本屋でセミヌードを撮ってもらったらすごかった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:高取明子(ライティング・ライブ福岡会場)
2022年春、私は本厄の最中にいた。いや、厄年のせいにするのは間違っている。しかし控えめに言って瀕死だった。仕事もプライベートもうまくいかない。日々は上がったり下がったり晴れたり曇ったりするものであるはずなのに、土砂降りのまま下がり続けているようにしか思えなかった。のたうち回っている中で自己啓発書を10万円分は買った。愚かだった。「ありのままの自分でいい」みたいな言葉を何百回流し込んだところで事態は解決などしない。だいたい、本当にありのままの自分でいいならこんなに悩んでなどいない。どうしようもない中でどうしようもなくもがいている自分が惨めで恥ずかしくて、毎日悲しかった。実際、毎日泣いていた。本当に毎日泣いていたのでこのまま死ぬまで泣いているんじゃないかと怖くなって、PCを開いた。検索窓にカーソルを当てると「人生 悲しい」「毎日 苦しい」などと昨日の自分の痕跡が表示されてまた泣きそうになった。違う、そうじゃない。
何か少しでも気分が変わることがしたい。
できれば後々ネタになるような、変わったことがしたい。
こうして私は天狼院書店のセミヌード撮影イベントに申し込んだ。
その日の参加者は5名。本屋で脱ぐというのが既に一大事だったが、皆様初対面ということもあり、温泉の脱衣所くらいの気持ちで抵抗はなかった。むしろ本屋貸切でやりたい放題という背徳感に、気分は高揚していた。が、初対面の方々を前にそんな性癖を曝け出すわけにもいかず、「ちょっと寒いですねえ」とか「何度目ですか?」などとあえて話題を逸らしながら脱いだ。ザ・自己顕示欲!みたいな人が集まるのかと思ったが、どちらかというと私と同じダウナーなタイプの人が多いように思う。1番アッパーそうなのはカメラマンの男性だった。カメラマンは「今日は人数も少ないし、枚数も多めに撮れそうですね。皆さんラッキーですね」と言ったが、まだ瀕死状態から抜け出していない私は「毎回言ってるんだろうな」などと捻くれたことを思った。余裕がない人間は他人に優しくすることなどできない。
なんとなく順番が決まって、心の準備などする暇もなく撮影が始まる。思ったよりサクサク順番が切り替わり、指示通りのポーズを決め、目線をあっちやらこっちやらやっている間に全部が終わった。あっという間だった。2時間半ほどの時間があったと思うのだが、体感20分。なんていうか、濃かった。データは1週間ほどで納品された。
「ありのままの自分」がそこにいた。
痩せていて、ビールの飲み過ぎでお腹もたるんでいる。手足が短くて首が長い。青白く、昔より柔らかくなった肌。垂れた乳。乾燥した髪。滲み出る憂鬱さ。陰気な気配。ヘタクソな笑顔。
まごうことなき私だ。鏡は虚構を映すが写真は真実しか写さない。何を映すかはカメラマンの主観次第だが、そこに嘘はない。根暗で陰気でしょうもない私が、照明の落ちた本屋によく似合っていた。いい写真だな、と思った。誇らしい気持ちにもなった。楽しかった20分が蘇る。(本当は2時間半)
今ならわかる。私に必要だったのは客観性だった。自分以外のフィルターで、でも自分自身で自分を肯定したかった。「あなた今こんな感じですよ、で、あなたは今からどうするんですか?」 そんな写真だった。メラビアンの法則というものがある。人は9割の視覚情報によって他人の印象を決定するという。では自分の印象は?写真には自分の印象を、カメラマンの主観通して客観的に認知できる力があるような気がしている。わからないけど。
これをきっかけに私はまた元気を取り戻し、人生が180度変わることになった……わけではない。もちろん。私はちゃんと陰気で憂鬱な日々を過ごしている。ただ、もう泣いてはいない。2時間半で人生を好転することはなかったけど、前を向くきっかけにはなった。自己肯定感アがる〜、というだけではない、今、ここに、私がいる、というマインドフルネス的な要素を強く感じた。過大でも過小でもない、ただの私。次に撮ってもらうまでに、もう少し健康に生きたいなとも思った。
人はもっと人に写真を撮ってもらうべきなのではないだろうか。盛りも映えも自撮りもいいけども、インカメラには写らないものがきっとある。高性能になっていくスマホのカメラは他人に向けられるものなのではないだろうか。そしてたまにはその道のプロに自分のあられもない姿を切り取ってもらうのがいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、自分の裸体がクラウドにアップされているという羞恥に耐えきれず、掲載期限を待たずに削除依頼のメールを送るのだった。これもありのままの私ということにしておく。
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