メディアグランプリ

付箋の貼られたテキーラボトル。付箋を貼ったバーボンボトル。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:千々岩 康治(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
今年の夏前、私は久々に行きつけのバーに行った。2か月ほどのご無沙汰だ。
かれこれ15年以上通っている。そこには私の大好きなテキーラをボトルキープしていた。
店に入りマスターに久しぶりと挨拶をし、冷凍庫でキンキンのテキーラを出してもらう。
 
なぜかマスターはニヤニヤしていた。
 
ん? 中身が減っている? 8割以上あったテキーラは4割以下に減っていた。
 
俺? こんなに飲んだか? 最近意識が飛ぶほど飲んでいないはずだが……。
よく見るとテキーラに付箋が貼られていた。
 
「美味しかった。いい酒の趣味してるな! 元気にしてるか? ○○」
見覚えのある字、名前だった。そしてこの量のテキーラを飲める人間。
私は一人しか知らない。
 
仕事でもプライベートでも死ぬほど世話になった先輩だった。
 
 
先輩は私が入職した時から世話になっている人だ。酒の飲み方を教え貰い、仕事の「いろは」を叩き込まれた。
酒で失敗した時は救急車に同乗してもらい、仕事の失敗も数えきれないくらいフォローして貰っている。
実際ここのバーも先輩に紹介してもらっている。
 
先輩は10年ほど前転職して本州に引っ越していった。コミュ力が抜群に高く、高難度の資格を取ったタイミングで引き抜きの話が来たようだ。所謂栄転と言うやつだ。私は非常に寂しかったが現状の先輩に対する職場の扱いに辟易していたのも事実だ。私は涙を呑んで送りだした。
 
 
 
そして先輩は引っ越し間際私に宿題をだしていた。
それは
「報連相をきちんとする事」
「人の話を最後まで聞くこと」
「自分と他者の命を全くの等価に考える事」
この3つをできるようになる事だった。
 
当時の私は「なんだ? このいまさらの宿題は? 出来て当たり前ではないのか?」
こう感じていた。
 
それから10年。社会人をやってきた。
先輩から独り立ちして痛感していた。この宿題の難しさに。この宿題は超難問なのだ。
 
これらは仕事の基本。出来て当たり前である。
だが出来ているのか? と問われると思わず口ごもってしまう。
実際宿題が出された後も今まで何度も自分の意見を押し通そうとしてきたし、怖気づいて逃げてしまう事が何度もあった。話もせず喧嘩をし、そのまま疎遠になった同僚もいる。
その度に情けないと若い時は自己嫌悪に陥りつつ、年齢を重ねてからは次巻き返す! と意気込むようになっていた。
そして最近気づいてきた。身も蓋もないがこの宿題は達成不可能なのだ。
極端な話をするとこれが完璧に出来るのは超人かロボット、又は出来ていると思い込んでいる人間だけだ。
 
だが「そこを目指すかどうか」は私たちでもできる。
 
先輩からの本当の宿題は「出来るようになる事」ではなく「出来るように常に努力すること」だったのだ。
先輩も達成できないことは承知のはずだ。
だがそこをあえて一緒に目指そうと誘ってくれたのだ。
 
基本が極意とはよく言うが奇をてらうような事をせず基本が大事だという事を教えてくれていた。
 
 
 
 
 
 
私は先輩の付箋を近くのコルクボードに張り付けた。そしてマスターに「○○さんこっちに帰ってきたんですか? 」と尋ねた。
どうやら定年退職してこちらに戻ってきたらしい。
 
マスターは連絡先も知っているようだ。思わず聞きそうになったが思いとどまった。
宿題も完遂していない。まだ私は連絡を自信満々にとれる人間ではないのだ。
そもそも連絡を取りたいのなら先輩から連絡が来るはずだ。
 
……というのは建前で本音はなんとなく気恥ずかしかった。
こんないたずらをしたのだから先輩も恐らくそうだろう。
お互いの希望としてはバーで自然に会うのが理想的だ。
 
一考したのち……
 
私はこの店で一番高いバーボンを先輩の名前で入れた。
 
せっかくなんでテキーラ分貰っとこうかな?
マスターと二人でバーボンをロックで飲む。美味い!! さすが高い酒は違う!!
マスターは相変わらずニヤニヤ笑っている。
何も言わずにこの滅茶苦茶に付き合ってくれた。マスターには感謝しかない。
 
そしてバーボンのボトルに付箋で
「ごちそうさまでした。やはり高い酒は違いますね! 千々岩」
そう書いて張り付けた。
 
 
時期は流れ年末、先日忘年会の帰りに一人でバーに寄った。
何気にバーボンを見ると少し減っている。付箋も貼っていない。
 
 
 
付箋は
 
 
 
 
 
私が張り付けた付箋の横に張り付けられていた。
 
マスターは何も言わない。私も何も言わない。
だがなんとなく先輩とつながっている。そんな感じがした。
 
「マスター! 俺のテキーラ!! 」
 
テキーラをショットであおる。
 
アルコールが喉を灼く感覚が心地よかった。
 
 
 
 
***
 
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2023-01-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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