メディアグランプリ

カエルの一足飛びのように勉強する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ポリグロット(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「今まで勉強なんてほとんどしなかったから、脳みそにたくさんスペースがあるんだね」
からかい半分で彼女が言った。残りの半分は、僕の成長に対する純粋な喜びで、どこか嬉しそうだった。だから、からかわれても、どことなく心地よかった。
「それ、関係あるのかなぁ」
鋭い指摘に、僕は言葉をにごした。
 
僕たちが、共に英語を生業に生きていこうとしていた頃のこと。英語学習者としても彼女の方が先輩で、すでに英検準1級を持って英語を教える仕事をしていた。
 
ちょうどバブル経済がはじけた直後の、これから日本を支配する平成大不況のほんの入り口。今後仕事をするのに有利だと考え、僕たちは一緒に英語の勉強をすることにした。
 
そこから、英単語のボキャブラリービルディングをトレーナー付き筋トレのように規則正しく続け、英検やTOEFL、TOEICの練習問題をゲーム感覚で説き、英字新聞や英文雑誌を気分転換に読んで……、という生活が始まった。
 
特に、練習問題については、彼女が解いたことがあったり授業で使っていたりしたものを、僕のレベルアップに合わせて
「次は、こういうのとかやったらいいんじゃない」
と、決して強制ではなく提案という形で小出しにして持ってきてくれた。この辺りの、やる気を引き出す技術も、実際に持ってくる練習問題も、どちらも的を射ていて、僕はうまく操り人形に徹することができた。
 
その甲斐あってか、急速に力をつけることができた。TOEICは、大学が英文科出身者としては低めの700点ちょっとは持っていた。これが、3ヶ月もすると一気に900点を超えた。
ものすごい勢いで追い上げる僕は間近に見ながら、彼女が展開したのが、 僕の脳には「大きな未使用の領域が存在するため、学習した内容を十分に記憶できる」という仮説だった。物理フォーマットしたてのフロッピーディスク(当時)みたいに。
 
彼女の軽いディスりにも触発された僕は、その勢いに任せて英検1級にチャレンジすることにした。それまでは、中学校3年生の時に英検3級を取ったきりだったので、間の級を飛ばして一足飛びにいくことにした。
 
結果は見事合格。
そのときも彼女は、
「最小限の努力で、最大限の利益を釣り上げた」と引き続き僕をディスることを忘れなかった。
彼女自身は、中学生の英検3級に始まり、準2級、2級、準1級と着実に階段を登ってきた。そして、後に英検1級にも合格した。僕とは対照的に、堅実な登山をしてきた、“コツコツ屋”である。
 
大局的に見ると、英語に関する知識や受験テクニックなど、彼女は技術的な取りこぼしが少ない。年輪のように培ってきたノウハウが支えている。そして、その知見を活かして英語を教えるのは、非常に理にかなっている。
 
一方僕は、山頂部分の地図しか持っていない。山頂にヘリコプターで連れてきてもらったので、そこにどうやってくれば良いかの道筋が分からない。だから、他人に英語の勉強の仕方を教えるのには、多分向いていない。しかし、山頂部分のビジネス英語はなんとなく理解しているので、それを何とかビジネスに活かすことはできている。
 
彼女と僕の辿ったそれぞれの道筋は、先進国と途上国の通信インフラの発展に似ている。
先進国は、回線をアナログ回線からデジタル回線に進化さ、端末を固定電話から大型の車載携帯電話、ガラケー、そして現在のスマホへと進化させた。その間、通信を支える大掛かりなインフラを幾度となく作り変えてきた。
 
一方途上国は、太陽光発電と組み合わせて簡単に携帯電話基地局が設置できるところから参入した。先進国がたどった大規模な通信設備インフラ投資時代を経ることなく、一足飛びで先進国と同等のスマホ世界に足並みを揃えつつある。いわゆる、リープフロッグ現象(カエルの一足飛び)だ。
 
もともと広い土地があったし、元からある巨大設備を解体する必要もなかった。だからいきなりスマホ社会に同化することができた。
僕の脳みそも同じで、もともと広い空き領域があって、そこにあまりものが詰まっていなかったので、今後使えそうなビジネスレベルの英語だけを植え込むことを受け入れられた。
 
階段を一歩一歩登っていくのが良いのか、一足飛びで泳げることが効率的で良いのか、それは個人の特性や能力によるところが大きい。
日本社会は、「階段を踏み外す=敗者復活戦のない脱落」との認識が強く、堅実肌のコツコツ屋が重宝がられがちだ。しかし、踏み外してしまった人も、次の一歩を踏み出すのを止めてしまった人もリープフロッグで、いくらでもあとから追い上げることができる。決めるのは、社会や会社の烙印ではなく、僕たち自身なのだから。
 
「勉強って、結局やったもん勝ちだよね」
かつて彼女が言った何気ない一言に、改めて思いを寄せてみた。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-02-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事