メディアグランプリ

小さい頃の私から教えて貰ったこと

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:島本智恵子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「お母さん、手伝わないでください!」
突然、保育士さんに言われた私は、思わず反論した。
「まだ、この子、荷物持って行けませんけど?」
一体、何を言ってるんだ、この保育士さんは? と思ったことを覚えてる。
 
小さい頃、近所の子ども達を引き連れて、裏の雑木林の中を秘密基地に仕立て上げ、敵味方に分かれて追いかけっこをした。落ち葉が重なり過ぎているところは、足を滑らせやすいので、なるべく重なっていなさそうなところを選んで、次の一歩を出す。そこここにある竹の切り株は、斜めで尖っている。その上でコケたら刺さるよね。と嫌な想像をしながら、コケて怪我をしないように、右! 左! と体の向きを変えながら避けて走る。足元を見つつ、自分の目の前にも危険なものがないか目を凝らしながら走っていく。危険を察知して、回避しながらやる追いかけっこは、最高に楽しかった。
雑木林の中にある急斜面は、滑る降りるのにちょうど良い感じに落ち葉が積み重なっていて、即席の大きな滑り台になった。あの頃はまだ「そり」なんてものがその辺に売ってるような時代じゃなくて、ズボンのお尻の部分を土で真っ黒にしながら、何度も何度も滑り降りた。「恐怖の滑り台」なんて名前をつけたくらい、勇気がいる滑り台だったけど、なだらかな斜面よりも、急斜面の方が、滑り降わった時の爽快感がたまらなかった。
近くの田んぼの畦道は、バランス感覚を鍛え上げる平均台になったし、田んぼと田んぼの間の用水路は、走り幅跳びの練習場みたいになった。落ちたら終わり。だけど、そのドキドキがたまらない。天然の「SASUKE」だ。
お気に入りは、近所の人の畑に生えてる大きな木の上。一本一本枝を登っていくと、段々と地面が遠くなっていく。それと同時に、見えてる景色が段々と変わっていく。さっきまで見えていた家の窓は、下の方に下がっていき見上げないといけなかった屋根が近づいてくる。そして、なんだかいつもより遠くまで見えているような気がしてくる。そうやって、その木に登っていると、木の上に私がいるのに気づかずに下校する友達が、通り過ぎていく。「あぁ、気づいてないな。ここに私がいるってこと。私が木の上にいて、みんなのこと見てるだなんて、思ってもいないだろうなぁ」と、一人ほくそ笑んでいた。
 
娘を連れて実家のある佐賀に帰ってきた私は、こんな風に自分の娘達も自然の中で遊びまくって、楽しい時間を過ごすんだろうなぁと想像していた。
しかし、私よりも先に子育てを始めていた地元の友人に話を聞いてみると、どうやら、今の子ども達は、そんな風に遊ぶ子はとても少ないらしい。
友達の家に集まって、ゲームをやってるかテレビを見たりして過ごしている子が多いよ。とのこと。これは、このままじゃやばいかもしれん。と思った。
あの楽しい時間を娘が味わわないで大きくなるなんて、絶対に嫌だった。
 
そんな時に出会った外遊び中心の保育園。見学に行った私の目の前に、小さい頃に野山を駆けずり回って遊んでいた私みたいな子ども達が居た。公園の芝生の斜面を裸足で四つん這いになって登ってみたり、水溜りを海に、草履を魚に見立てて、みんなで釣りをしている2歳児が居た。それを先導しているのは、もちろん保育士さん。「あぁ、この保育園に娘を通わせたい。ここならあの感覚を味わわせて貰えるかも」そう思って、決めた保育園なのに、「なんでそんなこと言うの? 」と悲しくなった。
その日は、初めての登園で小さい娘の背中には、お昼ご飯用の白いご飯の入ったお弁当箱とランチョンマットの入った小さなリュック。手には、汚れ物を入れる袋を持ち、肩から斜めに水筒をかけて登園していた。部屋の入り口から、荷物置き場までは5メートルくらいある。
いつもの調子で私は、娘から荷物を受け取り、その荷物置き場まで持っていこうとした。
その時、保育士さんが冒頭の言葉を発した。
「なんで? 」と思った。思わず異論を口にしていた。それでも保育士さんは「大丈夫です。そのまま荷物は、そこに置いておいてください」と言う。そんなに言うならと、とりあえず言う通りにした。
そうしたら、娘は、保育士さんに促されてリュックを持って歩き始めた。荷物置き場まで行くとリュックをかける。金属の金具にリュックの取手をかけるのに少し手こずったけど、無事にリュックをかけ終わった。すると、私のところまで戻ってきて、今度は、水筒を手に荷物置き場まで歩き始めた。そして、水筒をかけ終わると、また私のところまで戻ってきて、次は汚れ物袋を持って荷物置き場に向かった。
 
それをみた瞬間、膝から崩れ落ちそうになるほどの衝撃を覚えた。「この子は、出来るんだ」って痛感した。確かに、大人と同じように「荷物を全部いっぺんに持っていく」ことは「出来ない」けれど、彼女は彼女が出来るペースで、この時の場合は「荷物を一つずつ持って」なら「いけるし出来る」のだ。そう思った瞬間、これまで私が「この子は、出来ない」と思って知らず知らずに彼女が出来る機会を奪っていたんだと気づいた。大人の感覚で「出来ない」と判断して「良かれ」と思ってやってあげていたことが、彼女が「出来る」「やれる」を体験する機会を奪っていたと。
あんなに一緒に居たのに、あんなに成長を楽しみにしていたのに、あんなに出来ることが増えていくのを喜んでいたのに、私は彼女の成長を阻害していたのだった。
 
この日から私は、思わず口を突いて出そうになる言葉を飲み込む努力と手を出したくなる衝動を抑える努力を開始した。今年、15歳になった娘に、今でも思わず口を突いて言葉が出るし手も伸ばしてしまう。それでも、気づいた時は「あ、ごめん。母は、黙ります…… 」と途中で言うのを辞めたり、手を引っ込めるようにしている。
そんな風に、今でも気を抜くと娘の成長を阻害してしまいそうになる。けれど、あの時あの保育園に出会って良かったと思う。そして、そんな保育園に出会わせてくれたのは、小さい頃、野山を駆けずり回っていたあの頃の私だな。と思うのです。
誰にも止められず、出来るとか出来ないとか考えずに、ただただ目の前のことを全力でやりたい! やり遂げたい! と思って突き進んでいた、あの小さい頃の私が、私に教えてくれたのだと。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-03-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事