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やる気のある者は去れ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平沼仁実(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「うまく弾こうとして力が入ってしまっていますね」
 
数か月前から私は、ウクレレを習っている。
大人になってから初めての習い事だ。
 
きっかけは、知人がウクレレを弾いているのを見たこと。
その音色と「初心者でも始めやすい」という言葉に、やってみたい! と直感的に思った。
 
音楽といえば子どもの頃にピアノを習っていただけで、それ以降は聴く専門だった。
20代の頃、ジャズのライブにハマっていた時期がある。ジャズバーでビールを飲みながら聴く生の音楽は最高だった。
けれど子どもが産まれてからはもう何年も足が遠のいている。
今となっては通勤時に好きなアーティストの楽曲を聴くくらいだ。
 
それほど音楽との親しみが深いわけでもない自分が、直感的にウクレレをやりたいと思った。
その日のうちに近くのウクレレ教室を探して、体験レッスンを申し込んだ。
そして体験レッスンを受けた当日に、教室に入会した。
 
「ケースにしまわず、いつも目につくところに置いて、毎日少しでもウクレレに触るように」
レッスン初日に先生に言われた言葉を、真面目に守って練習する毎日。
 
「初心者でも始めやすい」とは聞いていたものの、やってみるとそんなに簡単ではない。
弦を押さえている左手の指が、隣りの弦に触れてしまって音が響かない。
しっかり押さえようとしてつい力が入りすぎてしまい、指先の感覚が麻痺している。
 
習った数個のコードで弾ける曲はまだ限られている。
けれどただ音を奏でるだけでもその音色に癒されるし、弾くこと自体が楽しい。
 
教室に通い始めてから数回目のレッスン日。
その日は4本の弦に、右手の人差し指の爪を上から下、下から上へと当てる、ストロークという弾き方を習っていた。
 
練習だとうまく弾けるのに、「さあ合わせてみましょう」と言われると何だかうまくいかない。
そんな様子を見ていた先生が一言。
 
「うまく弾こうとして力が入ってしまっていますね」
「真面目に4本全部の弦に当てようとしなくても、どこかに当たれば音は鳴ります。もっと適当でも大丈夫です」
 
言われた通り力を抜くことを意識して弾いてみると、うまく弾けた。
そうか、自分でも気がつかないうちに力が入っていたのか。
 
正しくやろうとしすぎず、もっと力を抜いた方がいい。
その言葉がやけに心に響いた。
 
うまくやろう、正しくやろうと頑張ること自体は間違っていない。
ただそれを追求しすぎると、逆にうまくいかなくなることがある。
私は、ある言葉を思い出していた。
 
「やる気のある者は去れ」
 
もともとはタモリの名言として知られているというその言葉。
今の職場で働き出した時に、上司がよく口にしていたのだ。
 
やる気を出して頑張るのは良いこと。
幼少期、学生時代、社会人に至るまで、ずっとそういった価値観の中で育ち、生きてきた。
それが社会の常識だと思っていた。
 
だから彼のその言葉は衝撃的だった。
やる気があるより、ない方が良いのか。
ここでは、やる気を出してはいけないのか。
ここは、やる気のない人たちが集まっている職場なのだろうか。
 
なんだかまずい職場に来てしまったのかもしれない。
一抹の不安を覚えながら働き始めたが、実際はやる気のない人たちばかりではなかった。
 
むしろそんなことを言っている彼自身が、この職場の中で一番よく働いていた。
困っている人、必要としている人がいれば、自分の守備範囲を限定せず親身になって、熱心に働いていた。
彼自身が一番やる気があるように見えた。
それなのにいつも「適当にやろう」が口癖だった。
 
言っていることとやっていることが違う。
彼の言葉と行動との間に、大きなギャップを感じていた。
その時の私には、その言葉の意味することが分からなかった。
 
あれから何年も経ち、ふと思い出したその言葉。
 
世の中にはやる気のある者ばかりではなく、やる気のない者もいる。
やる気のある者は自分が頑張るあまりに、周りにも自分と同等の頑張りを求め、それがやる気のない者を苦しめることがある。
そうならないような職場にしたい。
彼が言いたかったのはそういうことだったのではないだろうか。
 
やる気のある者が頑張り過ぎず、やる気のない者が少しでも頑張れるように。
頑張ってしまう、やる気のある自分自身への戒めの意味もあったのかもしれない。
 
頑張り過ぎず、力を抜いた方がうまくいくこともある。
ウクレレがそう教えてくれた今だからこそ、あの時のあの言葉の意味を初めて理解できた気がした。
 
直感的に「やりたい!」と思い、始めたウクレレがくれたのは、癒しや楽しさだけではなかった。
ウクレレとの出会いは、私の中にある潜在的なニーズが引き寄せた必然だったのかもしれない。
 
ウクレレも人生も、もっと力を抜いて奏でていこう。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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