メディアグランプリ

うちのスーパーばあちゃん


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記事:ちー(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
先週、祖母が90歳になった。祖母は隣に住んでおり、私が幼い子からいつもそばにいてくれた。そんな祖母が大きな病気も怪我もなく、健康でいてくれることが、私は本当に嬉しい。
 
「あんた、大根を食いねえ!」
玄関のドアを大きな音を立ててノックして、大きな声を立てて今日も祖母が野菜をお裾分けしてくれる。
こんなに寒いのに毎日畑に行って野菜を作る。
私の尊敬するスーパーばあちゃんだ。
 
畑には危険がいっぱいだ。
夏になると、ムカデが現れる。祖母は誰よりも早くムカデを踏み潰す。踏み潰した後、靴の裏ですりつぶす。そして「あっひゃっひゃ、またころした」と大笑いする。祖母は誰よりもたくましい。
 
ムカデにも勝る祖母。そんな祖母にも勝てなかった相手がいる。
 
 
祖父の家系、即ち、私の家は代々続く桃農家だ。
うちの祖母は20代の時に嫁いでから、90歳になった今も働き続ける超ベテランだ。
桃の収穫シーズンである夏はもちろんのこと、祖母は年中無休で畑に通う。
 
桃農家の朝はとても早い。夏は朝5時に起きて畑に向かわねければならない。しかし、祖母はもっと早く起きる。4時には起きて私と父と叔父の食べる弁当を作る。祖母は毎回大量のおにぎりを作ってくる。
「ばあさん、作りすぎじゃ。もう食べれんわ」
男が三人集まっても余るくらい毎日作ってくる。たまに多すぎて食べきれないことがある。
「男の子じゃろうが!このくらい食いねえ!」
つばと米粒を飛ばしながら叫ぶ。
そして最後には残ったおにぎりを全て自分で食べてしまう。
 
 
そんな私の大好きなスーパーばあちゃんに、一度だけピンチが訪れたことがある。
 
 
祖母はパワフルであるが故に、休憩を一切取らない。
2時間飲まず食わずで畑の中を平気で動き続ける。
私は普通のおばあちゃんを知らないが、90歳の老人は30度を超える炎天下の中、畑の中を駆け巡ることはできるのだろうか。
私や父が水を飲もうと提案しても。祖母は「もう一本ちぎってから休むあ」とバリバリ働き続ける。
作業場に帰っても祖母は休まない。私や父は畑から帰るといったんシャワーを浴びてから次の仕事をするが、祖母はシャワーも浴びない。かえったら、すぐに働こうとする。
納屋の中を忙しなく動き回る。
「おばあちゃん、少し休んだら?」
他のスタッフからと提案されても休まない。私たちの言うことには一切聞く耳を持たない。休まずに、自分の手を動かしていないと落ち着かない様子だ。まるで鳥のようにピーチクパーチクしゃべり続け、動き回る。
 
事件が起きたのは、今年の8月中旬だった。
突然、祖母の耳は聞こえなくなってしまった。
 
桃の繁忙期も終わりかけの、夏真っ盛りの頃だった。
 
「ばあさん、畑行くぞー」
「……。」
いつも通り朝顔を合わせると、祖母の声が極端に小さい。
いつもの鳥のような元気さはなく、バッテリーが切れそうなロボットを連想させる、か細い声だった。しかし、表情はいつものように元気なのだ。
「ばあさん、どうしたんな」
父が呼びかけても祖母は答えない。荷物を積む準備を始めようとしている。
「ばあちゃん、大丈夫?聞こえてる?」
私は心の中で少し覚悟した。ついにぼけたか。
大好きな祖母も年齢には勝てなかったのかと思うとさみしさがこみ上げてきた。
私と父が困惑していると、祖母が何かを言った。
「朝からの、耳が聞こえにくいんじゃ」
 
時間をかけて祖母の話を聞くと、どうやら朝起きたときから耳に何か詰まったように音が聞こえにくくなったと言う。なんとか会話は可能だった。しかし、私たちは大きな声でゆっくりと話さなければならなくなった。
それは介護施設や病院で見かける老人と介護士のやりとりのようだった。
 
突発性難聴かもしれない。
 
私たちは祖母を病院に連れて行こうとした。
しかし、
「病院なんて行けるもんか!わしは働くで!」
といつもより大きな声で言い張る祖母を私たちは耳鼻科に連れて行くことはできなかった。いったん様子を見よう。後日悪いようであれば早急に病院に連れて行くと言うことで話はまとまった。
 
「ばあさん、耳の調子はどうな?」
次の日も祖母の耳は遠かった。
「あ、なんなあ!もう少し大けえ声で言うてくれ!」
私たちは急いで祖母を病院に連れて行った。
 
病院に向かう車の中で私と父は緊迫していた。
 
「どうして昨日のうちに病院に連れて行かなかったんだ」
「大事になってからでは済まない」
そんな思いに駆られていたが、相手は何せパワフルばあちゃんだ。
病気なんてあるわけない、いつまでも元気に違いない。
そう信じて病院に向かった。
 
検査は5分で終わった。
祖母の難聴の原因は巨大な耳垢だった。普段からシャワーも浴びず、体を清潔にする習慣がない祖母は忙しいももの時期に耳掃除をすることをすっかり忘れていたそうだ。
それは巨大な耳垢だった。人の耳からスーパーボールほどの巨大な塊がとれたことに私たちは驚いた。
医師も驚いていた。
「元気なおばあさまですね。悪いところはどこにもありませんよ」
心配しすぎのようだった。
 
耳垢が取れると祖母はいつも通りに戻った。
「今日は朝握り飯作ったのに病院なんて来たけえ、食えんかったなあ」
 
今年も祖母が元気でいてくれたことが嬉しい。
来年もいつも通りピーチクパーチク元気な祖母と夏の畑に行きたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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