メディアグランプリ

元ICU看護師が職を捨てて文字を書き散らしている理由

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡田ゆりな(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私はつい2週間前まで毎月のように人が死ぬ現場で仕事をしていた。病院という場所はさながら戦場のようであり、その中でもICUと呼ばれる集中治療室は激戦区にあたる。何故ならば病院内の緊急事態案件は大抵、最終的にICUが対処することになるからだ。その現場は緊迫していることが多い。
私はそんなところでかれこれ5年勤務しており、自分の仕事にそれなりに誇りをもって職務を全うしていた。「わかりやすく人の役に立ちたい」それが志望動機だった。まさに私にとってうってつけの天職だったというわけである。
 
そんな私は今、机に向かって天職を呆気なく手放した理由をつらつらと文字に起こしている訳だが、私の人生計画を書き換えた発端は以下のような会話から始まる。
「ゆりなはさ、何かやりたい事ないの?」
やりたい事なら、山ほどあった。仕事に直結する看護研修はもちろん、栄養学や心理学の勉強、カウンセリング技術にリンパケアやヨガ哲学など、人の心と身体の健康にかかわる知識の習得に終わりは永遠にやってこない。そんなようなことを気のすむまでしゃべり倒した。
白状しよう。かなり私は得意げであった。自分がやっていることに自信があったし、自分の生き方に迷いや揺らぎなどなかった。
「ふーん、つまんないことしてるね。ほかには何かないの」
率直に言おう。カチンと来た。
が、すぐに切り替えた。学生であれ社会人であれ、学ぶことに消極的でモチベーションなど持ち合わせていない人をたくさん見てきた。そんな人は、授業や仕事をサボりたいとしか思っていないが、決して本当に辞めたりはせず、不平不満をこぼしながらそこに居続けるものだ。ただ思考停止してレールに乗っていることを「安泰」と勘違いして、レールから降りることも、その道を楽しもうともしない人々がいることは周知の上。私は好まないが。仕事についての話題はやめようと、過去にハマった漫画やゲーム、映画やドラマなんかの話をしてみせた。
「それは娯楽でしょ。何か自分が作ってるものとかないの」
ここでおや、と思った。こいつは一体何を言っているのだろう?
「何か創作活動、してないの?」
創作活動、と言った。
私は、好きで得意なことがあったことを思い出した。絵を描くことだ。
しかし、それは、看護師という天職を前に犠牲にした。絵を描いたって何の役にも立たない。お金にも名誉にもならない。自分にとって何の価値も与えてくれない。
天職は私に、自信や強さを与えてくれた。安定した報酬はもちろん、それ以上に得難い社会的な信用と信頼だって手に入った。絵なんか、いらない。今更いらない。
「絵、描きなよ。ゆりなならさ、創作活動の楽しさ、分かるでしょ」
懐かしい、身体の記憶が蘇った。
自分が引いた一本の線。その線は時に、まるで天使のような、私ではない別の誰かが引いたのではないかと感じるくらい、奇跡の一本になることがある。その奇跡の一本は、しっとりと濡れる紫陽花を見つめる少女のまつ毛であったり、満月の夜に冷たく滑らかなシーツを撫でる人差し指の爪であったり、花の香りに陶酔しながら目を閉じる少女の力の抜けた唇であったりする。
遠い、遠い、過去に感じる、私の中にかつてあった指先と脳の感覚。
それが、今になって衝動のように蘇った。
絵なんか、いらない、そう言い聞かせたはずだった。固く、冷たく、閉ざしたはずのそれが、描きたい、描きたいという熱い情熱に塗りつぶされていく。自由奔放に、無目的に、ただ絵を描くことに夢中になっていたあの感覚。
「ね。もっと、好きなことやりなよ」
私は、気づいてしまった。好きなことがあったことに。
 
そこから私は、創作活動を再開した。
看護師という奉仕を行ったからなのか、自分の気が済むまで絵を描くという喜びたるや格別であった。一度自分を開放したら、創作への情熱と衝動が溢れんばかりに己の胸を打ち続けた。
私はそんな創作物の公表の場として自分のブログを立ち上げ、絵を描き、写真を撮り、文字を書くようになった。
ちなみに写真と文章は、かの人物の計らいで私の創作活動の一環に加わったものである。
 
もうお気づきだろうが、このライティング・ゼミも、かの人物が私に勧めて、まんまとその手に乗って参加している次第である。
 
私にとって書くことは海の中で魚をつかみ取る感覚に近い。言葉の海の中で無数の魚が泳いでいる。私はそこに無我夢中で手を伸ばし、自分の頭の中にある「何か」を言い当てる言葉を探してもがいている。そして、ついに魚をつかみ取った瞬間、私は命を握りしめた感動をかみしめる。そうか、私はこれを言いたかった。伝えたかったのだと、手の内で力強く跳ねる魚をみてやっと知るのだ。私は文字を書くことに夢中になった。
思考は止まらない。頭の中の像は姿かたちを自在に変えて、天気のように私の頭に表れては消える。私の頭の中の無限の思考や感情は、言葉や絵にされるのを今か今かと待っている。
私の思考は書くことでその輪郭はくっきりと鮮明になり、私を超えて現実の世界にまで影響を与えていく。
私にとって創作活動とは自己の内なる宇宙の探求である。そして私は自分の創作物で世界に影響を及ぼすことができると確信している。
 
そんなことを書いている傍で、私の人生計画を狂わせた張本人はにやにやと面白おかしそうに私の背中を眺めている。
 
何ともいけ好かない。いけ好かないが、私はかの人物の生き方に魅せられて、いまそのレールを大きく外れて、自由の空の下を駆け始めたばかりなのである。
 
 
 
***
 
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2023-04-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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