立て直すことから始まった。痛かった。歯を締め付ける痛みって、こんなにもストレスが溜まるものなのか。なかなか寝付けなかったり、豆腐やプリンといった柔らかいものしか噛めなかったりして、正直辞めたいと思う時もあった。しかし、毎月の診療時に矯正器具を外すと、ちゃんと歯が動いているのだ。目に見えて歯があるべき場所に収まっていく。先生も「いい感じに並んできたね」「今月もちゃんと動いてるよ!」「痛いよね。でもキレイになってるから頑張ろうね」と励ましてくれるものだから、毎月の受診が楽しみで仕方なかった。
 
約1年でワイヤーが取れ、現在はマウスピースで微調整をする仕上げの段階に入っている。先日、先生が矯正開始前後に撮った写真をくれた。まるで別の人の口元だった。歯だけではなく、横顔や輪郭も変わっていたのがわかる。本当に痛かったし、決して高くはない新卒のお給料の中から毎月約10万円を注ぎ込んでいたので生活にゆとりはなかったが、その価値があったと実感し、涙が出た。歯タレ(仮)の姉に写真を見せたところ、「すっっっっっっごくいいね! 見違えるよ!」などと、松岡修造ばりに褒めてくれた。
 
矯正はやらなくてもいい。だってしなくても食べ物は食べられるし、人と会話できるのだから。しかし、矯正をしたことによって、食事をしたり人と話したりするその空間自体をもっと楽しめるようになった。思い切って始めてよかったと心底思う。将来子供ができ、もし矯正が必要になった場合には私が全額出すと決めている。そのくらい、歯にはお金をかける価値があった。これから先、100万円をぶら下げて目一杯笑おうと思う。
 
 
 
 
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2022-10-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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