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くらやみディナーをどうぞ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:戸田そのこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
あなたは漆黒の闇の中でフルコースディナーを食べたことがありますか?
  
停電の夜にろうそくの光で、とか、恋人同士のロマンチックなディナーで、とか、野外キャンプで月明かりの下で、のような日常の中の非日常経験がある方もいると思うが、一筋の光も入らない真っ暗闇でのディナーを体験したことがある人、というのはあまり多くはいないのではないだろうか。
 
今から10年ほど前に某大手代理店主催で開催された「クラヤミ食堂」に参加した。これは大人が無意識に持つ視覚からの先入観を取っ払う目的で作られたイベントだ。斬新な試みは当時大人気で、私もチケット入手に苦労した。その時の日記が出てきたので書いてみる。
 
クラヤミ食堂の場所は赤坂の某ビルの2F。エントランスには暗幕が張られている。暗幕の奥からは食事を用意している匂いや働いている人の気配がしており、これから始まる得体のしれないイベントへの期待が高まる。受付を済ませるとすぐさまイベントスタッフがやってきて、有無を言わせずゴーグルを装着される。このゴーグル、中に黒いスポンジの縁取りがついており、全く光を通さない。明るいビルの室内灯に照らされていたのに、いきなり真っ暗闇の世界に突入した。心の準備がまだできていないのに……。軽度の閉所恐怖のある私は少しパニック。心臓バクバクで「やっぱりやめます、帰ります」と叫びそうになる。そんな私をスタッフが優しく手を取り、座席まで誘導してくれる。すり足でそろりそろりと一歩ずつ歩く。席にたどりつくまでの唯一の頼みの綱はスタッフの温かい手だけである。10メートルくらい歩いたような気がしたが、後で聞いてみるとほんの5メートル程度しか移動していなかったそう。
 
一緒に参加した人は全員バラバラにされて別テーブルに座らされる。知らない人と見た目にとらわれない自由なコミュニケーションを取るためらしい。友人と2人で参加したのに、離ればなれになり、絶望感は半端ない。文字通り、暗闇でたった一人。泣きそう。近くに座っている人達はもちろん赤の他人。いきなり会話が弾むわけもなく、妙な緊張感が漂う。
  
イベントごとに毎回テーマが違うらしく、今回は「宇宙」であることが告げられ、まずは近くの人達と乾杯をするように言われる。テーブルの上のグラスを手探りで確認し、掴む。シャンパンらしきものがグラスに注がれおそるおそる前へ突き出し、前の席の方と乾杯。テーブルは4人掛けのようだ。名前を名乗り、仕事は何をしている、などの会話を交わす。隣は女性、向かいは男性のようだった。
 
クラヤミ食堂のルールは支配人が鳴らすチリンチリンという鈴の合図の後、一斉に食べ始めること。お作法は一切なし。ナイフとフォークを使うもよし(もちろん使えれば、の話だ)、手で食べるもよし。
  
まず1品目は前菜。手探りすると、四角い皿の上に冷製の何かが載っている。匂いはなんだか生臭い。口に入れて「牡蠣」と判明。何かソースがかかっているが、よくわからない。
2品目に茹で野菜、3品目にライスコロッケが提供される。いずれも温かいが、熱くはない。手で掴んでも火傷しない温度に設定されているようだ。ナイフとフォークは暗闇では全く役に立たず、すべて手づかみで食べているが、暗闇なので誰の目が気になることもない。気分は原始人。頭の中にはアニメのマンモス肉が浮かんでいる。
4品目はスープ? 後でわかったことだが、ニンジンのムースであった。いかに人間の味覚が見た目に左右されているかがよくわかる。
5品目に箸休めの冷たいアーモンドクッキー、6品目にメインの温かい骨付きチキンが提供された。結局スプーンで掬えたもの以外はすべて手で食べたことになる。いつもの半分も食べていないのに、もうお腹はいっぱい。
そして7品目に丸いガラスのお皿に載った冷たいものが提供されてコースは終了。どうやらデザートのミルクプリンだった。
目隠しをされてからたぶん1時間以上は経過している。トイレに行きたい気もするが、目隠しをされたままトイレまで辿り着ける自信もなく、最後まで我慢しようと覚悟を決める。
 会場全体が料理の一品一品でワーワー盛り上がり、知らない者同士による喧噪で包まれている。
  
最後にペンと紙が渡され、もちろんゴーグルをつけたまま感想を書くように言われる。そして、再びスタッフに手を引かれ、会場を出る。同じテーブルの人たちとは再会の合図を決め、外へ。ゴーグルを取り、明るい眩しすぎる光が戻ってくる。
  
会場に入ってから約2時間が経過していた。
 
いかに私たちが視覚からの情報に頼って生活していることを実感した非日常体験であった。「見えないから美味し」かったかどうかはよくわからないけれど、見えないから先入観なしで知らない人同志で子供の時に戻ったようなコミュニケーションが取れたことは紛れもない事実。
 
またこんな非日常のディナー体験してみたいな、と思い、実は自分でも目隠しディナーなるものを企画。知っているシェフに頼んでフレンチのフルコースを提供してもらい、参加者には目隠しをした状態でディナーを食してもらった。参加者からは「ドキドキわくわくした。次は恋人と参加したい」との感想も。やはり暗闇は非日常を楽しむのに有効なツールと言えそうだ。
 
 
 
 
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2023-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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