趣味の欄に「脱毛ホームパーティ」と書いてしまった。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:宇都宮秀男(ライティング・ゼミ6月コース)
誰にでも過ちをおかしてしまうことはある。
悪気もなく、おかしてしまうことがある。
私は映像制作会社を経営している。私以外のスタッフは全員がフリーランス(業務委託契約)で、30名近くのクリエイターとともに仕事をしている。
ある日、スタッフからの提案で、notionという業務アプリ上に「自己紹介コーナーをつくろう」という話になった。それぞれのスタッフが全国各地にいて直接会う機会も少ないので、「自己紹介コーナー」はお互いを理解し合える貴重な場になると思い、二つ返事でOKした。
スタッフが段取りを整えてくれたので、私は率先してすぐに自己紹介を記載した。仕事の「得意分野」だけでなく「苦手なこと」も書くことで、積極的に自己開示し、自分の強み弱みを正直に書くことを意識した。
ちなみに「苦手なこと」の欄には、「事務作業、ルーティンワーク、管理的な仕事」と書いた。仕事においてお互いの「得意なこと」を知ることも大事だが、「仲間は何が苦手なのか」を知ることで、相手の苦手なタスクを悪気なく振ってしまうことをあらかじめ回避することができる。これは下手にAIやロボットを導入する以上に、仕事の効率を上げてくれると密かに思っている。
僕自身が自ら「苦手なこと」を書くのは、スタッフのみんなにも積極的に自己開示をしてほしいという気持ちの裏返しであった。多くの人は自分の自己紹介を書く前に、まずは他人の自己紹介を見て、雰囲気を掴むだろう。
「ああ、こういのを書けばいいのね」という具合に。
心理的安全性が保たれた場であることを、自らの自己紹介欄で示したい気持ちがあった。
すると、数日経ったある日、自己紹介コーナーをつくってくれたスタッフから、こんな連絡がSlackのメンションつきで届いた。
「@宇都宮秀男 記入ありがとうございますー!脱毛ホームパーティが気になりすぎるんですが!!」
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一瞬、何のことだろうと思ったが、すぐにハッとした。
慌てて、自分の自己紹介コーナーを見返してみた。
趣味の欄に「ベランダ菜園、料理、脱毛ホームパーティ(遊びに来てね)」と書いてある。
まずい、やってしまった……。
「脱毛」と「ホームパーティ」の間に読点を入れ忘れたことで、「脱毛ホームパーティ」という異様なワードを生み出してしまった。悪気もなく、過ちをおかしてしまった。恥ずかしすぎる過ちだ。
最近始めた「ヒゲ脱毛」について誰かと話してみたかったのと、赤坂に引っ越したばかりで人生初めて大きめのダイニングテーブルを買ったので「ホームパーティをやってみたい」という切なる願いが、完全に裏目に出てしまった。
しかも「脱毛ホームパーティー」の末尾に添えられた(遊びにきてね)が余計に不気味さを助長している。
直前の(ベランダ菜園)さえ何だか怪しいものに思えてくる。赤坂のマンションでいったい何を栽培しているというのか。事件性の匂いさえ感じさせる力が「脱毛ホームパーティ」にはある。
サムネイルにもなっているお気に入りのオレンジソファさえ、もはや、脱毛ホームパーティのメイン会場に見えてきた。
「積極的に自己開示して欲しい」その切なる思いを込めて書いたはずなのに、自己開示の方向性が、相当まずいものになってしまった。危ない性癖みたいなものを披露する場と化し、心理的安全性はもはや1ミリも担保されないものになってしまった。
わずか数秒の間に、いろんな思いが頭を駆け巡った。
特に新しく入ってきたメンバーのことが頭をよぎった。
締結したばかりの業務委託契約書が、本人の申し出により解除されてしまうかもしれない。
……いや、さすがにそれはないか。
というか、みんなもすぐに気づくだろう、「読点を入れ忘れたんだね」と。
指摘された時点で、すぐに修正することもできたが、むしろ、この過ちをそのまま放置してみたい気持ちが強くなった。気忙しい世の中で、ほんの少しでもクスッと笑ってもらえる可能性が「脱毛ホームパーティ」にはある気がしたし、みんなの酒の肴にでもしてもらえたら、この恥ずかしさは容易に解消されるだろう。
悪気があって過ちをおかしたのなら、もちろん謝罪し、反省し、修正すべきだろうが、悪気もなく過ちを犯したのであれば、謝る必要もないし、反省する必要もない。結果的には、修正する必要もないのではないか。
そうだ、悪気のない過ちは、ありのまま残して、笑いの種に変えていこう。
日本は恥を重んじる文化だ。いや、重んじすぎる文化だ。
悪気があろうがなかろうが、ちょっとした過ちさえすぐに炎上の種にしたがる。
もっと寛容になろうよ。せめて、悪気のない過ちに対しては。
そんなポジティブアンチテーゼの願いを込めて、今もなお僕の趣味の欄には「脱毛ホームパーティ(遊びに来てね)」と書いてある。
もちろん、当面、ホームパーティには誰も遊びに来てくれないだろう。
***
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