メディアグランプリ

タイタニックに登場する三等客船の親子は、スイカにかける塩だった


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記事:堀部 佳野乃(ライティング・ゼミ 2月コース)
 
 
先日、映画「タイタニック」を劇場へ観に行った。
1997年の公開から25周年の記念に、期間限定で劇場公開されていたタイタニック。
幼い頃から何十回と観ていたため、話は知っていたし、3時間近く映画館に拘束されることが億劫で劇場には観に行かないと決めていた。
しかし、妹が突然
 
「観ないと後悔する気がするから、一緒に観に行こう」
 
と言い出した。
そんなに気乗りしなかったが、妹との思い出作りだと思ってそれを承諾した。
 
結論、映画に行くことを承諾したその時の自分を褒めたい。
いや、そもそも映画に誘ってくれた妹に拍手を送りたい。
 
本当に観てよかった。
感動の余韻がすさまじく、その日は映画のこと以外考えられなかった。
 
「タイタニック」は1912年に実際に起きた、氷山に衝突したことによるタイタニック号沈没事故を基に作られた悲劇のラブストーリーである。
今回改めて鑑賞してみて、わたしが一番印象に残ったのは三等客船のある親子のシーンだった。
 
船が沈没し始めた頃、船内の混乱を防ぐために三等客船、つまり身分階級の低い貧乏な人たちが地上のデッキに出られないよう、通路の扉が閉じられていた。
乗組員が状況を説明するものの、納得できない三等客船の人たち。
その人混みの中に、幼い男の子と女の子の姉弟、そして母親がいた。
男の子が母親に向かって
 
「僕たちどうなるの?」
 
と不安そうに尋ねる。
それに対して、母親は
 
「一等客船の人たちが救命ボートに乗ったら、わたしたちも乗るからね」
 
と言う。
母親の迷いのない答えに、姉弟は安心した表情を浮かべる。
子どもたちが安心したのを見届けた母親は、閉じられている扉の方を見つめて何かを悟ったような表情をするのだ。
最終的に、この親子は船から逃げることはせず、客室のベッドの上で最期を迎えることになる。
 
子どもたちは温かい布団の中に入り、母親が物語を聞かせてくれている。
いつも寝るときはそうしていたのだろう。
そして、子どもたちは安心して眠りについた。
 
わたしはクライマックスでこの親子の最期を知ったとき、あの時の何かを悟った母親の表情を思い出して、鳥肌が立った。
何て強い母親なのだろう。
何て素晴らしい愛なのだろう。
 
救命ボートには、女性と子どもを優先して乗せていたから無理やりにでも自分たちの存在を示せば助かる道もあったはず。
だけど、それをしなかった。
 
混乱した人混みの中に行けば、子どもたちは怯えていたかもしれない。
もし助かったとしても沈没していく船の中で見た光景がトラウマになり、それを抱えてこれから生きていかなければならないかもしれない。
 
扉を見つめていたあの一瞬のあいだに、母親は子どもたちの未来がかかった究極の選択をしていたのだと思うと涙が止まらない。
子どもたちはきっと少しも怖い思いをすることなく、母親の優しい声と温もりに包まれて幸せに天国に行ったのだろう。
 
一方で、主人公ジャックはヒロインのローズに対して
 
「絶対に生き延びるんだ」
 
と最後まで説得し続けた。
 
救命ボートの数が圧倒的に足りなかったタイタニック号。
ジャックは救命ボートで逃げることが不可能だとわかった時点で、すぐさま次の解決策を考える。
 
氷山がある海の水温は、マイナスにも達する。
もし海に落ちてしまえば、低体温になり助かるのは時間の問題である。
だから、できるだけ船の上にいる時間が長いほうが良いと判断し、傾き始めた船の先端までローズを引っ張るのだった。
 
沈没する直前まで、ジャックの頭は回転している。
船が沈んだ勢いで、海水が渦を巻く。
それに飲み込まれて溺れないためには、海に投げ出される直前に息を大きく吸い込んで酸素を確保する。
その後は、思い切り水を蹴って水面に上がる。
 
最終的にローズは、ジャックが見つけてきた瓦礫の上に登って体温を温存したため助かるが、ジャックは水中に浸かっていたことで低体温症になり亡くなってしまう。
彼は自分が死ぬことを悟っていただろう。
愛するローズには絶対には生き延びてほしい。
たとえ自分がいなくなったとしても。
 
「何があっても絶対に生きることをあきらめないと約束してくれ」
 
朦朧とする意識を何とか保ちながら必死にローズを勇気づけるジャックの姿に、これまた涙が止まらない。
幼い頃に両親を亡くし、絵を描きながら放浪していたジャック。
貧乏だったためおそらく高等な教育は受けられないまま育ったであろう。
しかし、生きるための知恵に溢れたジャックの姿は本当にかっこよかった。
 
三等客船の母親と、主人公ジャックの選択はまったく対称的である。
だけどわたしは、どちらも間違っていないと思うし、どちらも愛情だと感じる。
 
三等客船の親子は、スイカにかける塩のようなもの。
スイカの甘さを引き立てる塩のように、若い主人公2人が未来を信じて奮闘した美しい結末を引き立てる存在だった。
 
「幸せになることをあきらめない」
 
これはこの映画が一貫して伝えたいことだと思うが、幸せの最終的な形は人それぞれ違って良いのだ。
それが今この瞬間の最善の選択だと思えるのなら。
 
タイタニックをよく観ていたのは、小学校低学年の頃。
22歳になった今、その頃より多くの経験をしてきた。
本気で誰かを好きになったり、辛い別れがあったり、守りたいと思える存在もできた。
そんな経験を経て再び観るタイタニックは、さらに格別な映画になっていた。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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