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大惨事

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊江竜一(ライティング ゼミ 12月コース)
*この記事はフィクションです。
 
 
おならとうんちは同じところから出てきます。しかし人間はどちらが出てくるかを、長年の経験と感覚で微妙な違いを認識し、上手く出し分けています。見えてもいないものを感覚だけで認識し、出し分ける、ヤバイ時には制御するという技術は、おそらく人間だけが持つすごい能力だと思うのですが、時にはうまくいかない場合もあります。
 
「くせえな、誰がしたんだよ」
音のない屁では、言い出しっぺという言葉があるため、今のような言葉は大勢のいるところでは出しにくいです。打った球がいきなり自分に返ってくるリスクがあるので、誰も何も言わず、うやむやで皆が臭いにおいを我慢する状態が続くことになるのです。
朝の満員電車では、突然思わずハンカチで鼻を覆うくらい臭いにおいがしてくることがあります。でも誰も何も言えません。とにかく耐えるしかないのです。
 
一方で、音が出てしまうと出所が分かってしまうので、言い出しっぺのリスクは低くなり、笑われるか、臭いに対する文句が出てきます。
そのため、誰もがおならをコントロールする技術を高めているのですが、失敗するときもあります。
その失敗は二通りです。一つは、音を立てないようにしたつもりでも、気が緩み、あるいは技術が足りず音が出てしまうことである。ふとした隙に「ブォッ」ということは良くあります。
その時に臭いがなければ被害は少ないですが、臭い付きであると非常にバツが悪いのです。
もう一つの失敗は、おならだと思って出したのに、音ではなく、実が出てしまう場合です。ほとんどの場合で、固形ではなく液状に近い、いわゆる下痢便のときにおこりやすいものです。
何十年も生きていて、それこそ経験豊富でありながらも、だれでも起こりうるアクシデントです。水溶性の下痢で、痛みを伴わないと、液体が空気のように感じ、錯覚を起こしてしまうのです。
いちいちトイレに行くのも面倒だし、自分には音無しのテクニックがあるから、この位ならいいだろう的な慎重さを欠いた行動に出ると、大惨事となってしまいます。
そういった失敗のときには、一秒でも早く手を打つしかありません。トイレに駆け込み、パンツを紙でよく拭くのです。この時に気を付けなくてはいけないのが、ズボンまでしみていないかどうかの確認です。最悪の事態を想定し、ズボンはいつも濃いめの色を選ぶことをお勧めします。
私はある時、小便をするためにトイレに向かう途中で、おならをしたくなり、音無しで出したつもりだったのですが、トイレで「音無し屁」でなかたことに気づき、あわてて大便の個室に入り対処したことがあります。
なぜ気づいたかというと、小便をしながら、なんとなく暖かく感じてちょっとおかしいかな、という気がしたのです。それほど微妙な違いなので、水溶性の下痢には気を付けましょう。
 
しかし、一番の悲劇は、腹痛を感じて、おならを出しながら痛みを緩和していくうちに、本物が間近に迫り、我慢できなくなったときです。腹痛はタイタニックの航海のようなものであり、氷山が見えた時点で、あらゆる手を打ちながら回避する努力をしなければならず、それを怠り、そのうち何とかなると思っていると、大変な大惨事となってしまうのです。
 
それは6年前のことでした。三軒茶屋で子供と食事をして、早い時間だったので、自宅まで歩いて帰ろうということになりました。それほど寒くはなかったのですが、国道246号線を玉川方面に向かって、いろんな店をのぞきながら歩いていました。
歩き出して20分くらいしてから、急に腹痛が始まりました。最初は家に帰ったらトイレに行こう、くらいの感じで、いつものようにおならを出しながらしばらく歩いていました。しかし、はやく帰らないとまずそうなので、バスで帰ろうと思いましたが、バス停の時刻表をみるとしばらく来ません。しかたなく歩き始めると、この時点で、次のおならでは水溶性の現物が出てくる感覚がわかりました。
そこから急に「ヤバイな」という感覚がでましたが、近くに店がありません。そこで通り過ぎたスーパーに引き返すことにしたのです。
スーパーは通りの反対側、長い信号を待ち、ようやく青信号になってから、慎重に、しかもできるだけ早歩きで渡りました。
トイレは2階でした。
肛門を絞めながら急いで登り、トイレに入る頃には限界に近づいていました。
「よかった、運よく大便の個室が開いてた」
子供がいることも忘れて、何とか助かったと安堵しながら飛び込んだのでした。
そして、扉をしめて、ズボンのファスナーを下した時に緊張の糸が切れしまったのです。
ズボンを下すのが早いか、出るのが早いかというタイミングで、しゃがみながらはじけだしてしまいました。
不幸にも黄色い粘性のものがかなりパンツについてしまったのです。
コトが収まるまでは出し切ることに専念し、コトが収まってからいつもの修復をしようと思いましたが、ちょっと修復が難しい状況にまでなっていました。
そこで、しかたなく個室の中でパンツを脱いで、小さく丸めて、捨てることにしました。この時ズボンまでは被害が及んでいなかったのは不幸中の幸いでした。
「僕もうんちしたいから早くしてよ」という子供の声が外から聞こえます。
とりあえずは二次災害にならないように粘性のものは拭いて、汚れないように慎重に丸めて、ポケットに押し込み、子供が入れ替わって個室の扉を閉めてから、パンツをゴミ箱に捨てたのでした。
そこからはノーパンで、ファスナーの冷たさを股間に感じながら、だまって家に帰りました。当然子供にも妻にも内緒です。
 
 
 
 
***
 
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2023-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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