メディアグランプリ

自分に飽きないための作法


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:芙美(ライティングゼミ2月コース)
 
 
「あー、飽きたなー……」
私は通いなれた八重洲の法人の立派な応接室に通され、大きなプロジェクトの提案をしている最中だった。
休日返上で作り上げた提案書をもって、必死に顧客に自分の分析を説明し、我が社をビジネスパートナーに選んで貰うための重要な提案の場面。
私は営業で、この顧客は5年以上かけてフォローしてきた重点顧客だ。
競合だって多い時には5社、少なくとも常に2社はいる。
常日頃のフォローの成果をこのような機会にきっちり刈り取ってこそ、普段の仕事の甲斐があるというものなのだ。
なるべく抑揚もつけながらリズムを意識してプレゼンしていく。
顧客も真面目に耳を傾けてくれ、熱心に頷きながら聞いてくれている。
それなのに……、私は説明している最中、猛烈に飽きていた。
 
自分が作った提案書、我が社の豊富な生の最新データを使っており、ビジュアルも美しい。
顧客の要望通り数パターンのシミュレーションもしており、その内容すべてについて自信をもって説明出来る。
しかし、自分が話す自分の言葉に飽きて飽きて仕方がない。
当然自分のことだから次に何を言うか自分でも分かっているし、意外性がない。
端的に言ってつまらない、飽きてしまった。
 
 
いつからこんなに飽きてしまったのだろうか……。
そもそもこれは、仕事への飽きなのだろうか。
いや、仕事ではないときにも、自分に飽きている場面に出会うことがある。
人と話しているとき、スピーチをするとき、考えごとをする時。
そう、そして今みたいに書き物をしているときにも。
 
もともとこんな風に自分に飽きていただろうか。
そもそも自分に飽きるって、当たり前になってしまうと、自分に飽きていることすら気付かないものなのかも知れない。
 
20代半ばで結婚して子どもが出来て、以来髪を振り乱して夢中で育ててきたが、その子どもたちも中学生と小学生になり、乳幼児時代よりも格段に自分のことに時間が使えるようになってきた。
無我夢中で子育てと格闘していた時には、自分に飽きるなんてことについて、考える暇もなかった。
子どもたちの命を守り、物理的に一日一日を無事に終わらせることで精一杯で、日めくりカレンダーをめくるだけのために生きているなと感じることもあった。
それでも着実に時間の経過とともに子どもたちは成長し、私の生活には徐々に余裕が生まれるようになってきた。
 
そこで、久しぶりに、私は私のことを考え始めた。
おそらく15年ぶりくらいだろう。
思えば学生時代や結婚するまで自分のことしか考えていなかったはずなのに、不思議なものだ。
本当に久しぶりに「自分」の存在を思い出したのだった。
「自分」のことをすっかり忘れていたので、もともと好きだった友人や作家、音楽、食べ物、ファッションや旅など、「自分」が好きだったものとは思えないほど遠くなってしまっていて、いまや昔は好きだったけど今は好きではないものなのか、それともしばらく触れていないからピンとこないだけで、「自分」リハビリすればまた好きになれるのか、それすら判然としない。
 
それくらい、私は自分の「好き」をどこかに置いて来ていた。
自分の「好き」に囲まれない生活を自分に課してきた、過酷な15年間だった、とも言えるだろうか。
私にとって子どもたちはかけがえのない人生の宝物で、これ以上に大切なものはない。
愛してやまず、何度聞かれても子どもたちに出会えない人生を選ぶことはない。
「自分の好きなものに囲まれない、好きなことが出来ない」その事実を忘れ去れるほど残酷なまでに子どもというものは可愛く美しく、そして楽しい。
 
それでも、ようやく私という人格から、子どもたちを切り離しても子どもたちが生きていけるくらいには大きくなってきたということに気付いた。
そして自分を振り返ったとき、冒頭の顧客への提案の場面で、とにかく自分が自分に飽きていることに思い当った。
当然だ。
だって私は自分の「好き」を置き忘れてきているのだから。
身の回りで起こること、すべてが自分の好きとは関係ない出来事なのだから。
私は私を好きなもので満たさなくては、と思った。
 
世の中にはいろいろな自己啓発セミナーがあるが、私はそのうちの「自愛」というカテゴリーに興味を持ち、毎週定期的にトレーニングをした。
例えば、「何の制限もないとしたら今の生活を続けるか」「魔法が使えるなら」何をしたいか、何をするか、そのようなことについて真剣に考える。
すると徐々に自分の好きだったものを思い出したり、今まで思いもしなかったことにチャレンジしたくなってきたりと気持ちが上向いてきた。
このライティングゼミへの参加もそのうちの一つだ。
 
ただ、人間には恒常性があるので、このトレーニングも続けて習慣化しないとまた元の慣れ親しんだ生活に戻ってしまう。
天狼院店主三浦氏はライティングもトレーニングだと言っていたような気がするし、習慣化して続けたい。
そうだ、自分が好きなもののことを書けば、「自愛」トレーニングにも、「ライティング」トレーニングにもなり、一石二鳥かも知れない。
自分を楽しませるためにワクワクする計画も立てるけど、予定調和は投げ捨てて、次の瞬間何が起こるか分からないドキドキハラハラの展開も楽しみたい。
自分に飽きていた人生にはもう戻らない。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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