メディアグランプリ

「新しい地図」は新しいからこそときめくのだ


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記事:花 橋子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
わたしはSMAPのファンである。どのくらいのファンかというと、「わたしにもしものことがあったら、墓石に『わが人生SMAPと共にあり』と彫ってくれ」と親友に頼むくらいの熱量のファンである。
 
高校生の時にファンクラブに入ってから約25年、テレビ番組を録画し、CDを買い、ライブに出かけ……といわゆる推し活をしてきた。だから、2016年にSMAPが解散することが決まった時は、嘆き悲しみ、一度は通勤路を間違えて、どこかあさっての方向に向かって行ってしまったことすらもある。
 
ここまで熱いファンであるわたしに対して、周りからはちょいちょいこんな問いが投げかけられる。
 
「SMAPに再結成してほしいでしょう?」
 
わたしの答えは「No」である。
 
大きな転換期を乗り越え、常に今を生きる彼らは、今が一番いいからである。
 
わたしにも大転換期がある。
 
わたしは大学卒業後、大手メーカーのシステム開発会社にシステムエンジニア(SE)として入社した。当時「SE30歳定年説」という言葉があったほど、システム開発の現場というのはハードで、わたしもその激務に飲み込まれていった。
 
月曜日の朝一の新幹線で、当時住んでいた名古屋から客先の大阪へ向かう。毎日午前0時近くまで働き、ホテルに倒れ込み、金曜日になったら名古屋に戻る。季節の変わり目も感じず、世間の流れも知らず、ひたすら名古屋と大阪を往復する、まさに社畜の鑑のような生活だ。そして、そうしていることが「働く」ことだと思っていた。
 
そんな生活を2年ほど続けたある朝、仕事に行けなくなった。メイクをし、洋服を着替え、あとは家から出るばかりなのに、どうしても一歩が出ない。そんな日が続いて病院に行くと、適応障害と診断された。そして、何か月かの休職期間の後、わたしは退職した。
 
適応障害は、不安の種を取り除けば回復に向かうと言われている。実際、わたしも医師にそう言われ、退職を決意した。しかし、自分が思っていた以上に「仕事をしている自分」に存在意義を感じていたわたしは、仕事を失ったことで喪失感を感じ、そこからなかなか這い上がれなかった。そうして、わたしの20代後半は、療養と社会復帰のためのリハビリで過ぎていった。
 
30歳になり、体調も回復してきたわたしは、フリーランスの日本語教師として働き始めた。それと同時に「もしSEを続けていたらどんな人生だっただろう」ということをよく考えるようになった。
 
あの会社にいたら、今ごろもっと稼いでいただろうなあ。
そうしたら、欲しいものも買えて、行きたいところにも行けただろうな。
仕事だって、念願のプロジェクトリーダーになれたかもしれない。
もしくは、結婚して、自分の家族を作っていたかもしれない。
 
この「もし~なら」の媚薬は、口当たりはとても甘いが後味はとても苦い。「自分にはもっとほかの人生があった」とひと時酔わせてくれるが、「いや、現実は違うよね」と強烈な苦みで酔いを醒ましてくる。そして、苦しみの末、なんとか働けるまでになった自分を否定してしまうという二日酔い付き。この媚薬に頼らない方法は1つしかない。今を充実させることだ。
 
会社を辞めたからこそ、できたこと。それをわたしは1つずつ増やしていった。
 
市民オーケストラに入ってみた。
中国語の翻訳家に弟子入りしてみた。
オリンピックを見に行ってみた。
単身中国に行って働いてみた。
大学院に通い、修士号を獲ってみた。
 
こうした1つ1つが、あの時の判断は正しかったと自分に自信を持たせ、次の道も照らしてくれる。過去がよかったから、今がいいのではない。今がんばってるから、今がいいのだ。
 
 
SMAPがなぜ解散したか、本当のところはわからない。だけど、彼らにとって大きな転換期であったことには間違いない。そのあと、めっきりメディアでの露出が減ってしまったことも、大変な思いをしたであろうことも。
真っ先にジャニーズ事務所を出た3人は、「新しい地図」というユニット名で活動を始めた。当然、何の報道もされなかったが、彼らはインターネットに活路を見出し、地道に活動を続けてきた。その結果、NHKを皮切りに、わずかだがテレビに登場するようになってきた。でも、それはSMAPに戻るためではない。今、目の前のファンを楽しませるために、彼らはがんばってきたのだ。
 
安直にSMAPに再結成してほしいというのは、ここまでの彼らの苦しみとそれを乗り越えた日々を、輝かしい過去で帳消しにしてしまうようなものだとわたしは思う。わたしは今がんばっている彼らの今がいい。「新しい地図」は「新しい」からこそ、人々の胸をときめかすのだ。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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