メディアグランプリ

肌からひとつ、自由を得た話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村亜紗子(ライティングゼミ・京都会場)
 
 
「え?化粧水すらつけないの?」
基礎化粧品を手放したと言うと、大体目を丸くしてそう聞かれる。ファンデーションや美容液を使っていない、ならまだしも化粧水ぐらいは使うんでしょ?という内の声が聞こえてくるかのように、多くの女性はそう聞いてくる。

2年前から、基礎化粧品の一切をやめた。男性には分かりづらいかもしれないけれど化粧をし始めるころ、あるいはもう少し早くから多くの女性は朝晩の洗顔と共に化粧水、乳液やクリームといった肌を守る「基礎化粧品」を使い始める。わたし自身も高校生の頃から、思春期で小さなニキビが気になりだしたことをきっかけに基礎化粧品を使ったスキンケアを始めた。
 
今思えばそのスキンケア方法やメリットを誰に教えられたわけでもない。「クレア〇シル」や「ビ〇レ」のテレビCMで描かれる、青春の象徴のような数十秒のドラマ。その化粧品を使えば恋が実る、それどころかスキンケアを始めなければ恋をする資格も得られないのかとさえ思い込み、ドラッグストアに走った記憶がある。
洗顔料で肌を洗ったら、奪われたお肌の水分を補うための化粧水をつけ、さらにはその水分が飛ばないように蓋をする乳液やクリームが必要だという。そうか、そういうものか。思春期のウブな目や耳に刺さるスキンケアのノウハウ広告に踊らされるがままそれら基礎化粧品だけでなく、合コン前にはシートパックをしてみたり、鼻の頭に溜まった皮脂をビリビリと剥がすテープを買ってみたり。周りよりもキレイになりたい、それで素敵な男子のハートを掴めちゃったりして。そんな下心は化粧品会社のマーケティング部にしたら思うツボ、チョロいものだったのだと、今は思う。
 
十代後半からお風呂に入る、歯を磨くと同じぐらいの日常習慣となったスキンケアは四半世紀ほどずっと、一日も欠かさず続いてきた。周りの友人知人だけでなく、世の大人女性みんながしていること。それを手放すことは女性であることを放棄することに等しい、とまで思っていたふしがあるほど周到に。
保湿はスピード勝負、お風呂上りの化粧水は数分以内が命と聞けば一緒に入浴した我が子を拭く時間にもどかしさすら抱えたし、肌が綺麗な女性に会えば何の化粧品を使っているのかのヒアリングに入る。30代も半ばを過ぎ、シミしわといった肌に明らかな劣化を感じ始めるとなおさら、肌の美しい女性へのリスペクトと化粧品への依存心は高まっていった。あの美容液がいいらしい、シミにはこの美容液、これは目尻のしわに効く。そんな口コミに自分の肌コンプレックスがくすぐられ、顔に塗る化粧品は年々増えていった。最初は劇的な効果を感じる化粧品も、継続して使っていくと慣れてくるのか効果を感じられなくなる。つまらない、そうしてまた次に手を出す。気付いたらたくさんの化粧品が並ぶ洗面台。
 
きっかけは1冊の本、図書館でたまたま出会った肌断食を提唱する皮膚科医の先生が書いた本だった。肌から基礎化粧品を断つこと、肌断食。初めて聞いたけど、コロナ禍をきっかけに家中の断捨離を始めたわたしの耳と心に十分に刺さるキーワードだった。
長引くコロナ禍の緊急事態宣言で、狭い家の中に家族がスタックされたとき、なぜこんなに物があるんだ、とある日怒りが湧いてきた。使っていないけどとりあえず残されたものたち、それらが場の空気を滞らせて澱ませている感覚を解消すべく家中の断捨離をして、「シンプルで無駄がない」状態のメリットを感じていた矢先だった。
 
その本では、肌の老化を予防してくれると思っていた基礎化粧品自体が、肌にダメージを与える根拠がつらつらと綴られていた。数十年付き合ってきたあなたがまさか?!ずっと信じていた恋人に裏切られたような衝撃だった。
でも同時に、家の中も肌も同じことなんだなと腑に落ちる部分もあった。「このスカートに合うシャツがワードローブにはないから新たに欲しい」と、「洗い流してしまった油分を補給するために、水分と油分を塗る」は同じことなんだな、と。
 
それ以来、わたしのスキンケアは極めてシンプルになった。
朝起きたら、水で顔を洗う、以上。眉毛とアイメイク、チークだけの簡単な身だしなみ。メイクは自分のためというより、向かい合った相手に失礼にならないためのものになった。夜は、石けん洗顔でメイク類を落とす、以上。
日々のケアがシンプルになって楽になった、でもそれ以上に肌の扱いは以前以上に気にかけるようになった。肌にとって一番の負担は刺激だと知って以来洗うときも拭くときも丁寧さを忘れずに、決してこすらないように。肌断食を始めたころは口元に粉が吹き、顔の色ムラに凹み、年齢って肌に出るよねという分かりやすい嫌味に心折れそうになり、でもこれは一つの自分の肌を張った実験だと信じて続けていたら、2年が経った。
 
基礎化粧品を使い続けたままの自分と、やめた自分。同じ自分の肌で比較ができないぶん、どれほどの効果かを明確に語るのは難しい。だけど化粧品をやめても以前恐れていたように皺くちゃな肌にはなっていないし、シミだらけの顔にもなっていない。それどころか若いころからの悩みだった肌のザラつきが消え、目元のシミは確実に薄くなった。娘と頬ずりするとママの肌スベスベねと褒めて貰えるようになったから、基礎化粧品って無くてもいいものだったんだな、というのがわたしの結論。そして外から与えるものではなく、自身の新陳代謝に任せることで、年齢と共に変化する肌に必要以上に抗わない心持ちになったことも、ひとつメリットだと感じている。

スキンケアってまるで、子育てのようだなと思う。賢くなると聞けば高い教育玩具を買い与え、その効果に甘んじて子どもの目も見ないようなスキンケアをしていた、以前のわたし。いま必要なスキンケア代は洗顔用の純石けん代、¥100足らずのみ。高いおもちゃも高価な習いごともさせていないけれど、毎日公園で一緒に子どもと走り回り、目を合わせて微笑むような肌との向き合い方なのかなと自分では思っている。
 
肌断食、わたしにとってのメリットは化粧品との共依存のようなしがらみから解放されて、肌も心持ちも自由になったこと。
そして化粧水を手放しても、わたしはちゃんとまだ女性で居られると分かったこと。
 
 
 
 
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2023-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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