朝の讃岐うどん
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記事:井上 美幸(ライティング・ゼミ8月コース)
「お母さん、鼻からうどんって本当に出るんだね」思わず母に電話で報告をしたところ、 「あんた何を言っているの」と母に大笑いされた事がある。
皆さんは讃岐うどんをいつ頃に知っただろうか。最近では東京や神奈川でも、讃岐うどんのチェーン店が至る所にあり身近な存在になったと言えるが、それもここ10年ぐらいではないだろうか。
私の讃岐うどんとの出会いは大学生3年生の時で、母が冷凍うどんと専用のつゆで作ってくれたのが初めてである。一度食したらそのコシの強さとツルッとした喉越しに感動。また鰹の出汁が効いた関西風のつゆが最高に美味しくてどハマりした。
神奈川県茅ヶ崎市に住んでいた私の家の周りには、美味しい蕎麦屋さんが結構あって家族では普段からよく蕎麦を食べていた。
寒くなると温かい鍋焼きうどんを注文したこともあるが、関東圏の醤油を効かせた濃い目なつゆで、うどんも煮込んでいるので柔い方である。
それで初めての讃岐うどんのコシの強さとお出汁の効いた関西風つゆにはまってしまい、我が家の冷凍庫には讃岐うどんが常備されるようになった。
その日の朝は、起きた時から体調がかなり悪かった。けん怠感と、熱もあったのかもしれないが、大学3年生で企業へのインターンシップ(社会に出る前の就労体験)、それも厚生労働省へのインターンシップ2日目なので、貴重な体験を今日も出来るはずで絶対に休みたくなかった。
母は朝からありきたりなトーストではなく、揚げ玉と葱がトッピングされた温かい讃岐うどんを用意してくれていた。大好物を断るわけにもいかず正直つらかったが無理やり完食した。
そして行きの東海道線の中で、段々と気持ち悪くなっていき、吐き気も強くなってきた。なんとか東京駅まで来た時に我慢できなくなり電車のトイレに駆けこんだ。
東海道線は駅と駅との間隔が長いので、車内にトイレがあるのだ。
そこで鼻に激痛が走った。今朝食べたうどんが鼻からツルッと出てきたのだ。
どうして口からではなく、うどんだけが鼻から出るのかと驚いた。
そのメカニズムはさっぱりわからないが、あの芸人がやっている事を偶然にも私も経験する事となり、面白くってとにかくこの事実を誰かに共有したかったので、母に電話で報告したのである。
ところで鼻から出たうどんの処理についてだが、「抜き取る」べきか「口にもどす」ものか、そこについてはけっこう悩んだ。
「抜き取り」を選択した場合、途中で切れたら、鼻に残ったうどんはどうなるのか分からない。
「口にもどす」方についても考えたが、気持ち悪くて出来そうにない。
やはり抜き取ってみようと決めて、ポケットティッシュを出して、チーンと鼻をかんでみたが、一発では成功しなくて、何回も鼻をかんでやっと長いコシの強い讃岐うどんを出し切る事に成功した。
鼻が痛すぎてもう嗅覚が壊れたのではと思うぐらいのダメージが残った。
結局、その日はだるくてインターンシップどころでは無かった。
体調不良を理由に早退しようと何回も思ったが、大学にも迷惑をかけてしまう気がして言い出せず、なんとか1日終えて帰宅。翌日は高熱が出たのでさすがに無理だと諦めて、病院へ行き検査をしたらインフルエンザと診断されて、1週間ほど回復に時間がかかってしまった。
つまり私のインターンシップは2日で終わってしまったのだ。
幻のインターンシップ体験であった。厚生労働省での経験について正直あまり思い出せず、鼻からうどんが出た事だけが強烈に私の記憶に残っている。
そしてそれ以降、讃岐うどんが出てくる度にあの時の気持ち悪さと痛みが思い出されて食べれない時が続いたが、人間のいやな経験を忘れる能力は素晴らしいもので、今では会社のお昼に週2で通っている。
鼻からうどんを吸ったり出す芸があると思うが、本当に痛いのでやめた方が良い。
そして2度とあんな衝撃的な体験はしたくないと思うのだが、人間ドックで鼻からの胃カメラを経験している人は多いのではないでしょうか。鼻か口か選べるそうで、鼻の方が楽だという話だが、私はまだどちらを選択するのか決めかねている。
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