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メディアグランプリ

言葉のないところに生まれる言葉

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:YOKO(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
私はおととしからピアニストの清塚信也さんにはまっている。そのはまり具合は、地殻まで掘られた落とし穴に落ち込んだくらいである。あぁ、もう這い上がれないし、這い上がろうとも思わない。このまま心身ともに焼き尽くされてしまうのも本望だ。
 
きっかけは、とあるテレビのバラエティ番組だった。ショパンやベートーヴェンといった歴史上の音楽家について、親しみを感じられるように伝える話術と、その音楽性を説明するために弾く短いピアノにすっかり魅了されてしまった。おりしもコロナ禍をきっかけに清塚さんがYouTubeチャンネルを開設していて、テレビでなくても、好きなときに彼の音楽やトークに触れられたことで、一気にファンになった。
 
とても有名な人だし、メディアにもよく登場しているのでご存じの方も多いことだろう。すでにファンの方には「そうそう!」を共有し、さほど興味がないという方には「ちょっと気にかけてみようか」という機会を提供することになればいいと思う。
 
ピアノは身近な楽器だ。でも、ピアノを習ったことがない人にとっては、歌の伴奏をする楽器とか、ホテルやおしゃれなレストランでBGMとして流す曲を弾くものくらいの認識ではないか。私は、5歳から高校を卒業するまで、エレクトーンという電子オルガンを習っていたのでインストゥルメンタル(楽器のみで演奏された曲。歌のない曲)に親しみはあったのだが、それでもふだん、インストゥルメンタルを聞くことはあまりなかった。歌詞があると聞き入ってしまって邪魔になる勉強時間に小さく流すか、あるいは、少し前にショパン国際コンクールで世界第2位となった反田恭平さんのように、非日常の音楽を聴くときのみに接するという印象だった。
 
清塚さんがよく口にするのは、クラシック音楽を身近に感じてもらいたいということだ。それから、歌詞のある音楽ばかりではなくインストゥルメンタルにも親しんでもらいたいということ。
 
彼はYouTubeなどで、言葉が出るのと同じようにピアノを弾いてしまうと、時々話している。話術があるので、しゃれに紛れて言っているのだが、本当にそうなのだろう。おしゃべりピアニストとしてメディアによく登場するのは、その音楽の良さを広く知ってもらいたいからなのだそうだ。もちろん、彼の才能をメディアが放っておかないというのもある。
 
たとえば、郷愁を感じる音階について、語っていたことがある。世界各国にある民謡は、そのどれもがヨナ抜き音階なのだそうだ。音階というのは、ドレミファソラシドのようなもので、ヨナとは4つめと7つめのこと。つまり、ヨナ抜き音階とは4つめの音ファと、7つめの音シが抜かれた、ドレミソラドという音階のことで、世界の民謡にはこの音階が使われているものが多いそうだ。もちろん、音階を構成する音から、次の音へ移行するときに、つなぎとして音階から逸脱した音(経過音)が用いられることはあるので、絶対、使われないということではないだろう。アイルランド民謡のダニーボーイ、アメリカ人作曲家のフォスターがつくった草競馬もそうであるらしい。日本の歌を思い浮かべてみると、「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰につけたきびだんご…」なんか、そうかもしれない。
 
はまり出してから、日常的にピアノ演奏やピアノとオーケストラ、あるいはバイオリン、チェロなどの弦楽器との協奏を聴くようになった。そうしてみて、別に歌詞がなくても、せつない気持ちになったり、楽しくて盛り上がったり、盛り上がるけれどせつなくなったりと、感情をゆさぶられることがあるということを実感した。
 
歌詞、つまり言葉がなくてもコード進行やメロディ運び、キー、リズムでもじゅうぶん、感情は伝えられるし、メッセージが共有できるのだ。それはむしろ、言葉を介さないことでダイレクトに伝わってくるようだ。「悲しい」という言葉に乗せるより、気持ちをダイレクトに突きつけられる気がするし、「楽しい」と言われるより早く、そのうきうきした波動が伝わってくる。
 
人とのコミュニケーションは、基本的には言葉によって行われる。物語や随筆、論文もそうだし、メールやラインによる伝達もそうだ。でも、そこには同じ言葉を使わない場合、壁が生まれる。同じ言葉を使っていても、特に抽象的な言葉の場合は、ズレがあるかもしれない。
 
そう考えたら、好きな人に告白してうまくいかなかったのは「好きです」という言葉を真剣に受け止めてもらえていなかったからかもしれないという気がしてきた。「愛している」と言うとき、「初恋」という音楽で伝えたら、淡くてあまくて、繊細で壊れやすい感情のありさまがより正確に伝わるかもしれない。お別れしたいときは、その真剣さが伝わるような曲を選んで「聞いてください」と添えるのもいいかもしれない。言葉を使わないことで、より深いところで通じ合えるインストゥルメンタルの魅力を、皆さんにもぜひ、味わっていただきたい。
 
 
 
 
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2022-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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