メディアグランプリ

できるようになること、できなくなるということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
娘は、間違えずに帰ってこれるだろうか。少しソワソワしながら路面電車の停車場の手すりにもたれかかる。
 
暑い一日だった。照り付ける日差しに目を細めながら、スマホで時間を確認する。
 
もう10分も待っているだろうか、ようやく路面電車がやって来る。ドアが開いて人がまばらに出てくる。背伸びをして覗き込んでもなかなか娘は見つからない。
 
すると、遠くの方から「あ、ママいた!」という見慣れた声が先に届いて、ひどくホッとした。
 
娘は、上級生の女の子と2人で歩いてきた。その姿はまだとても小さくてランドセルが歩いているみたいだ。それでも、嬉しそうに近寄ってきた姿はなんだかとても清々しくて急に大きくなったように思えた。
 
「おかえり、頑張ったね」
 
入学して2か月程、いつもは姉と一緒に電車で登下校している娘が、初めてひとりで電車下校してきた。
 
それは、今朝、突然決まった。「そのうち一人で帰る練習もしないとね」と何気なく言ったら、娘は『ねぇねがいないと絶対に無理~』とひとしきり泣いた。そりゃあ、まだ不安だよねと共感し、そのうちに頑張ろうねと言おうとしたところ、突然泣き止むと『じゃあ、今日、乗り換えの駅まで自分で帰ってみる』と言い出したのだ。その一瞬の間に不安よりも冒険心が上回ったのだろうか、むしろ私の心が不安でいっぱいになった。
 
なぜ、今日なんだ。私も用事が入っていて、帰りの時間が読めないというのに。それでも、本人のやる気に水を差したらこの先いつ気が向くかわからない。自分も腹をくくって予定を調整し、送り出したのだった。
 
結果、上級生と一緒に帰ってきてくれたので、そんなに大きなトラブルはなかったけれど、娘は相当自信がついたようだ。緊張感から解放されたのだろう、いつもよりも饒舌に話をしてくれる姿に思わず顔がほころんだ。
 
子どもは、知らないうちに沢山のことができるようになっている。生まれた時にはあんなに頼りなかったのに、あっという間に寝返りを打って、立ち上がり、歩けるようになって、話すこともできる。そこから数年しかたっていないのに、泳いだり、高いところまで登ったり、大人よりも上手にできることが増えていく。私達の目の届かないところでもどんどん成長して、それが親の私にとっては頼もしくもあり、時には寂しくもある。
 
時がたてばできるようになることが増える、今までは、そんなところにしか目を向けなかった。
 
けれど、40代になり、日々を過ごしていると、できるようになることもあるけれど、できなくなることもあるんだ、ということに気づくようになった。私自身も体力がなくなって、若い頃のように徹夜で遊んで次の日に会社に行って……なんていうこともできなくなった。
 
でもそれ以上に、親ができなくなることが目につくようになった。パソコンの扱いで何度も同じことを聞かれるとイライラする。
 
「そんな風に一度に沢山言われたってわからない!」
 
年賀状を作るシーズンになると、必ず親との押し問答が始まる。せっかくわかりやすいように教えたつもりだったのに不機嫌そうに言い返されるとこちらもうんざりしてくる。だったら、わざわざPCを使わなくても手書きで書けばいいのに……と意地悪なことを考えてしまう自分がいる。
 
それに、何かしようと提案しても、めんどくさがって中々動いてくれなくなり、日々の言動が愚痴っぽくなって、何度も同じことを繰り返して聞かされるようになると、親と接するのがしんどくなってくる。実の親も義理の親もまだ人の手は借りずにそれなりに元気に過ごしてはいるけど、あきらかにできないことが増える。私は、そんな親達のことを、なかなかうけいれられなかった。
 
そんな時に、人から教えてもらった詩に衝撃を受けた。『親の老いを受け入れる』という詩で、長尾和宏さんという在宅医療に関わる医師が書いたものだ。
 
『親が老いていくということ
それは何度も同じ話をするということ
何度も同じことを訊いては、
あなたを苛々させるということ』
 
という出だしで始まり、あるある、わかる、という、人の老いていく姿や気持ちを描写してくれている。それを読みながら、今までは、「やればできる」というところにしか目が行かなかったのだということに気づき目からウロコが落ち、切ない気持ちになる。やればできる、と思っているから「やってもできない」ことが年を取ったら当たり前のことなんだと受け入れられなかったのだ。
 
若くてなんでもできるというのは時には残酷なのだ、今まで親にしてきた態度を反省はするけれど、改心して寄り添ってあげるにはもう少し時間がかかりそうだ。そんな未熟な私に、先ほどの長尾医師の詩は、最後に優しくもナイフのようにするどい言葉を残してくれる。
 
『あなたもいつかこうなるのだと
それは最後のプレゼント』
 
親たちが今の私の世代の時代があったのと同じように、私もまた、親たちの世代にいつかなるのだ。その姿を、身をもって見せてくれているのをプレゼントだという。
 
「できるようになること」も「できなくなっていくこと」も、大なり小なり誰もが経験するもの。
 
私は、親たちから与えられる『老いを受け入れる』というプレゼントを、感謝を込めて受け取れるだろうか。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-06-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事