メディアグランプリ

息子はライバル


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:服池板(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「釣れた!」
町内釣り大会、2時間1本勝負のスタート直後、大きな声を出したのは、釣り堀の向かい側で釣っていた親子のお父ちゃんの方だった。横にいる子供は、ちょっと複雑な顔。お父ちゃんは、満面の笑み。お父ちゃんが大物釣ったことを自慢し過ぎて、子供がしょんぼりして、家に帰ったら、お母ちゃんに叱られるパターンのヤツや。たぶん。
 
しかし、なかなか釣れない。実は毎年、子供会イベントの魚釣り大会に参加している。ここで釣れる魚は、鯉、フナ、ヘラブナ。たまにナマズが釣れる。魚が大きいこともあり、元々、なかなか釣れない。今までこのイベントに参加して、一番多くて3匹。少なくてゼロ。たいてい1~2匹だったような気がする。
 
今日は、幸いにも五月晴れで、とても気持ちが良い。釣り場所も、日陰がとれたので、暑くなく、快適に釣りに集中できる。隣の息子がいなければの話だが。
 
釣りをする前に、参加者全員で集合し、釣り堀店主から釣り方の説明を受けた。エサの付け方、そして、釣り方。毎回聞いているので、頭に入っている。
 
ウキがサッと沈んだら、その瞬間竿がシュッと鳴るくらい素早く上げる。これ、この瞬間を逃すと、逃げられる。
 
この瞬間を何度逃しただろう。ウキに集中していても、余計な事を考えた瞬間、他の人が釣れた時、どうしてもウキが見えなくなる。そして、その一瞬を逃してしまう。
 
周りから見ると、どう見ても釣り糸垂れて、ボケーっとしているようにしか見えないが、実は集中している。周りが見えなくなるほど、集中している。視線の先には、橙色の蛍光色のウキがある。
 
左隣の息子が座って釣り始めた。
「何釣りたいの?」
「深海魚!」
「いるわけないやろ! ここの水深、一番深いところで2Mやで。鳥羽の海女さんが潜ったら、頭打つわ」
そんな、たわいのない会話をしながら、真剣に自分のウキを見ていた。
 
「釣れたぁ~!」
隣の小学生の息子が言った。
「えっ!」
と横を見てみると、自分のズボンを釣っている。
「お母ちゃんにおこられるでぇ」
と言って、すぐ、自分のウキに目を戻す。
もしかして、今の瞬間にチャンスを逃していたら、お小遣いカットしてやろう。
 
「のんびり、釣り糸を垂れるのもいい時間ですねえ~」
今度は、右隣からおじさんが声をかけて来た。
「こんな時は、忙しいしことを忘れて、ボーっとするのがよろしいな~」
ボーっとしていない。真剣に見ている。他のことは考えず。ずっと見ている。自分のウキを。でも、会話を終わらせたいので、無難な回答を選んだ。
「そ、そうですね」
「こんな時は、仕事のことを考えたらあきまへんなぁ」
思い出した。そんなこと言うから、思い出したじゃないの。金曜日の夕方、大事な仕事が残っているにも関わらず、誘いを断れず飲みに行ってしまったことを。嫌なこと言うな~。僕の楽しい日曜日を半分返して欲しい。ワクワクした気持ちがなえたやないの。
 
「釣れた~!」
今度は左隣の息子。
「木をつったでぇ~」
確かに、木の枝に釣り針が引っかかっている。
「君は何をしに来てるんじゃ? スタッフの兄ちゃん呼んで取ってもらい」
 
なかなか集中できない。
気分を取り直して、一度、仕掛けを上げて、エサを付け替えて、また、池に落とす。
「ポチャ。」
水面に広がる波紋。水面から斜めに浮き出て、きちんと直立するウキ。さあ、ひと勝負だ。目は離さない。ジッと見つめる。さあ、いつでも来い。コイだけに。(笑)
 
「釣れた~!」
今度は左隣の息子。
「今度はなんや。つ、釣れてる。アミ、アミ、アミ。こっちこっち!」
 
息子に先を越された。
自分を釣って、木を釣って、鯉も釣った。サッカーやったらハットトリックかもしれない。
 
アセル。アセル。自分はまだ、釣れていない。経験者として、父親として、負けてはいけない。これで、ボウズで帰る訳にはいかない。
 
どうする? どうすると言っても、釣るしかない。だんだん、体が痛くなってきた。同じ姿勢を取っているので、体が痛い。ついでに、座っている椅子が木製の銭湯に置いているような椅子なので、お尻が痛い。
 
ここは、辛抱だ。ジッとその時を待つのだ。釣れる。釣れる。必ず釣れる。
 
ピクリとも、ウキが動かない。そんな時は、エサを取り換える。そして、ゆっくり池に落とす。
 
「釣れた~!」
「今度は何を釣ったんや~」
「足場の板を釣った」
 
笑顔を見せる余裕はなく、視線はウキへと戻した。また、ウキとにらめっこ。エサを替え、にらめっこして、エサを替える。
 
とうとうその時がやって来た。ウキが下に素早く潜った。その瞬間、竿をシュッと上げた。
 
獲ったど~と心で叫びながら、右横の息子を見た。いない。友達と遊んでいる。
「おーい、父ちゃん釣れたぞ~!」
わざわざ、友達と遊んでいる子供を呼んで、釣れた魚を見せた。ヘラブナだった。
針を外すスタッフが、
「きれいなヘラブナですね。きれいなヘラブナですね」と2回言った。
 
ヘラブナと言えば、釣るのが難しいと言われている、あの魚ではなかっただろうか?
1日に1匹釣れるか釣れないか、ヘラブナとの頭脳戦を楽しむ、その釣りキチを魅了してやまないあのヘラブナじゃないのか。
 
「きれいなヘラブナですね」
もっと大きな声で言って欲しかった。
近所の大人たちに聞こえるような声で言って欲しかった。
 
言われた瞬間、ヘラブナが、銀製の彫刻のように輝いて見えた。ちょっと嬉しかった。ニヤリ顔がとまらなかった。今思うと恥ずかしい。自分ながら大人げないと思う。
 
結局、息子1匹、自分が1匹で引き分け。子供会で一番多く釣ったのが2匹だったので大健闘だった。
 
今夜は、美味しいビールが飲めそうだ。この充実感。息子にはわかるまい。
 
 
 
 
***
 
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2023-05-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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