メタ歌舞伎から歌舞伎にハマった理由
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記事:安斎 智美(ライティング・ゼミ2月コース)
メタ歌舞伎というのがあったのをご存知だろうか。若手歌舞伎役者の中村壱太郎さんと中村隼人さんが源氏物語を演じたものだったのだが、舞台は歌舞伎座でもなく、新橋演舞場でもない。ウェブ上の空間のみで行われたものだった。
以前から歌舞伎に興味はあったのだが、行く機会がなかったところ、メタ歌舞伎なるものを発見した。コロナ禍でヒマだったこともあり、軽い気持ちで視聴チケットを申し込んだ。
メタ歌舞伎は自宅でスマホやiPadを使って視聴することができ、在宅での仕事が終わったらすぐに視聴を始めることができ移動の必要がなく楽だった。ビールを片手に視聴するということもできた。
内容は源氏物語の六条御息所が激しい嫉妬により、生霊をとばし、源氏の愛人を殺してしまうというエピソードだった。
役者の二人以外のバックの背景などはすべてCGで、最初は少し違和感を覚えたものの、見ていくうちに女形の壱太郎さんの切ない演技であったり、隼人さんの立役の華やかさに引き込まれ、あっという間に見終わってしまった。
その後、このお二人の情報を色々と収集するうち、壱太郎さんがフラメンコ音楽と日本舞踊でコラボされている動画などを見つけ、さらに興味を持った。市川海老蔵さんや中村獅童さんくらいしか歌舞伎役者を知らなかったのだが、若い世代がなんとか新しい形で文化を伝えようとしている姿がとてもキラキラして見えたのだ。
そこから色々と歌舞伎を見てみたいと思い、公演を調べていたら、壱太郎さんと隼人さんが京都の南座で花形歌舞伎に出演する情報を見つけた。東京から京都にわざわざ行くのは少し躊躇したが、ちょうど会社の規定で連続休暇をとる必要があったこともあり、観光がてら見に行ってみることにした。初めてだし、遠征するしと思い、奮発して桟敷席を予約した。花道も正面に見え、舞台も近い席だ。公演が始まると、演者である中村米吉さんと中村橋之助さんが挨拶に出てきてくれ、それが近くに見え、いい席をとって正解だった。米吉さんはお話がうまく、歌舞伎役者の方もトークがうまく、サービス精神に溢れる人もいるものだなあと本筋ではないが、好感度が上がったことを覚えている。
演目は「番長皿屋敷」と「芋堀り長者」だった。「番長皿屋敷」というと、幽霊が出てきて皿を数えるイメージだったが、物語の内容はラブストーリーだ。身分違いの恋のすえ、主人公の女性であるお菊が、恋人でも自身の主人でもある青山播磨の家宝である皿を割って、青山播磨の気持ちを試すことから始まる悲劇を描いている。お菊は壱太郎さんが、青山播磨は隼人さんが演じられており、先日見たメタ歌舞伎のペアが目の前で生き生きと演技している息づかいが感じられ、それだけで気分が高揚した。お菊の皿を割ろうか、割らまいかと思い悩む姿や、本当に好きだった相手に疑われ、皿を割られた青山播磨の絶望感を表現した演技に胸を締め付けられる思いがした。後から知るのだが、歌舞伎では悲劇は悲劇のまま終わる演目が多い。この演目もそうで、終わった後も切ない気持ちだった。「芋ほり長者」は舞踊がメインの演目で、打って変わってとても明るい演目で、舞台の照明もパっと明るくなり、そこに色とりどりの衣装を来た演者の方々が踊りを披露しており、とても華やかだった。当たり前なのだが、踊りも皆さんとても素敵だ。そりゃあ、小さい頃から舞踊の特訓を受けているのだから当たり前なのだが、今だに感動してしまう。
花形歌舞伎で非日常を思う存分味わった私は、その後、月1回程度の頻度で歌舞伎を見るようになり、歌舞伎好きな人が集まる会にも参加するようになった。まだまだ勉強中ではあるが、歌舞伎のなり立ちや有名な演目を知るうちに、江戸時代の民俗に触れ、当時の人たちの価値観を感じとることがある。今との違いや似てるところを見つける度に、歌舞伎を通してその当時の人たちに親近感だったり、時に哀れみだったりを感じることが面白い。古典などは300年以上前の演目が今目の前で演じられており、それを見て、いつの時代も見物人がハラハラさせられたり、笑ったり、泣いたりしているのだから、何か普遍的な魅力が根底にあるのだと思う。
それまで馴染みのなかった歌舞伎だが、定期的に見るようになってからは実は手軽に見れるものであることを知った。一等席などは1万円を超えるのだが、3等B席は3,000円~4,000円程度と、映画も2,000円となるご時世で考えると、そんなに変わらない金額感で、3時間程度の演目が見れてしまうので、ある意味おトクではないだろうか。初心者にも見やすい演目もあるので、機会があったら、是非見てみてほしい。その時、現代物以外はイヤホンガイドを借りるのを強くお勧めしたい。歌舞伎は、セリフ以外にも長唄や衣装などにも意味がある奥深い演劇だからだ。
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