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メディアグランプリ

報われない努力だってあると聞くと、思い出す話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:神田 銀平(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「以上、これがインターハイのメンバーだ。みんな気合い入れていけよ!」
「はい!」
「それじゃあ、解散!」
 
高校3年の夏、引退試合と言われるサッカーのインターハイを目前に、スタメンと補欠のメンバーが発表された。
 
サッカーは11対11で行う団体戦競技だ。
インターハイにスタメンで出られるのは、フィールドメンバー10人とキーパー1人。ベンチ入りと言われる補欠選手はフィールドメンバー5人にキーパーが1人の合計17名くらいだったと思う。
 
補欠登録されなかった選手は、交代要員にもなれないので、試合には応援することでしか参加できない。
 
そして今回、高校最後の夏を迎えた3年生の僕の名前は、呼ばれなかった。
「よっしゃ、頑張ろうな」
「出られない先輩もいるので、その分頑張ります」
「呼ばれるかどうか緊張しすぎて、心臓やばかったわー」
 
興奮を覚えたチームメイトは口々に互いを鼓舞し、インターハイという一つの目標に向かってチームが一丸となっていた、ように見えていたと思う。
 
その光景を僕は、まるで映画を見ている観客のような気分で他人事の様に見ていた。頭の中には試合終了のホイッスルが大きな音で鳴って、僕だけは終わったのだという感覚が残っていた。
 
しかし、こうなることは最初から分かっていた。という気持ちと、でも、それでも、こんなに頑張ったのに。という気持ちが心の中で荒れ狂っていた。
ウチの高校のサッカー部はいわゆる強豪校だった。そこに中学時代は卓球部に所属していたような人間が入ってきても、そんなに甘い世界ではない。という現実を思い知らされて終わり。客観的に見ればそういう話である。
 
初心者の僕にとって、強豪校の練習メニューはそれこそ地獄のように感じるものだった。サッカー部に入ってスポーツが出来る人間になりたい。という程度の決心は、すぐに折れてしまいそうになったぐらいだ。
 
この高校のサッカー部はとても人気で、ここでサッカーをするためにこの高校を受験する人もいたようだった。そのため、サッカーがめちゃくちゃ上手な人たちの中に、初心者1人だけが混ざった。
 
リフティングを5回くらいしか出来ない僕が、ベテランばかりの練習に入るのはとてもきつかった。スタミナはないし、大きいフィールドを見渡す空間把握能力や、足技なんかはひどく苦手だった。卓球部の時に培った瞬発力や動体視力だけは自信があったので、ディフェンスをすることにした。
 
2年生に上がっても、後から入ってくる後輩の方がサッカーは上手だった。
いまだに頭に思い描いたようには体が動いてくれないし、自分のせいで負けることなんてざらにあった。一時期は落ち込みすぎて自分のことが情けなくなっていた。
 
でも、僕は負けず嫌いという性格だけでなんとか持ちこたえた。途中で部活を辞めたやつと思われるのも、最初からやり通せるとは思っていなかった。と後ろ指を刺されるのは、どうしても嫌だった。
 
そして、毎日朝練に参加するところが偉いとか、初心者のわりにガッツがあるとか、筋トレや体力づくりの時に手を抜かないところがすごいと、自分にも評価される部分は少なからずあったので、諦めることだけはしなかった。
 
高校3年生のインターハイメンバーが発表された後だっただろうか。
雨が降った日は、校内で筋トレや持久走などのトレーニングを行うことになる。ウチの高校は4階建てだったのだが、1階から4階までの階段ダッシュを10往復する。というメニューがあった。
 
どうせ試合には出られないのだから、さっさと引退したい。そういう想いもなかったわけではない。だけど、相変わらず負けず嫌いの僕は、全力で階段の上り下りを繰り返していた。
 
そうしたらスタメンに選ばれている同期の声が上から聞こえた。
「サッカーできるわけでもないし、雨の日くらいサボってもよくない? だるくね?」
「顧問いなかったらオレも帰るけどね」
 
腹が立ったんだと思う。なんで選ばれた奴がそんな態度なのだろうか。その怒りエネルギーも相まって僕は彼らを全力で抜かしていった。
 
抜かした後、下から声が聞こえた。
「……あいつ、頑張ってんな」
「なんかオレらダサくね?」
「あぁダメだ、……気合抜けてた。試合出れない奴の分まで頑張んなきゃいけないのに」
 
「よっしゃあ、気合入れてこう」
 
階段ダッシュが終わったころに、一言だけ声をかけられた。
「お前のおかげでやる気出たわ、サンキュー!」
 
調子のいい奴らだと思う気持ちが無かったわけではない。それでも彼らが努力していることは知っていたし、気が乗らない時は誰にだってある。そして、お礼を言われたことで、努力は自分のためだけにするものじゃないと知った。足りない部分は他のメンバーでフォローすればいい。
そうだ、僕らはチームメイトだった。
たしかサッカー部の顧問もスタメン発表の時に言っていたっけ。
 
「試合に出れるのはたった11人だ。でもな、試合にはチーム全員で挑むんだ。分かるか?試合に出る出ないは関係ない。試合に出るメンバーを仕上げるのは試合に出ないメンバーだ。そういう気持ちで当日まで練習しような」
 
そうだった。努力は自分のためだけじゃない。頑張っている人の姿は、別の誰かを勇気づけることが出来る。そうやって頑張る姿は人に伝わっていく。
例え試合に出られなくても、僕はこうやってチームメイトと共にお互いを励まし合うことが出来る。
 
頑張ったのに報われないとか、自分はこんなに頑張っているのにと嘆きたくなる時は誰にでもある。でも、そんな風に卑下しないでほしい。あなたの努力は、きっと誰かに伝わっている。そしてその努力もきっと一周回ってあなたに返ってくる。自分のためだけじゃない。誰かのための努力だってある。報われない努力なんてない。だから、あなたの努力で報われている人も必ずいることを、どうか覚えていてほしい。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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