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晴れの国に住まう私より


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記事:カワマツ アヤリ(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
一般的に”晴れの国”といえば、埼玉県とか香川県とか、年間を通して天気が晴れである日が一番多い県のことを指す。しかし、私が今住んでいる”東京”。この土地も、新潟出身の私にすれば十分”晴れの国”である。
 
数年前、結婚を機に東京へ引っ越した。大学4年間を過ごした土地でもあるので、ある程度は勝手知ったる土地だ。しかし、改めて感じたことがある。それが晴れの日の多さである。
 
雪国に住む人間にとって、今まで切っても切り離せないのが雪との付き合いだった。雪道の中を歩いて登下校した小・中学生時代。豪雪でも運休しない電車が珍しく止まると、友達と喜んで自主休校した高校生時代。冬はずっと悪天候で空が暗いものだと思っていたし、青空が見れればその日はラッキーだと思った。大学四年間を都内で過ごすと、冬でも外に洗濯物が干せることや、青空が当たり前に見れる毎日に、心底驚いたものである。
 
社会人一年目、自分の車を持ってから初めて迎える新潟での冬だった。雪国に暮らす”一社会人”としてとんだ痛い目を見ることになる。
車の運転にもだいぶ慣れてきた12月中旬。いつも通り眠い目をこすりながら、身体を起こす。すると父親の心配する声が、階段を上がるドスドスという音とともに飛んできた。
「おーい! 雪積もってるぞ! 早く出た方が良いぞ〜。」
わかった〜、と寝ぼけた返事をしつつ、私は半信半疑だった。というのも、連日天気予報では”積雪が〜””寒波の波が〜”と報道されて警戒こそしていたが、結局積もったとしても数センチ……交通に支障ない程度だった。毎日いつもより早起きしても、結局”早起き損”になってしまい、この日は「もういつも通りの時間でいいんじゃないか」という気持ちだった。
どうせ今日もそれほど積もってないだろう……、そう思ってカーテンを開けた。確かに、昨日までより少し多く積もっているな、という感じ。でも、ドカッと降った感じではなく、朝の時点ですでに雪は止んでいた。大したこと無いだろう、と甘く見ていた。
 
心配し、早く家を出るよう急かす父親。生返事で心配する声を受け流しつつ、結局いつもより10分だけ早く家を出た。車を発進させ、いつもの道に出る。その瞬間、”これはまずい”と感じた。いつも家を出ると細い道を通り、大通りに合流する。時間にして5分もかからない。しかし、その細い道は渋滞しており、車が一切動かないのだ。こんなことは初めてだった。
結局、細い道を抜けるのに15分程度かかった。しかし、大通りに出ても渋滞は続く。一切進まない車の中から外を見渡す。太陽の光が雪に反射してキレイだな〜なんて思いながら、この朝は遅刻する覚悟を決めた。
大通りを進むと、数々の屍――田んぼに落ちた車――や、犠牲者――圧雪にタイヤを取られて操縦困難になった車――を見た。これは命をかけた出勤だ……。
「命大事に、遅刻してもいいから、安全第一で行こう……。」
このとき私は、そう心に誓ったのだ。
 
後になって分かったが、その日は急な積雪のため、市が出動させる除雪車の作業が間に合っておらず、十分に除雪されないまま通勤ラッシュの時間になってしまったようだ。その結果、圧雪にタイヤを取られて操縦困難になる車や、道と田んぼの境目がわからず田んぼに落ちる車が現れ、その影響を受けて各所で大渋滞が発生していたのだった。
 
結局、いつも20分程度のところ、この朝は1時間ほどかけてなんとか出勤した。案の定、会社には遅刻したが、「このひどい状況はきっとみんなそうだろう、私だけじゃないはず……」「命がけで出勤したのだから、労りの言葉だってあっていいはず……」そんな僅かな希望が、私の背中を押した。
しかし、ドアを開けた瞬間、私に突き刺さる冷ややかな視線。会社の人たちの反応は私の予想に反し、想像以上に冷たいものだった。
 
「カワマツさん、どうしたの?そっちの方、そんな雪ひどかったの?」
……大丈夫じゃないです。いや、雪はひどくなかったですけど、渋滞がひどくて。
「もっと雪がひどいところの〇〇さんはちゃんと間に合ってるのよ〜!雪の日は早起きしなきゃ!」
……そうですか、私もそれなりに早起きはしてたんですけどねぇ。
「カワマツさんと同じ市の〇〇部長、普通に出勤してるけど?」
……いやまぁ、部長はいつも出勤時間早いですもんね。それに同じ市でも、通る道がぜんぜん違うんで。
 
昨今の”なんでもハラスメントにする風潮”に乗っかるなら「スノーハラスメント」、略して「スノハラ」と言っていいんじゃないか。そう思ってしまうほどに、チクチクと責められた。確かに遅刻は悪いことだ。しかし、原因は交通麻痺のせいなのに、なんでこんなに私が責められなくてはいけないのか……。
この一件を機に、積雪予報がある日の朝は油断せず早起きするようになった。しかし幸か不幸か、この年にはその後一切、朝の出勤でこれほどひどい状況に遭遇することは無かった。
 
雪国こそ、テレワークや在宅勤務をすべきだと思う。特に当時の私はデスクワーク中心で、家でもできる仕事が多かった。「できたらいいのに、絶対できないよな、クソ田舎が…」と何度心のなかで会社を呪ったことか。
田舎の小企業や、業種によっては対応が難しいことは重々承知している。また、地方は都心に比べ、必ず出勤しなければいけない人の割合が多いことも分かっている。それでも、雪の大変さを身に染みて分かる人間のコミュニティだからこそ、冬の出勤についてはもっと寛容になれればいいと思う。正直私は、そんな人間関係の窮屈さがあったからこそ、結婚を機に”喜んで”転職をした節があったから。
 
今や”晴れの国”に住む私がとやかく言っても、「高みの見物じゃないか」「偉そうに、田舎のことを分かってない」と思われるかもしれない。だが私は、クソ田舎だけれど地元が好きで、いつか戻りたいと思っている。だからこそ、”もっと働きやすくなればいいのに””みんなが寛容になれればいいのに”と思って止まないのだ。
私が愛する土地に暮らす人たちが、心身ともに健やかに生活を営んでゆけるよう、晴れの国から願い、そして想い続けている。
 
 
 
 
***
 
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2023-01-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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