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今まで秘密にしていた、私が筋トレを始めた理由


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記事:小笠拡子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
ダンベルになって、夫のトレーニングを支えたい。これは私が筋トレをするようになった、最初のきっかけだ。
 
私の夫はボディメイクをしていて、団体に選手登録をしている競技者でもある。ボディメイクは単なるダイエットとは違う。その人にとって理想的で美しい体づくりに励むことだ。仕事に行きながら週に6日、体の部位ごとに分けて数時間トレーニングをしている。自宅に作ったトレーニングルームでの筋トレに加え、24時間制のジムにも通い、さらには月に一度パーソナルトレーニングにも通う。Amazonの購入履歴はプロテインや筋トレグッズばかり。YouTubeの閲覧履歴やおすすめ動画には筋トレ系のチャンネルで埋め尽くされているという、まさに「筋肉ヲタク」なのだ。
 
私自身も昔からマッチョを眺めるのが好きだった。大学時代には「マッチョバー」に通ったことさえある。そんな私だから、筋肉を愛し、トレーニングする夫を心から応援することができる(昔付き合っていた彼女に「これ以上筋肉をつけないで」と言われたことがあるらしい。私は絶対に言わない。むしろ「ゴリラになって」と伝えた)。
 
ある日、自宅のトレーニングルームで筋トレに励む夫を眺めていた時のこと。
 
「この人は私と同じくらいの重さの以上のものを持ち上げて、トレーニングしているんだよなぁ……。じゃあ、私も夫のトレーニング道具になれるんじゃないか?」
 
という考えが頭をよぎった。私は夫の筋トレに参加できるし、夫も筋肉がつく。これは妙案だと、早速「私で筋トレをしてほしい」と提案したら「妙なことを言い出したぞ」と呆れながらも誘いに乗ってくれた。
 
バーベル(長い鉄の棒で、両端に円形の鉄プレートをつける道具)を鉄棒に見立てて、よっこらせと全体重をかける。まるでこれから鉄棒で前回りをするような体勢だ。この姿勢が意外にキツく、自分の腕がプルプルと震え始めた。ベンチに寝そべった夫が、私というおもりがついたバーベルをグッと持ち上げる。
 
その途端、一気にバランスが不安定になり私は本当に前回りをしてしまった。私の真下には夫が寝そべっているうえに、お互いにバーベルから手を離すこともできない。「ごめん、ぶつかるー!」と叫びながら、くるりと一回転する途中で顔が夫の股間に直撃するという珍事件が起こってしまった。
 
「私を使ってトレーニングをしてほしい」。この願いは叶ったものの嬉しさは皆無。自分自身を支える筋力すらないことと、体幹の弱さに絶望した。と同時に情けなさが込み上げた。そして密かにこう思うようになったのだ。夫のトレーニングを補助できる、全くブレることのないダンベルになりたい、と。
 
その珍事件の1ヶ月後、私は夫も通う24時間制の会員制ジムに入会し、パーソナルトレーニングまで申し込んだ。もちろん、自宅のトレーニングルームで夫にトレーニングを見てもらうこともできるのだが、そうはしなかった。
 
私には運動習慣がない。夫と共にジムに行くことで、無理矢理にでもトレーニングする環境に身を置いたのだ。そして夫から指導を受けるのは、なんだかちょっと、恥ずかしかった。
 
ダンベルになって、夫のトレーニングを支えたい。こんな意味不明な動機から筋トレを始めることになるとは、自分でも思わなかった。大抵は「痩せて水着を着たい」だとか、「結婚式のために引き締めたい」だとか、そういう類が多いだろう。私も過去に痩せようとした試みは何度もある。しかし毎度2ヶ月程度でギブアップ。「痩せた事実」に満足して、リバウンドを繰り返していた。
 
そんな飽き性でもある私だが、この4月で筋トレを始めて3ヶ月になる。週に4〜5日、ジムに通ってトレーニングをしている。これだけ続いているのは、ジムに一緒に行ってくれる夫のおかげでもあるし、パーソナル指導をしてくれるトレーナーのおかげでもある。しかし、一番の理由は、少しずつダンベルに近づいている自分を実感しているからなのだ。
 
最初は30秒もできなかったプランク(うつ伏せ状態で前腕と肘、つま先を地面につき、その姿勢をキープするエクササイズ)が1分できるようになったし、バーベルの重さに耐えきれず、持っただけでフラフラしていた足音がふらつくこともなくなった。小さな成果だが、確実に変わっていく自分。ダンベルになって夫のトレーニングを支えられる日も、そう遠くはないだろう。
 
先日、珍事件以来の「私を使ってベンチプレス」を夫にしてもらった。よっこらせ、と鉄棒で前回りをする体勢になる。腕が全く震えない。夫がバーベルを持ち上げてもバランスが保てている。そしてそのまま数回トレーニングをしてもらった。夫がしっかりトレーニングができていることに嬉しさが込み上げた。自分への絶望はもうない。私は着実に一歩ずつ、ダンベルになる道を進んでいる。
 
 
 
 
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2023-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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