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メディアグランプリ

私が40代半ばで人生を変えようと思ったきっかけ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ウチヤマトモコ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
40代半ばを過ぎたある日の仕事中、ちょっと暇だったこともあって隣のデスクに座っている同僚に「なんか最近、左目の視野にもやがかかってよく見えないんだよね。このあいだ飲んで帰って化粧を落とさずに寝ちゃったから汚れちゃってるのかな」と話しかけた。
単なる雑談だったが、その子はこちらにくるりと振り向いて「すぐに眼科に行ったほうがいいですよ! 目は大事にしないと!」と結構な剣幕で返事をした。想像とは違う反応に驚いたが、その日は少し会社を抜け出せるくらいの余裕があったので近くの眼科に飛び込みで診てもらった。
 
私よりもだいぶ年上であろう、ロングヘアーをきりっとポニーテールにした迫力のある女医さんは、もっと迫力のあるハスキーボイスで言った。「会社は近いの? じゃあ電話して誰かに荷物を届けてもらいなさい。ここから最寄りの大学病院に紹介状を書いてあげるから、タクシーで今すぐ向かいなさい」
それを聞いた私は何をそんな大袈裟なとへらへら笑っていたが、女医さんの迫力に気圧されて断り切れず会社に早退届を出して指定された大学病院にタクシーで向かった。
 
診察時間も終わりかけの病院はまだまだ混雑していたのだが、紹介の電話をしてくれていたおかげで受付をスムーズに済ませることができ眼科の窓口の前のベンチに座った。私の順番が回ってくると、眼科での問診の後に血液検査、MRI、CTスキャンと次から次へと検査が行われた。
 
長い時間が過ぎて診察時間がとっくに終わり誰もいない検査室の待合で待っている間、やっと私もこれがただごとではないことに気づき始めた。
検査から検査に向かう途中で看護師の女性が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。だんだん不安が大きくなってくる。そして窓の外がすっかり暗くなったころ、ベッドを何とか確保したので明日から検査入院するようにと告げられた。
 
どうやら視界にモヤがかかっているのは、左の眼球の奥に腫瘍のようなものがあって視神経を圧迫しているからだった。その腫瘍が良性なのか悪性なのか組織を取って検査するために手術をするということだった。
「えー、何それ。腫瘍? 悪性の腫瘍ってガンってことじゃん。しかも頭に。じゃあ助からないかもしれないなあ。死んじゃうのかも」
自分がそう考えていることを少し遠くから俯瞰して見ているくらいに冷静だった。人間って本当に驚くと意外とこんな反応なのかもしれない。
 
私は会社に報告の電話を入れて明日から有休を取ることを伝え、一人暮らしの狭い部屋に帰ってから「入院時の持ち物」と書かれた紙を見ながら荷物を詰めていた。
全身麻酔をするため家族の連絡先を書かなければならないのだが、さすがに親には伝えられず姉にちょっとした検査と伝えて入院先の病院を教えた。
部屋の天井を眺めながら、この検査で死ぬことは無いと思うけれど長く入院することになったらこの部屋の家賃がもったいないな、とぼんやり考えていた。
 
翌日入院手続きをして、割り振られたベッドに横になった。ここまで来たら私にできることは何もない。そう思うとむしろ気楽だった。配られた食事を残さず食べて翌日の手術にむけて早寝をした。
 
手術は鼻の穴から器具を差し込んで腫瘍の一部を削り取るというものだった。それを組織検査して、腫瘍が悪性かどうかを確かめるのだ。
病室から手術室まで移動する間はさすがに緊張していたが、先生の説明が終わり麻酔をされるとその次の記憶はもう病室のベッドの上だった。
 
麻酔から覚めてしばらくたった後、様子を見に来た看護師さんに促されて鼻うがいの器具を買いに行くことになった。そういうグッズは病院が用意してくれるのかと思ったら、売店で買わなければならないらしい。ついでに入院中の暇つぶしが必要だと思い雑誌を買った。
ベッドの上で読んでいたら看護師さんにびっくりされた。目が見えにくいのに雑誌を読んでいることもそうだが、ガンと告知される可能性のある入院患者がのん気に「糖質オフの作り置きおかず」の特集を読んでいたからかもしれない。その看護師さんはすぐに仕事モードの笑顔に戻り、鼻うがいの仕方を丁寧に教えてくれた。
 
検査の結果は腫瘍ではなく骨異形成症といって、骨の一部が出っ張っているものらしかった。視野の問題は解決していないが、ガンではないと分かって私は心底ホッとした。
腫瘍があると聞いてからずっと、自分の心が体を離れてふわふわ空中を漂っていたのが、やっともとに戻った気がした。
やっぱり死ぬのは怖かったし、年老いた親を心配させたり会社に迷惑をかけたりしたくはなかった。
しかし心が戻ってきて、私は自分が自分のために生きたいと思っていなかったことに気づいてしまった。ショックを受けて泣いたりせず淡々としていたのは、生きることへの執着が薄かったのだと思う。
 
 
こうして人生も折り返しのこの年になって初めて、生き甲斐が欲しいと思ったのだ。
自由気ままに何不自由ない安定した生活をして幸せに生きている。だが安定しているということは、何のチャレンジもしていないことと同義なのかもしれない。
 
そこからの私は遅ればせながら生き甲斐探しをはじめ、生活を変えることにチャレンジした。
 
まずは20年以上勤めてきた会社を辞めて転職をした。この年で転職なんてできるものかと思っていたが、コロナ禍にも関わらず意外とできてしまった。久しぶりに書いた履歴書や面接に緊張はしたが、仕事をすることの意味を改めて考えることができたのは良いことだった。
新しい職場環境に慣れることや、自分の仕事の実力が問われることに不安やストレスはあったが、それ以上に周りから良い刺激を受けたり新しい知識が増えていくことは楽しかった。現在はそこからもう1社転職し、また新たな業界で頑張っている。
 
もう一つ、自分のためのマンションを買った。転職したことで転勤の可能性がなくなったので思い切って終の棲家を購入したのだ。
これは本当に大正解だった。中古のマンションを間取りから何から全部リフォームして自分の暮らしやすい部屋を作ったことで、家にいる時間が至福の時間になった。何もなくても家にいることが幸福という感覚を初めて味わった。
銀行で住宅ローンを組む時には手が震えたが、本当に買ってよかったと思っている。
 
新たなチャレンジはさまざまな喜びや苦悩をもたらす。しかしそのことで、これまで滞っていた私の人生が少しずつ動いていくのを感じた。
生きることに執着のなかった私は今、新しい仕事で結果を出して家のローンを払い終わるまでは死ねない、そう思っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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