メディアグランプリ

舌で感じるアトラクション


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:三好 健(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
例えばその賑わいはお祭りの出店のようにも感じられることもあれば、その脳裏に描かれる期待感はテーマパークのアトラクションを待つときにも似ているかも知れない。
 
仕事からの帰り道、いつもは何気なく通り過ぎる人の行き交う商店街、すれ違いで肩が触れあいそうになるほど混み合う駅の改札前に並ぶお店、電車を降り改札を出た先に続く人で賑わう駅近くの地下街。
普段は仕事に疲れて、時にはうつむいているかも知れないし、ため息をついているかも知れない、あるいは明日を思って憂鬱になっているかも知れない、そんな仕事の帰り道。
そんな帰り道が時には明るく輝いて見え、店の戸の隙間から覗く楽しそうに会話をする仕事帰りの男性や女性の声に羨み、肉を焼き麺を茹でる独特の香りに誘われ、店の前に掲示されているメニューを見てはその味を妄想する、そんな日がある。
 
普段は全く素通りをするのだけれど、ある特定の期間においては、「こんな店あったっけ?」と、新たな発見もする。
「今度、ここに食べにこようかな」
お店の前に貼られた、やけに値の張る親子丼の写真を見て、そう思った。
その親子丼が口に入る日を思う時の期待感は、次に乗るアトラクションを選ぶときの子供心と大差ない。
 
食事をするという行為は、あまりに日常に馴染みすぎているために、実はとてもエキサイティングでアトラクティブであるということを忘れてしまっている人が多いのかもしれない。
 
僕は定期的にファスティングをしている。
日本語で言うと「断食」なのかも知れないが、断食は水だけで過ごすイメージが強いため、ファスティングとやや異なるように思う。
ファスティングにしても断食にしても、調べてみると色々と流派や流儀のようなものがあり、やり方や思想も千差万別。
僕が実践しているファスティングは、酵素ドリンクと少しの塩、梅干しで過ごす。期間は10日前後。
 
ファスティング未経験の人にとっては、「辛そう」というイメージを持たれるかも知れないけれど、意外とそうでもない。
酵素ドリンクと岩塩で適切にコントロールすれば、お腹の中に何もないという状態はとても楽であり、空腹さえも快感になる。
そもそもファスティング中の空腹と、通常時の空腹は、感じ方が少し異なる。
「何でも食べて良い」という通常時の空腹感は、欲望のままに食欲を満たす方向に流れやすい。しかし、ファスティング中の空腹感は、口にしてよいものが酵素ドリンクだけという状況であるからか、その場に止まることができる。人間は、選択肢の数が少ない方が適切な選択をできるのかもしれない。
 
とはいっても、全く辛くないわけでもない。
ファスティングの辛さの山場は、三日目。
「三日間」ではない。始めてから三日目、その日がピンポイントで辛い。
ファスティングを初めてやったときは、「風邪を引いたのかも知れない」と思うくらいに頭痛が酷かった。それこそ、寝込んだくらいに。
この三日目の症状は、普段の食生活が如実に表れると言われている。
珈琲やスイーツを過剰に摂取をしていれば居るほど、この三日目は辛くなるそうだ。
 
ファスティングをかなりの回数を経てきた僕も、寝込むことこそなくなったとは言え、この三日目は何かしらの違和感を感じる。
しかしこの山場を超えれば、日常を過ごすことに何の支障も無い。
 
敢えて「支障」をあげるとしたら、「食べられなくなること」かもしれない。
空腹が快感だと言いながら、食べられなくなることに支障を感じている……矛盾を感じるだろうか?
 
ファスティング中は、適切に酵素ドリンクを摂取していれば空腹を感じることはほとんど無い。
しかし、味を感じることができないということ自体が、とても懐かしくもあり、寂しく感じてくることがあるのだ。
腹を満たしたいわけではない。食欲という欲望に溺れたいわけではない。
ただ、味を感じたいと思う。
 
普段の食事で感じている甘味、塩味、酸味、苦味、旨味、そういった味を感じることそのものが、実はエキサイティングでありアトラクティブであり、娯楽なのだと思いに至る。
味覚を刺激する味だけではない。誰と何を食べどんな話をするか。どんな材料を仕入れて何を作るか。そういったことを含めて、上質な娯楽。
 
仕事中のお昼12時より10分前くらいから、現場の友人とそわそわし始めることもある。
「今日は、なに食う?」
「んー、昨日がっつり肉食ったから、今日は魚かな」
「じゃあ、あそこだ。混むからもう行っちゃおうぜ」
 
少し遅くまで残業をし、帰宅間際の誘惑もある。
「ラーメン食べて帰ろうよ」
「どこのよ?」
「前に行った、すだちの酸味が美味しいラーメン屋行きたい」
 
行きつけのお店も良いけれど、新しいお店を開拓し、当たりだ、ハズレだと一喜一憂するのもまた一興。
 
ファスティングによってそういった娯楽から一歩引いてみることで、普段の食事が楽しかったことを知る。
仕事の帰り道、いつもは通り過ぎる飲食店街。今日も結局は通り過ぎるのだけれど、いつもと違うところはその店に興味が出たということ。
これ絶対美味い奴だ。お肉が焼ける音、匂いを感じながら、メニューを見ては妄想し、舌で感じる味を想う。
今回のファスティングが終わったら絶対来よう。
 
ファスティングを終え、回復食にはよく煮た大根や、梅湯を飲む。
味も付けない、ただ昆布で煮た大根が本当に美味いのだ。舌で感じる大根の甘さ。まさに快感。
 
で、行こうと決めていたお店には行ったのか?
それがね、行ったことないのだ。
ファスティング中に行こうと決めた店には、行ったことが全くない。
ファスティングという魔法が解けてしまった僕にとっては、飲食店街は魅力的には映らず、いつものありきたりな場所に戻った。仕事終わりには素通りして帰る。
 
そんなことよりも、せっかく減らした体重をキープすることが重要なのである。
気を緩めるとすぐに戻ってしまうのでね。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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