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『アダルトチルドレン~あの子が憧れたロングヘア~』


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:のもちゃん(ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
昭和の終戦から30年近く経とうとする坂の街で、
家の前の石段にちょこんと立っている1歳の幼女の写真が手元にある。
カメラを撮っているのは親なのか?
カメラのほうをにこりと笑うわけでもなくじっと見ている。
 
この幼女は私で、数少ない幼い頃の写真である。
 
私はいわゆる貧乏な家で育った。
住んでいる家は木造のアパートで、
家の中は貧しい家にありがちな、部屋が狭いのに物が多く掃除が行き届いていない家だった。
 
そういう家でも親の愛情があれば子どもは自己肯定感を育むことができるが、
うちの親は子どもの心をつぶすような言動をよくする人であった。
 
私は幼い頃は家の前の石段を下ってすぐの床屋さんに髪を切りに行っていた。
 
床屋さんの棚にはけん玉や少年漫画が置かれており、待ち時間にけん玉で遊んだり、天才バカボンのマンガを読んだりしていた。
 
いつもカットしてもらう髪型は決まっていて、かっこよく言うならベリーショートですらりとした女の子だったら似合いそうなヘアスタイルだが、
ちびまる子ちゃんのわき役にでも出てきそうなぼんやりとした印象の私に、
そんな難易度の高い男の子のような短髪が似合うはずもなくせっかく髪を切ってもらっても全然嬉しくなかった。
 
5歳年上の姉も同じ床屋で切っていたが、姉のほうはかわいいおかっぱに切ってもらっていた。
ある日、母に「のもちゃん(私)も姉ちゃんみたいに髪を切りたい」 と言ったところ、「のもちゃんはおかしいから似合わない」とにべもない返事だった。
私は黙ってしまった。
次に床屋に行った時も結局全然好きじゃない短い髪に切った。
 
姉は確かに優し気な可愛らしい顔立ちだった。
それに比べて、私はいつも口をへの字にしていて可愛げがなかった。
親は可愛い姉を大事にして、私の誕生日に姉の分までプレゼントを買ってあげていた。
姉の誕生日に私の分までプレゼントをもらった記憶はない。
 
育ててもらったのは確かだが、心を削がれるような思いをすることが多かったので親のことは好きではなかった。
姉は思春期の頃には我儘ばかり言い、5歳年下の私を可愛がることもなかった。
本当に自分のことしか考えていない……と、自分勝手な姉を反面教師に見ていたせいもあって、
小学生中学年の頃には私はなるべく我儘を言わないようにしていた。
 
今思えば、姉は学校での友人関係などでストレスがいっぱいだったのだと思う。
私が小学生の頃は高学年になるとランドセルではなく、市販のバックで登校する子が多かった。
そのほうがかっこいいというのもあっただろうし、今ほどランドセルが綺麗な状態で6年間使えるほど丈夫でなかったということもあるかもしれない。
 
高学年の姉は赤いバックを学校用に使っていたが、ある時から持っていかなくなった。
親が理由をきくと 「トイレに落とした」 と答えたらしい。
学校でトイレの中にバックを持って入ることはない。
あとで考えてみれば、いじめに近いことがあったのかもしれない。
同級生にわざとトイレに落とされたのかもしれない。
姉に聞くことははばかれたので、想像でしかないが……。
 
中学は公立に行くのが普通だった時代に、
姉は私立中学に進学を希望した。
 
うちの経済状況からこれはかなりの負担だったはずで、
これには親の反対だけではなく祖母の家に行ったときに祖母からも姉は説得された。
そうしたところ、姉は祖母宅から家を飛び出してしまった。
夕方には戻ってきたがよく知らない土地でふらりといなくなったのだから、
親や祖母たちはけっこう慌てていた。
 
こうした反対を押し切って、姉は私立中学に入学した。
その選択は正しかったようで、内弁慶だった姉は気の合う友人ができ楽しい学校生活を送った。
そして大人になった姉は3人の子の母になり、周囲の人を気遣う優しい人になった。
 
一方、思春期に入る前から我慢することが当たり前だった私は、大人になってからもこじらせたままだった。
私は50歳になり10年前には両親は他界し、
今更反抗も我儘もないのだが、育ち切れなかった幼児が心の中にいるのを感じる。
人から距離を置くことで安心する、自分ではどうすることもできないバリアが常に張り巡らされている。
姉のことを思うと、子どもは子どもらしく幼い時に思いっきり反抗したり我儘を言ったほうが健全に育つということなのだろう。
 
2年ほど前に1歳の頃の自分の写真を久しぶりに見つけた。
写真を手にとって、まだ物心のつかない頃の赤ちゃんから幼児になろうとしているのもちゃんを見て、
「この子が大きくなったときに幸せと思える人生を送ろう」と、
すでに大人になっているのもちゃんである私は、
心の中で小さなのもちゃんを抱きしめながらそう誓った。
 
今現在、幸せなのか? ときかれると世間一般でいわれる幸福な状態とは違うだろう。
貧乏ではないが裕福でもなく、夫は病気で障害が残り、まだまだ学費のかかる育ちざかりの子どもがいて、
周囲の人には大変と思われているようだ。
 
けれど不幸かというとそうではない。
ここ数年間の苦境もなんとか乗り越えられてきた。
夫はもとの職場に復帰をすることができ、
私は夫の療養中に国家資格を取得し、転職した。
上の子は希望の学校に進学し、下の子は勉強はそうでもないものの友人に恵まれ楽しそうに過ごしている。
 
わたしの座右の銘は 「ひとつ学んでひとつ手放す。 毎日、そのくり返し」 で、
読書記録用のインスタグラムのプロフィール欄にも記載している。
 
本を読み続けること、学び続けること、
新しいものを吸収し、そぐわなくなったものを手放していく。
 
毎日、小さなチャレンジを積み重ねていくことで、
苦しい時も自分を見失わず、常に最善の道を探して切り拓いていけると信じている。
 
最近は、人生で初めてロングヘアにすることに挑戦している。
子どもの頃に似合わないと諦めた女の子らしい髪型に50歳の今、やってみたいと心が動いた。
年齢もあり、この年代が最後のチャンスかもしれないという気持ちもある。
 
今は肩あたりまで伸びており、自分でいうのもなんだがけっこういい感じに似合っている。
髪が横顔にさらりとあたるとき、なんだか新鮮な感覚に幸せなひとときを感じて、
あの子の願いをひとつ叶えられたことが嬉しくて、
これからもたくさんの幸せに出逢える気がしてたまらないのだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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