メディアグランプリ

昼休みにかかってきた営業電話がキレなかった話


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記事:イシヤマ(ライティン・ゼミスピード通信コース)
 
 
大分の片田舎で製造業の三代目社長をしている。今回は、誰もが経験したであろう「営業電話」について話したいと思う。
最近は営業代行会社によるものも増えたからか「新規のお取引はご遠慮しております」と答えるだけでスマートに断るだけで済むこともある。しかし強引な営業も後を絶たない。さっさと電話を切りたいところなのだが、しつこい業者に限って下手に断ると相手も開き直って「どうせ断っても他からかかってきますから」とか「お宅の会社なんか長続きしない」などと捨てゼリフを吐かれて気分がどんよりすることも多い。
ひどいのになると、電話を切ったら繰り返し無言電話されたこともあった。
今は我が優秀な事務員が大半の営業電話をブロックしてくれているのだが、それでも食い下がる電話は私が引き受けている。社長なんて現場の球拾いをしていればいいのだ。
しつこい営業電話に対峙する私の方法はいくつかあるが、特に強力なのは「相手の質問に一切答えない」ではないだろうか。
 
例1・よくある確認
「いまお電話口にいらっしゃるのはイシヤマ様ですか?」
「個人情報はお答えしておりません」
 
例2・LED照明の営業
「御社では照明に蛍光灯をお使いでしょうか?」
「来社されるならお見せします」
 
相手に会話のきっかけを与えないことで営業を諦めさせるのが目的なのだが、時間があるときは少し変化球を投げて反応を見ることもある。
 
ある日の昼休みのこと。
自席でお弁当を食べていると1本の電話。
お腹が空いていたので食事しながら話を聞いていると、例によって質問してくるので私は
「こっち飯食ってんだけど、あなたもご飯食べたら?」
と優しく教えてあげた。
「え?」
戸惑う電話口の男性。もしかして時間がわからないのかと思った私は
「世間は昼休みの時間なんだけど、その部屋は時計ないの?もしかしたら窓はカーテン閉め切ってて時間もわからないようなブラック企業?」
と逆質問してみた。
「…違います」
口ごもる男性。即答しないところに答えはあるのだろう。
「なんにせよ常識ないよね」
まだ若いと思われる見ず知らずの男性に、私は人生の先輩として休み時間の使い方を諭した。
「そちらの常識はこちらの常識ではなかったのですみません」
よくわからない謝罪をする男。
受話器の向こうからは他の社員のセールストークが漏れてくる。
「お客様、先程お尋ねしたことなのですが」
男は話を戻そうとする。
決めゼリフのときがきたようだ。
「ここに来たら教えます」
そう答えると、男性は無言になった。
やがて
「こちらお電話でのご対応でしたので大変失礼しました、では失礼いたします」
「はい」
と私。受話器は置かずそのまま。
電話の向こうの相手が無言ながら困惑しているのがわかる。おそらく自分から電話を切ってはいけないと指導されているのだろう。
ややあって
「あのー、お電話切っていただいてよろしいでしょうか」
と情けない声がする。私は
「指図される筋合いはない」
とキッパリ言い放った。
「いやあの、お切りいただかないと切れないようになってまして」
「そんなのそちらの勝手じゃないですか?」
私は唐揚げを頬張りながら答える。
「では切らせていただいてよろしいでしょうか」
恐るおそる尋ねる男。
「さぁーねー」
突き放したように答える私。
はぁー、というため息が聞こえてきた。
「あのー、キレたんですか?」
「い、いえ、そうじゃないんですが」
かすかに舌打ちの音も聞こえたが、スルーした。
 
気を取り直すように
「お客様の貴重な時間をいただいたので、そちらからお切りいただくことになってるんですが」
努めて冷静に話そうとする男。
「そんなのそちらの都合でしょ」
立ち位置を明確にする私。また男は無言になる。
 
男は思い直したように
「ただいまお電話口にいらっしゃるのは◯◯社の代表者様でいらっしゃいますか?」
「ここに来たら教えます」
すべての質問にこの答えなのだが、いつになったら気づくのだろう。
 
「上席に代わらせていただきますがよろしいでしょうか?」
意図がよくわからないが
「電話切る切らないくらい自分で判断できないの?」
と優しく問う私。
「では切らせていただいてもよろしいでしょうか」
「えぇ~?」
私は大げさな声を上げた。
「その『えぇ~?』っていうのはどういう意味なんですか⁉」
苛立った声が受話器から聞こえてくる。
「キレたんですか?」
「そうじゃないですけど」
「あなたが私に指図するいわれはない、私もあなたに指図する理由はない」
「その通りです」
「だから、電話切る切らないくらい自分の頭で考えたら?」
「上席に代わらせていただきます」
 
長い保留音のあとに別の男が出て
「大変失礼しました、○○○の△△△のご案内だったんですが」
「さっきの子、ごはん食べさせてあげなよかわいそうに」
「申し訳ありません」
「やっぱりブラック?」
「い、いやそういうことでは」
「まぁどっちにしても初めて聞く社名じゃないんだけど、今後電話かかってきても、こちらから切ることは絶対ないので」
「わかりました、弊社からは絶対にお電話しないように致しますので。それでは失礼いたします」
「はいどうも、あ、こっちからは切りませんけど」
「では、切らせていただいてよろしいでしょうか」
「ご自由に」
「では切らせていただきます」
 
昼飯時くらいごはん食べよう。
私は電話を受けながら20分で食べ終わったのだった。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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