メディアグランプリ

今を生きる若者と、かつての今を生きた若者が嫌うもの


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記事:花 橋子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「まったく最近の若者は!」
 
この一文を読んで、あなたはどんな気持ちになっただろうか。
 
イラっとしたあなたは、まだ学生の人や若手と呼ばれる社会人だろうか。わかるわかると首を縦に振ったあなたは、もう社会に出てベテランと呼ばれる域に到達している人かもしれない。
 
わたしは、学校を改善する学生委員会の担当教員をしている。この委員会は、学校生活をよくするための学生目線の案を作り、学校側に提案することを目的としている。学校が考えるものは、どうしても教員目線のものとなってしまい、学生のためと思ってやっていることが、実は学生は求めていないものかもしれない。だったら、学生側の意見を聞く機会を設けようじゃないか、というのがこの会の発足のきっかけだ。
 
もちろん、ただ提案するだけではつまらない。最終決済者である校長にプレゼンテーションをしてOKが出れば、実現ができるのだ。
 
委員会初日、改善点の意見出しを行った。この日が初顔合わせということもあって、学生は静かにポストイットを書いている。すると、「その案、いいね!」と声が上がって、そこからわっと会話が弾みだした。
 
その案は、「10分前登校の廃止」というものであった。
 
10分前登校とは、授業開始10分前に登校する、という学校のルールだ。目的は2つ。1つめは、授業をスムーズにスタートさせること。2つめは、早めに来て準備をするという社会人として当然の姿勢を身につけてもらうこと。
 
10分前登校の効果はてきめんで、遅刻者がバラバラと入ってくることがなくなり、よい気持ちで授業がスタートができている。遅刻者にプリントを再配布したりもう1度説明したりすることもなく、当然ながら授業もスムーズに進む。教師にとっても学生にとってもいいことばかり……と思っていたが、廃止したいとは一体どういうことか。理由を聞いてみた。
 
「ちょうどいい時間の電車がない」
「10分前に来ても、1分前に来ても、変わらない」
「先生だって遅れてくることはある」
「1分遅れても、そんなに授業に影響があるとは思えない」
 
「最近の若者は!」と叫びたくなったが、そこをぐっとこらえる。
 
「そもそも、時間は守らなければならないっていう発想が昭和なんですよ!」と言われたときはひっくり返りそうになったが、それでも、しばし歯を食いしばって話を聞いていると、話の展開が少し変わって来た。
 
「先生と学生の間には絶対的な上下関係があるから、従わざるを得ない」
「社会に出たら……と先生は言うけれど、それを言われたらまだ社会に出ていない僕たちは何も言い返せないからずるい」
 
次々と教師と学生の関係についての不満が出てきて、わたしはこう思った。
 
学生たちって、なんて真面目で、純粋なんだろう。
 
教師の言うことは聞かなければならない。しかし、納得できなかったり、反発したりする気持ちはある。でも、それをぶつけていいかどうかもわからない。結果、自分たちの中でぐずぐずとくすぶってしまう。
 
自分が学生の頃はどうだっただろう。もしかしたら、もっとも反発を覚えたのは、「そういうものだから」「そのうちわかる」というような、「今」の自分の疑問には何も答えていない、時間が解決するような言葉だったかもしれない。
 
大人にとっては「過ぎた疑問」でも、彼らにとっては「今の疑問」なのだ。学生時代のわたしは「そんなものかな」と納得してしまっていたが、彼らは「大人たちは、自分たちにわからないところから話をしている」ということにきちんと気が付いている。
 
わたしは彼らに2つ提案をした。1つ目は、10分前登校をしていることにより改善したことと不都合になったこと、どちらが上回るかを客観的に分析すること。そして、不都合になった点が多いようだったら、案として本格的に検討しようと伝えた。話し合いを始めてすぐ、「いつも遅刻していた奴が遅刻しなくなった」「遅刻者のために待たされることがなくなった」という意見が出始め、「意外と悪くないかも」と一気にトーンダウンした。
 
もう1つは、「公共交通機関の時間が合わなくて、困っている人がたくさんいる。みんなが不便を我慢しているのが許せない!」と憤っていた学生に対し、自分の10分前登校の免除を担任に依頼するという提案。「教師だから無条件に従う」のと、「意見を戦わせた結果、従う」のでは、納得の度合いがまったく異なる。また、「みんな」ではなく「自分事」として、まずはこの問題に取り組んでほしかった。自分の意見が正しいと思うなら堂々と主張したらよい、納得いくまで話し合って、と背中を押した。
 
後日、この学生は勇気を出して担任の元に向かって話をした。この案にすら反発している様子だったので意外だったが、うれしかった。残念ながら10分前登校を免除してもらうことはできなかったが、話をしたことで何かを感じてくれていたらいいなと思う。
 
 
最近の若者は、いや、いつの時代の若者も、わかっていないことは多い。それは時に年長者をイラっとさせたり、不安にさせたりするだろう。しかし、まだ彼らは、わたしたちが「わかった」経験をしていないのだ。だからこそ、いつの時代の若者も「そのうちわかる」という言葉に反発するのだ。
 
若者は、わたしたちがすでに終えた「今」を生きている。この「今」を大切に見守るのも、年長者の役目ではないかと思う。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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