メディアグランプリ

何をやっても続かない人に伝えたい たまごっちの話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩間愛(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「完璧主義は、人生を破壊する!」
スマホ画面の向こうから、隙を与えない強い言葉が耳へと流れてきた。大量の本に囲まれた男性は、論文にある研究結果を元に淡々とその理由を説明していく。
 
完璧主義者というのは、失敗を極端に恐れ、凹みやすく、そのような想いを抱くくらいなら挑戦も努力もしたくない、という考えに至る人たちのことらしい。
なんだ、私のことか。思い当たる節しか出てこない。
何を隠そう、私はたまごっちで完璧主義が開花した人間である。
 
人生を破壊するらしいそれが芽生えたのは小学生の頃だ。
当時、たまごっちと呼ばれる卵型の育成ゲームが流行っていた。小さな画面内で命が生まれ、子供たちはそれをかいがいしく世話するのだ。生まれたときの姿は黒くて丸い小さな生物。そして少し育つと大福のような可愛い姿に成長する。ここまではみんな同じ。
 
私には理想とするゴールがあった。
まめっちに育てあげることだ。登場するキャラクターの中で一番可愛い姿をしていたと思う。熊のようなウサギのような、目がくりっしているそのキャラクターがとにかく欲しかった。
 
かなり慎重に世話をしたと思う。お腹が空いていないか細かく確認し、トイレも絶対に放置しない。定期的に遊んであげ、機嫌も必ずとってあげた。もちろんしつけも忘れない。
そう、私の完璧な愛情がたまごっちに注がれていた。
 
ある朝、小さな画面の中にいたのは、目が小さなペンギンのような生物だった。
何度見ても私が知っている可愛い姿はいない。あんなに時間を費やして頑張ってきたのに、この様である。私が欲しかったのはまめっちであって、ペンギンではない。
 
「こんなの育てたくない……」
人生で初めて味わう絶望感だった。ショックが強すぎてゲーム機を放置した。ご飯もあげず、トイレもそのまま。知らない間にペンギンは幽霊になっていた。死んでしまったのだ。
 
気を取り直して卵からの育成を再開した。
次は少し早い段階でクチバシがついた生き物に育った。全然可愛くない。でももしかしたらまめっちになるかも……そんな淡い希望を抱いて世話を続けるが、残酷にもクチバシが残ったまま大きくなった。2回目の育成にして既に心が折れそうだった。そしてまた幽霊にするのである。
 
結果だけ言ってしまうと、まめっちとは対面することなく私のたまごっちブームは終わった。3回目からはもうクチバシしか生えなくなって、育てる時間よりも、死を待つ時間の方が長くなっていった。再挑戦も努力することも私は放棄したのである。
 
幼い私は、たまごっちを殺すことで完璧主義を身につけたのだ。
 
理想から外れたら、なかったことにする。中途半端は許さない、0か100だ。凹みやすいから失敗はしたくない。だからできそうなことしか挑戦はしない。失敗を予感した時点で放棄するズルさも手に入れた。無論、原因の追求や対策なんて努力もしない。
完璧主義というものは、生きる上で本当に最悪なものだと私は知っている。
 
あれから十数年、たまごっちを殺すような人生を送ってきた。
少し字が汚くなっただけで使うのをやめた新品のノート。英語を身につけたいと購入した参考書は、1ページしかめくられていない。冷蔵庫で腐っていく野菜たちは、自炊のために買い込まれたはずのものだ。高価であればきっと練習が続くと信じて買った30万のギターは、完全に宝の持ち腐れになった。
スタートダメなら全部ダメ。本当にどうしようもなかった。
 
殺せるものは物だけではない。
自信があった絵を描くことも、もっと上手な人が現れてからやる気をなくした。楽しくて向いてると思えたダンスも、人間関係がきっかけで躍ることごと辞めた。音楽もカメラもモデルもカウンセリング業も、同じ調子で諦めていった。
その程度の情熱だった、としか思えなかった。才能のなさに絶望し、何が好きかもわからなくなり、世の中のすべてに一切の興味を持てなくなっていった。
 
しかし、ここまでやり続けると嫌でも気づくことがある。
 
私はまめっちが欲しくて必死にたまごっちを育てていた。それはまめっちを手に入れた自分が理想の姿だったからだ。なんと私は、その理想を追いかけて積み重ねた過程ごとなかったことにしていたのである。失敗だと思っていた可愛くないペンギンは、実はまめっちの次に育て上げるのが難しい生物であると後になって知った。
「失敗」のひと蹴りで、私は限りなく成功に近い努力を殺していたのだ。
 
もし、何をやっても続かない人がいたら、これだけは覚えていて欲しい。
途中で投げ出したとしても、そこまでやってきた過程はなくならない。そしてそこに価値をつけるのは、少し未来の自分である。なかったことにしては勿体ない大切な体験であることを伝えたい。
どんなに時間が経っても、ジャンルがまったく違うことでも、あなたの体験はしっかりとすべて人生に引き継がれている。
 
私はまめっちを手に入れることはできなかったが、本当に欲しくて注いだ情熱があったことを思い出すことができた。もしかしたら思っている以上に自分は頑張り屋かもしれない、と今では思えるのである。
そんな風に、なかったことにしてきた経験があるなら思い出してみてほしい。
挫折の数だけ、あなたの武器がきっと眠っている。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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