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メディアグランプリ

通ぶりたがり癖


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:井上遥(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
私には「通ぶりたがる」という悪癖がある。
 
面白いアニメを観ると「あぁ、この監督ってこういう展開、好きだよね」と言ってしまう。
ちょっといい感じの肉料理を食べようものなら「これは、赤ワインとのマリアージュを楽しみたいですね」とのたまってしまう。
「文章を書く時、どんなことを意識しているか?」という話の時ですら「そうですね……。私の場合、全体の構成を考える時は、いつも曲作りをイメージしていますね。まずはサビ……つまり、一番盛り上がる場面から考えて、アウトロ、イントロを紡いでいく……的な?」などとほざいている。
 
実際には、アニメを観たところで「スゲェーッ」か「泣いた」程度の浅いことしか考えていない。
ワインは飲めるが別に好きではない。ずっとビールでいい。なんなら麦茶でも可だ。というか、マリアージュって何なのだ。万年子ども舌の私はいまだにピンときていない。
文章を書く時なんて、いまだに毎回「どうやって書けばいいのォ……?」と頭を悩ませている。その度に「文章 書き方」で検索して見つけた付け焼き刃この上ない知識をフル活用してひいひい言いながら書いている。付け加えれば、作曲経験など皆無である。
 
要は「普通の人とは違う視点を持っている私、素敵でしょ……!?(うっとり)」となりたいだけなのだ。格好つけるのとはちょっと違う気がするこの感覚を、私は“通ぶる”と呼んでいる。
 
本物の“通”は心構えが違う。
真に高尚な知見・心意気を携えており、それを無意味にひけらかすことはない。一種の高潔さすら感じられるものだ。「ねえねえねえねえ他の人たちとは違う私すごいでしょ褒めて褒めて褒めて褒めて褒めて」という欲望を隠しきれず、つい適当にそれっぽいことを言いふらしてしまう私には到底至れない境地である。
それでも私は通ぶってしまう。なぜなのか。精神が未熟だから、としか言いようがない。そんな未熟者の言動など痛々しいものでしかない。この悪癖を治す術を知っている方がいるならば、ぜひご教示いただきたい所存である。
 
 
私がこの悪癖を自覚し始めたのは、高校生の頃である。
 
当時、私は「いつもの」に憧れていた。
 
は?
 
読者の皆様がそう思うのは至極真っ当なことであろう。しかしどうか私の弁明を聞いていただきたい。刑事モノのドラマなどで、渋めの喫茶店やバーでこれまた渋い登場人物が「マスター、いつもの」と店主に告げるシーンを思い浮かべてほしい。
 
――なんか“通”っぽくないだろうか。
 
「知らねーよ」という意見は一旦無視させていただきたい。でないと話が進まないので。とにかく、高校生の私は「いきつけ」のお店で「いつもの」をするのに憧れていたのだ。
 
そして、当時私が唯一「いきつけ」と呼べるのが、高校のすぐ隣にある小さなうどん屋さんだった。
美味しくてボリューム満点のうどんがお財布に優しい値段で提供されている、まさに学生の味方と言えるお店であり、私も友人たちと足繁く通っていた。多い時には週に3〜4回ほどのペースで通うくらいの愛用っぷりであった。
 
高校三年生のある夏の日、私はいつものように友人たちと三人でお店に向かっていた。おばちゃんの対応も「はいはい、いらっしゃい。いつもの席空いてるからね」と慣れたものだ。定位置である窓際の4人がけテーブルに座り、もはやメニューを見ることもなくおばちゃんを待つ。友人二人はかき揚げうどんを注文するだろうし、私はいつも通りちくわ天ぷらうどんを頼むつもりであった。
その時、私は閃いた。
 
――今なら、「いつもの」ができるのでは?
 
私の悪癖が、お腹の底からムクムクと顔を出した瞬間である。
数年来通い続けた馴染みのお店であり、おばちゃんとも顔見知りである。加えて、私はここのちくわ天ぷらうどんが大好物で、注文を変えたことはほとんどない。「いつもの」と言えば間違いなくちくわ天ぷらうどんのことだと伝わるだろう。あとは勇気を出すだけだ。
密かに決意を固めていると、おばちゃんが注文を取りにやってきた。友人二人はいつも通り「かき揚げうどん」「同じので」と注文する。
さあ、私の番だ。しかし、ここで焦ってはいけない。「え〜っと、僕は……」今日は少し違うのにしようかな? という素振りから「う〜ん、やっぱり……」というワンクッションを挟んで……。
 
「いつもので、お願いします」
 
言えた!!!
 
内心ひどく緊張していたが、かなり自然に言えたんじゃないだろうか。「は?」「何?」という表情を浮かべる友人二人は置いておいて、おばちゃんの反応を待つ。
 
おばちゃんは「はいはい! いつものね!」と言い放ち、キビキビとした動きで厨房に戻っていった。
 
注文、通った!!!!!
 
「いつものって、何?」と聞き返されなかった安堵感と、やってやったぜという達成感が全身を満たしていく。あとは「いつもの(=ちくわ天ぷらうどん)」を待つだけだ。
おばちゃんが去った後、「何、今の?」と聞いてくる友人たちに「いつもの」にかける情熱を熱弁したところ、「ふーん。どうでもいいかも」「てかそれ、むしろダサくね?」などとまくし立ててくるので、全て無視した。ロマンの分からない奴らめ。
そうこうしているうちに、おばちゃんが「お待ちどおさま!」と注文した品を運んでくる。人生初の「いつもの」を堪能すべく、私は割り箸を割り、臨戦態勢を取った。
しかし、目の前に広がる光景に、私は愕然とすることになる
 
おばちゃんがテーブルの上に並べたのは、3つのかき揚げうどんであった。
 
世にも珍しい「いつもの」失敗の瞬間である。
 
「いつもありがとね!」と笑顔を見せるおばちゃんに、私にできたことは「あへへ」とよく分からない返事をすることだけだった。笑いを堪えている友人二人の足をテーブルの下でげしげしと足蹴にした後、込み上げてくる羞恥心と空腹をかき消すべく、私はうどんの上にでんと鎮座したかき揚げにかぶりついた。
 
その時、私の中に初めて「自分にはどうやら、通ぶりたがる癖があるらしい」という自覚が芽生えたのである。
その勉強代と思えば、この痛々しい経験にも意味があったと言える……かもしれない。
 
 
 
今はもうどこかのお店で「いつもの」と注文するほどの気概はない。
しかし冒頭で述べたように、私は折々のタイミングで通ぶってしまう。
改めて振り返ってみても、通ぶったところで何ら良いことはない。ほんの一時の高揚感を得られたとしても、後に残るのは「なんであの時、あんなこと言っちゃったの……?」という恥ずかしさと後悔だけである。
これからの私は通ぶるのをやめる。ここで宣言させていただく。常に謙虚でありたい。そしていつか、本物の“通”として周りの人たちに認められるよう、自己研鑽にまい進したい所存である。
 
 
なお、先日も友人との食事会で「やっぱり鹿肉には赤ワインだよね〜」と吹かしてしまった。
 
まだまだ通への道のりは長い。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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