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結婚詐欺師とのデートはいつも「ドトール」だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉本陽子(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
皆さんは結婚詐欺師と付き合ったことがあるだろうか?
 
普通はあるわけないし、「なんでそんなバカな奴にひっかかるんだろう?」と少なからぬ人が思っていることと思う。
 
まあかく言う私も、「そんなバカ男に引っかかるお前もバカだな」と思っている一人だった。彼に出会う前までは。
 
 
彼と出会ったのは34歳の頃だった。よくあるマッチングアプリで知り合った。
 
バツイチの43歳の外科医ということだった。彼のプロフィール写真は白衣を着て聴診器を首から下げ、微笑んでいた。外見はイケメンというわけではないが、温和で優しそうな雰囲気だった。
 
彼の方からメッセージが来て、「わあ、この人お医者さんじゃない!」と私は一気にテンションが上がってしまった。
 
早速会うこととなり、近所のショッピングセンターで待ち合わせた。
 
待ち合わせの場所に現れた彼を見た瞬間の第一印象は、今でもはっきり覚えている。
 
「この人なんか狐っぽいな」
 
直観というのは凄い。私の潜在意識はこの時点で彼の本質を見抜いていたのだ。
 
軽く挨拶をしてお茶をすることにした。仕事の合間に抜け出してきたとのことで、あまり時間がなさそうで、その時何を話したのかはよく覚えていない。
 
 
それから1週間も経たないうちにデートの約束をした。彼は家まで車で迎えに来てくれた。
 
お医者さんだからさぞかし高そうな外車なのだろうと期待してしまったが、実際にはボロボロの国産車だった。車内は散らかっており、タバコの吸い殻が灰皿には溢れんばかりにたまっていた。
 
違和感はあった。でも「腐っても鯛」ならぬ「腐っても医者」という下心が、湧いてくる違和感を右から左へと受け流していた。
 
少し眺めの良い場所に車を止めると、「そういえばこの前は名刺を渡してなかったよね」と、名刺を渡してきた。某市立病院の外科医の肩書だった。
そして「陽子の母さんにも早く会いたいな」と彼は唐突にそう言った。
 
(出会ってまだ2回目のデートなのに、呼び捨て。しかもいきなりそんなこと言うなんて……)
 
私の心の中で危険を知らせるアラームがまた鳴った。
しかし、私の中の「旦那様はお医者様」という妄想がアラームをかき消してしまった。
 
それから彼とは恋人同士として、週に1回日曜日の午後にデートする仲となった。
 
何故か彼とのデートは必ずドトール。でも私は全然気にしなかった。
なぜならドトールが好きだったし、彼といれるならどこでもいいと思っていたから。
 
病院での話、手術中の話など医者ならではの話をしてくれた。医療とは全く無縁の私は好奇心いっぱいで彼の話を夢中で聞いていた。
 
ホテルに行くことはあれど、家には一度も連れて行ってくれなかった。「父親が一緒に住んでいるから」というのが理由だった。
 
ある時彼はこういった。
 
「実は陽子に打ち明けないといけないことがあるんだ。実は僕には大きな借金があって……」
 
彼によると、10年ほど前彼の医者の友人が開業するときの資金の連帯保証人になった。しかし、友人が病気になってしまい、彼自身が代わりに借金1億5千万円を背負ってしまうことになってしまったというのだ。
 
「ごめん。だから借金を返すまでは陽子と結婚できなくて……」
 
私にとっては、1億5千万という数字はあまりに多すぎてぴんとこなかった。
と同時に、(お医者さんっていっぱい稼げるからきっと大丈夫でしょ)と思った。
 
「そうなんだ……大変だね。がんばってね!」
 
アホみたいだが、私は本心からそう言った。
その頃の私は海外旅行が趣味だったために貯金などほとんどなかった。
彼の為に稼いで借金を返してあげる! なんて甲斐性は残念ながら(幸いにも?)私には皆無だった。
 
今すぐに結婚できなくても、いつかできたらいいやぐらいに思っていた。
 
 
 
彼とのドトールデートが半年ぐらい続いた頃だろうか。
 
家でまったりテレビを見ていると、外から帰ってきた母親が怪訝そうな顔をしながら
「あんた、こんな変な手紙が郵便受けにはいっとったけど、大丈夫?」
と一通の封書を手渡した。
 
母親のただならぬ雰囲気に、胸騒ぎがした。
 
封書から手紙を取り出し開いてみると、手書きで、力強そうな男性っぽい文字の便せんが2枚入っていた。
 
「突然のお手紙で驚かせてしまって申し訳ありません」
 
という書き出しで始まっていたその文章には、身の毛のよだつような恐怖の内容が書かれていた。
 
私がお付き合いしている男性は結婚詐欺師であるということ。
結婚して子供もいるということ。
手紙を書いている本人は、以前その男に騙された女性の叔父だということ。
騙された女性は貢がされ、妊娠させられたあげくに捨てられたということ。
とても許せないので、証拠をそろえて警察に突き出そうと思っていること。
 
腹の底からムカムカして胃の内容物が口から出そうになった。
怒りと恐怖とが入り乱れると人ってガタガタ震えるのだと知った。
 
 
ここまで読んで、ある疑問が生まれた人もいるかもしれない。
どうしてこの手紙の差出人は私の住所がわかったのか。
 
この手紙には、私がその男といつどこで(何時何分まで詳細に)落ち合ったのかということを1ヵ月ほどにわたって克明に記されていた。どうやら私はこの手紙の差出人にずっと尾行されていたのだ。
 
それ自体は気持ち悪かったが、私が姪っ子さんのように大変な状況に追い込まれる前に引き留めたいという思いで知らせてくださったのだと思う。
 
その手紙を読んだ数日後に、彼から電話がかかってきたが、怖くて何も言う気になれず、「もうお別れしましょう」というと、何かを悟ったように彼はうなづき、それっきりとなった。
 
しかし気持ちはこれでは収まらなかった。手紙に記されていたことは本当なのか自分の目で確認したくなった。
 
そこで手紙に書いてある詐欺師の住所のところまで行ってみることにした。
 
郊外の新興住宅街の一軒家だった。表札には手紙に記されていた男の本名とされている名前が書かれていた。その家の前にたどり着いたとき、扉が開き、奥さんらしき女性と5歳くらいの女の子が出てきた。
 
「あの大ウソつき野郎!」と腹の底から煮えくりかえる思いが瞬間的に沸き上がった直後、へなへなと脱力してその場に座り込んでしまった。
 
結局、何が本当で嘘なのか確証は持てないのだが、それまでの違和感と手紙のおどろどろしい内容から「将来を共にすべき誠実な男性ではない」ことは明らかだった。私は本当に信頼できる友達に話を聞いてもらって居酒屋で憂さ晴らしをし、無かったことにしようと決めた。お金を一銭も貢いでいないのは不幸中の幸いだった。
 
それから10年たって思い出すこともほとんどなくなった頃、ふいに突然その詐欺師からメッセンジャー経由でメッセージが来た。
 
「陽子のことを一番愛していたのに」という、たった1行。
 
ただただ恐怖感と嫌悪感で戻しそうになった。速攻でメッセージを削除してブロックした。
 
観念せずにいろんな女性をだまそうとして、相手にされず、昔の女にカマかけてみた、そんなところだろうか。もう二度と私の人生に現れないでいてほしい。
 
 
 
マッチングアプリにはこんなヤバい男もいるということの警告になればという思いで、今回包み隠さず書いてみることにした。
 
婚活中の女性達が、どうかこのような男性に貴重な時間とお金を無駄にされることのないようにと切に祈っている。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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