メディアグランプリ

餅屋のクリスマス


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記事:佐野衣里(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
クリスマスのイルミネーションが輝く時期となりました。
きらびやかな電飾に心踊りますが、クリスマスが終わった後の、年越しに向かうパリッと張り詰めた空気感も大好きです。
年末というと、ある香りをふと思い出します。
 
もち米を蒸した、温かく甘い香り。
 
香りの余韻と共に、懐かしい気持ちもじんわりと浮かんできます。
 
私の母方の実家は奈良県の片田舎で和菓子屋を営んでいました。
祖父母だけの小さな店でしたが、手作りで餡を練り、生地を焼き、出来立ての和菓子を毎日店先に並べていました。
 
とは言っても、スーパーマーケットに行けば、色々な種類の嗜好品を買うことができる時代。お客さんが全く来ない、という日も珍しくないほどでした。
しかし、年末だけは、お餅の需要で大忙し。
 
神社などからは、一人ではとうてい抱えきれないほどの大きさの鏡餅の注文や、ご近所さんからも、通常の丸もちに加え、のし餅や、「ころし」と言われる半つきの餅など、次々と注文が舞い込みます。
猫の手もかりたいぐらいに忙しく、私を含む5名の孫たちにも毎年のように全員招集がかかっていました。
 
楽しい楽しいクリスマスが終わったら、朝から晩まで小餅を丸める日が続きます。
米を蒸し終わったら、餅つき機に投入。
ある程度まで餅状になると、一旦ストップ。最後は必ず「トーントーン」と大きな音を立てる杵が自動で上下する機械を使って祖父の手で仕上げます。
そして、大きなもったりとした餅の塊から、手を器用に使い、一つずつの小餅に分け、それを、孫たちが両手でコロコロ丸め、大きな板に並べていきます。
 
縦に5つ、横に8列並べるのが基本。
このお手伝いを通して、掛け算の仕組みを学びました。
 
私が小学校高学年になってからは、大きな「餅切り機」が投入。
ついた餅を機械に入れれば、ポコッポコッと自動的に一つ分に切り分けられて、ベルトコンベアーに乗って出てきます。
それを、最終的には手で形を整え、完成。
 
朝は8時すぎから、夜も8時すぎまで、毎日餅を丸め続け、気がつけば30日。31日に店の大掃除をして、親戚一同でお正月を迎えるというのが毎年の年末の恒例行事となっていました。
 
粉まみれになりながら餅丸めをしたこと、
手が真っ赤になりながらも雑巾で店中を拭き掃除をしたこと、
そして、すべて終わって大晦日の夕食に毎年恒例のすき焼きをつついたことが思い出され、何だかポカポカした気持ちになるのです。
 
当時はおじいちゃんおばあちゃんにも会えて、親戚とも合間に遊ぶことができて楽しかったな、という思いしかありませんでしたが、今は、何て幸せな時間だったのだろうと感じます。
家族に囲まれ、忙しさの中でも笑顔で、みんなで一つの食卓を囲んでいる。
湯気の向こう側には、誰かの笑顔がある。
ワイワイと肉の取り合いをする相手がいる……
 
一人暮らしをしている今、相手がいる食事ほどおいしいものはないと実感しています。
人間、生きていくためには「食べること」が欠かせませんが、人間らしく、心も充実させ、よりよく生きていくためには、「愛する人との食事」が欠かせないと思うのです。
和菓子職人の祖父を支えてきた祖母は、よく「手作りのものは、作った人の気が入っているからね!」ということを言っていました。
 
豪華でなくても、忙しければいつも手作りでなくても、いい。
「美味しいね」と言い合える相手がいたり、手を加えてくれたというぬくもりを少しでも感じることができればそれで十分。
 
子どものころ、母が昨晩の残りご飯で握ってくれるおにぎりが大好きで、炊き立てのほかほかのご飯よりも、少し硬い母が握ってくれたおにぎりをねだっていました。
そこには、大好きな母が握ってくれた、という温かさが感じられたからなのでしょう。
 
新しい年も、みんな笑顔で、心もお腹も満たされますように。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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