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両親が人生を後悔していると知った時の私の気持ち


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記事:ゆか(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「仕事はどうや? 嫌になったら無理に働かんでもえんやで」。私が社会人になりたての頃、父が私によく言っていた言葉だ。それに対して私が、「大変やけど周りの人も優しいし、まぁ楽しいで」と伝えると、「楽しいんか? それならかまへんけど……」と不思議そうに笑っていた――。
 
私の父は、現在66歳。60歳で仕事を退職し、今は山に散歩に出掛けたり海で釣りをしたり、毎日好きなことをしてのんびり過ごしている。母は現在62歳。私が生まれてからずっと専業主婦をしている。
 
そんな二人のもとで育った私は、決して裕福とはいえないがお金に困ることなく幼少期から学生時代を過ごした。父は家から車で約10分のところにある会社で働いていて、残業もほとんどなかったので、朝食も夕食も共にすることが基本だった。専業主婦の母はいつも家にいて、掃除や洗濯、料理など身の回りのことはすべてやってくれていたし、厳しく怒られることもあったけれど、どんな時でも私の味方でいてくれたので、寂しい思いをしたことは一度もなかった。
 
姉を含む4人家族の私たちは、幸せな生活を送ってきたと思う。しかし、私が社会人になってある時実家に帰ると、父と母がけんかをしていた。
 
父「わしがやってきた仕事、あれは人間がやるもんじゃない! なんであんなしんどい思いまでして働かなあかんのや!」
 
工場で力仕事をしていた父は、自分の仕事がずっと嫌いだった。「なんでこんな仕事をしなければならないんだろう」。そんな思いで何十年も、そして60歳になるまで、我慢して働いてきたことがこの言葉に詰まっていた。
 
その父の発言に対して、
 
母「楽しく仕事しとる人だっておるわ! 私だって仕事を辞めずにずっと働きたかったわ!」
 
母は会社員を7年ほど経験し、出産を機に退職して専業主婦になった。仕事が好きだったこと、会社の人に自分が必要とされることが楽しかったこと、専業主婦として何十年も過ごしてきたことに後悔があるかのようなことを話していた。
 
父と母がなぜこんなけんかを始めたのかは分からない。そして翌日には、わだかまりを残す様子はなくいつも通りの二人だった。しかし、このけんかでの二人の発言を聞いた私は、あまりにも悲しい気持ちでいっぱいになった。それは、何十年もの時を過ごしてきた二人が、これまでの人生に後悔を残していることを考えると、とても苦しいからだ。
 
仕事が嫌いだった父。今でも時々、働いていた時のことが頭によぎり苦しい気持ちになることがあるらしい。そんなに仕事が嫌だったのなら、転職すれば良かったのに……と思う部分もある。しかし、専業主婦の母と子ども二人を支える一家の大黒柱としては、そんなリスクのある選択をすることは難しかったのかもとも思う。そして、父が仕事を続けていなかったら、家族が大変な生活を強いられていたかもしれないのだ。
 
仕事が好きだった母。子育てをしながらでも、仕事をやろうと思えばできたのかもしれない。しかし、今ほど家電や食料品などが便利でない時代に家事と仕事の両立はよっぽど大変だっただろうと思う。母が仕事をしていたら、私は毎日寂しい思いをしていたかもしれない。また田舎だったこともあり、家に入らない妻というのは親戚や近所の方からよく思われない空気感もあったのかもしれないと思う。子どもが自立してからは「年を重ねてしまったから今さら働くなんて無理だ」などさまざまな気持ちが足かせになっていたのかもしれない。
 
いろいろな理由が重なって、今の生活があるのだろう。過ぎ去った時間を戻すことはできるはずもなく、ただただ両親の後悔を思うと悲しくなる。それと同時に、両親の我慢があったからこそ私は今幸せに生きていられるということに、感謝の気持ちでいっぱいだ。この感謝の気持ちは、恥ずかしくて両親に伝えることはできていないけれど、いつか、伝えてみたい。そして、両親に「この人生で良かった」と思ってもらえるように、私は日々の生活を楽しく生きて、できる限り親孝行をしようと思う。
 
今の時代においても、楽しく働ける人は多くはないのかもしれない。仕事と家庭の両立に悩んでいる人も多いだろう。希望条件をすべてかなえて日々過ごすことは難しいのかもしれないけれど、我慢し続けた末にいつか後悔してしまうなら、他の道がないか考えてみてほしい。あなたの人生はあなただけのものであるが、あなたを大切に思う誰かが、あなたに楽しい人生を歩んでほしいと思っているのだから。
 
 
 
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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