たとえ無名でも
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:工藤洋子(ライティング・ゼミ2月コース)
先日、スーパーへ行くと鮮魚コーナーにボラがあった。
「なんでボラ??」
そう思いながらも手に取って、ついつい買って帰ってしまった。
ボラ、という魚のことはご存じだろうか?
あまり日本の普通のスーパーの店頭で並ぶことはない魚かもしれない。名前もあまり知られていないと思う。
私も夫が昔釣りに出かけることがなければ、きっと知らなかった魚だろう。釣り好きな人の中ではけっして人気の魚ではない。いわゆる「外道」というやつだ。つまり、本来釣りたかった目的の魚ではない、という意味らしい。ボラを釣りたくて出かける釣り人はいないということだ。
まだ息子が小学生だった頃、ちょうど遊びに来ていた従兄弟達も一緒に夫が釣りに連れて行ったことがあった。私は引率を夫に任せて家で留守番していたのだけど、帰ってきたらあまり他に魚が入っていないクーラーバックの中で一匹だけデカい魚が鎮座していた。
それが、ボラだった。
そのとき、ちっともアタリが来なかったものだから、可哀想に思った隣りのおじさんがくれたらしい。
ボラか!
ボラかよっ?
ボラってどうやってさばくんだ?
そもそもどう料理するのが一番美味しいんだよっ??
文明の利器、インターネットで検索できる世の中で本当によかったと思った。
ググってみたところによると、まず、さばくにあたっては内臓を破かないようにしなくてはならない。比較的沿岸の底に生息するボラは、人の住む場所の汚染された泥を内臓にため込んでいる可能性があるのだそうだ。それが実に臭うらしい。
なんと、それは大変だ!
ということで家の外で慎重に慎重を重ねて内臓を取り去ることに成功、三枚におろして半身ずつのサクの状態にまですることができた。
そしてその調理法は……淡泊な白身なので唐揚げや竜田揚げなど濃いめの味を付けた料理が合う、とネットに書いてあった。
その時は生姜醬油で竜田揚げにしたら、子どもも大喜びで食べていたものだった。
と、時は戻って今現在、目の前に既にさばいて半身の状態になったボラがある。すでに臭いと評判の内臓は、ない。さばくのに気を付けることがないなんて、なんと楽ちんなのだろう。
さて、今回はいかように調理しようか?
私の住む九州では、このボラのような白身の魚ももちろんいるが、サバやブリといった青魚の数も多い。多い上にかなり日常的に食べる魚である。青魚には良質な脂肪が含まれているので体によい、と近ごろではもてはやされている。
きっとテレビの健康番組などで、EPAとかDHAとか聞いたこともあるのではないだろうか。血液をさらさらにするヘルシーな成分として有名だ。サプリまで売っている。しかし、その一方で非常に傷みやすいという性質がある。すぐに酸化してしまうのだ。青魚が臭くて苦手、という人はその酸化した脂肪分の臭いを苦手としている、といってもよい。
それに対して白身の魚はそんなにアシが早くない。つまり傷むのが青魚ほど早くないので、少し余裕をもって調理をすることができる。昔と同じように竜田揚げにするというのも芸がないので、何か考えてみることにした。
ふとパッケージを見直すと、半身のボラはひとつ399円と書いてある。
安い、これは非常に安い。
サイズとしてはちょっと小型のハマチぐらいの大きさだ。さばいてサクにした後で30cm弱はあるほどの長さだ。これがブリやカンパチだったら数千円はすることだろう。
同じように比較的安い白身の魚といえば、シイラがある。シイラは沖縄でしこたま刺身をいただいたことがあるのだが、多分暖かい海にいる魚だと思う。寿司ネタなどでは他の魚の名前で使われている、ということもあるかもしれない。
シイラもボラと同じく、安価で身の大きい白身の魚だ。なんといってもムニエルなどにすると美味しいスズキ科の魚だ。本家のスズキはとても美味しいのだが、それこそスーパーの店頭などには並ばない釣り魚だ。そしてこちらはお値段もそこそこ高い、と来ている。
庶民にはやはりシイラかボラが関の山だろう。
そんなこんなと調理法を迷っていると、今は高校生になった息子がやってきた。
「お母さん、ボラ買ってきたって?」
息子はどうやら生まれた時から魚好きで、歯も生えそろってない時から魚のアラ汁をもっとよこせとウーウー言った強者である。
「ボラなら、やっぱり竜田揚げにするよね?」
息子が期待に満ちた目で言う。
あ〜、せっかくあれやこれやと考えていたのに、結局また同じメニューになりそうだ。「ボラは竜田揚げ、竜田揚げはボラ」と息子の頭には刷り込まれているようだ。まあ、刷り込んだのは私だが。
仕方がない。
今日の夕飯はまたボラの竜田揚げにするか。
家族が食べたいと思うものが一番だ。
夏になって臭いがきつくなる前にきっと同じスーパーに行けばまたボラに出会うこともあるだろう。そのときは……息子に見つかる前に違う料理を作ってしまおう。
うん、そうしよう。
次はきっとニンニクを効かせたムニエルで食ってやるぞ。
***
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