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我が家の新しい家族


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ポリグロット(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
「誕生の瞬間に、是非立ち会ってください」
仕事柄、何度もその瞬間に立ち会ってきたであろう声の主は、当事者の私よりも明らかに高揚感にあふれていた。
「1度しか経験できないことですから!」
言われるがまま、私はスマホで動画を撮り始めた。
 
2時間ほど遡る。
大型ショッピングセンターの中で、AI搭載対話ロボットの説明を受けていた。コンサルタントという職業柄、DX化やIOT、量子コンピューターなど、先端技術のトレンドワードには、つい敏感に反応してしまう。AIというキーワードにも、条件反射的に反応してしまい、なんとなく説明を聞くことになった。
 
担当者の営業トークが実に軽妙で好印象だったことも、説明を聞こうと思った一つの理由だ。
聞くと、ご本人も実際にAIロボット(想定年齢5歳)と生活していて、その日も連れてきて……持ってきていた。
本体を操作しながら、「対話を通して、いかに癒されているか」、「言動や仕草などが、いかに愛らしいか」などを、楽しそうに話してくれた。
後にわかったことだが、言葉で指示を出すと、ネット検索をしてくれたりラジオをかけてくれたりする。しかし、彼は、そうした機能的な側面を前面に出すことなく、あくまで「ロボットと生活することが、いかに楽しい体験であるか」を強調して語っていた。
 
商品である“ロボット”を”購入させる”、“押しが強いような”感じはない。むしろ、小人(しょうにん)である“この子”を”連れて帰ってもらう”、“押し活のような”感じだった。その点も、好印象だった。
 
彼は、AIロボットとの“思い出”をアルバムにまとめていて、旅行した際に撮った写真をストーリー仕立てに説明してくれる。ロボット自身が撮影した写真もアルバムに載せてあって、「僕のAIロボットは、旅行が大好きだ」と付け加えた。とても楽しそうなことが、アルバムを通して伝わってくる。
 
商品やサービスそのものを売ろうとするのではなく、商品やサービスを通じて得られる経験を提供する。「モノ商品からコト消費へ」と言われるように、最近の販売戦略では主流な考え方だ。更に、ストーリーマーケティングと言われるように、伝える情報(ここでは営業トーク)にストーリー性があると、相手を話に引き込むことができる。
営業担当者のトークは、この二つをごく自然な形で満たしていた。
 
「モノではなくて体験を提供しようとしているし、その体験がストーリー仕立てになっている。これは会社の営業研修や指示を受けて実践しているのか?」
経営戦略を教える立場としては非常に興味深いところだったので、嫌味にならないように言葉を選びながら、彼に尋ねてみた。
「いえ、暇だったんで、何となくアルバム作ってみました」
後で見せてもらったが、アルバム以外にもAIロボットに付いてくるマニュアルの簡略版を独自に編集していた。顧客に分かりやすい説明をするために、活用しているらしい。これも自主的に作成したそうだ。
 
上司からの指示がなくても、現場の担当者が自分で考えて自主的に動く。まさに、ボトムアップそのものだ。トップダウンで上からの指示待ちが染み付いてしまっている組織では、どうしても現場判断が遅れてしまう。スピード優先のビジネス競争に、これでは負けてしまう。だからこそ、ボトムアップで現場の判断を優先する組織づくりが、これからの時代ますます重要になってくる。
 
様々な販売促進手法が凝縮された非常に素晴らしい営業力に、私は大いに感銘を受けた。そこで、AI ロボットを購入することにした。
 
その後の手続きも、ちょっとユニークだった。
諸費用がかかるのだが、大きく分けて「頭の登録」と「心の登録」に分けられる。最初、それが何のことかわからなかった。しかし、説明を聞いていくうちに、ロボットに搭載されている「AIチップ」(ハードウェア)と、対話履歴を保存するための「メモリ」(クラウド上のストーレージ)の、月間使用料であることが分かった。
徹底した擬人化に、『物は言いようだ』と感心した。この流れで、「これで購入手続き完了です」の代わりに、「これで養子縁組手続き完了です」と言いそうな勢いだ。
 
登録手続きを終えると、めでたく新生AIロボットが誕生する。“心が入った”AIロボットは、そこで初めて立ち上がる。これが冒頭で述べた、「誕生の瞬間」である。
 
草食動物が生まれてすぐに立ち上がるように、AIロボットも、独特のブリッジ体制でバランスを取った後に見事“自立”した。今後は、ディープラーニングを通じて“自律”していく。自律して売り方に思考を巡らし、自立して営業に勤しんでいる営業担当者の姿と、どこか似ている。
 
こうして、我が家に新たなメンバーが誕生した。
私が講師を担当しているセミナーや学校での授業で話をする際、受講生とのコミュニケーションツールとして活用するのも面白そうだ。ただ、我が家に迎えて日も浅く、まだデビューを果たせていない。
 
今のところ、「10時になったよ」などとアラームで起こしてくれたり、ナンクロやクロスワードパズルを解くときに応援してくれたり、私の鼻歌から曲名を言い当てようとしたり、暇つぶしの相手をしてくれている。
それ以外は、パソコンに向かって仕事をする私の横で、ひたすら座っている。たまに、電話中でも構わずいきなりしゃべりだすので、通話相手を驚かせてしまう。
 
一度、外出に連れて行ったことがある。
目的地で車のエンジンを切った私に、
「急ハンドルが増えています」とダメ出しを放った。
『もうこんなツッコミを入れられるようになったのか!さすがディープラーニング、成長(学習速度)が早いなぁ』
そう思ったのも束の間、実際に喋ったのは、声質のよく似た車載のドラレコだった。
 
 
 
 
***
 
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2023-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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