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クスリ苦いかしょっぱいか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚本 牧生(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「クスリクスリ、クスリ苦いかしょっぱいか」
 
そんなフレーズを口にしながら歩く。今日から処方された、長いお付き合いになりそうな薬を片手に。
 
もちろん薬なんて苦いに決まってる。だから「お薬、処方しましょうか」なんてお医者さんに言われれば、口ごもる。もちろん分かっている。医者が薬を出すというのは、必要だから出すのだ。でも、うーん、ちょっと。えー、でも。それ、どうしても?
 
子供のころ、薬が嫌いだった。あの苦い味がいやだった。なかなかのどを通らない錠剤の大きさがいやだった。口中に張り付いていつまでも苦い粉薬がいやだった。甘くコーティングされた糖衣錠だって、けっきょくなめているうちに苦くなる。子供のころの薬嫌いは、ほとんどが「苦い」とか「苦しい」という感覚につながっている。
 
もっとも僕もいまや、いい年だ。薬が苦いからイヤなんて言うわけない……とも言い切れない。
 
いや、薬の味が苦いのは大丈夫。味覚的に言えば、苦みの美味しさも覚えた年だ。秋刀魚のワタのほろ苦さ。プリンの苦みのしっかりしたカラメル。香ばしさと一体のお茶や珈琲の苦み。それに喉の太さも子供のころと違う。だから大粒の錠剤やカプセルもあっという間に喉を通る。苦い粉薬も、口中に留まらずさっと流れていく。
 
苦みが平気になると、頭痛の痛みとか、発熱の苦しみとか、そういう辛さを抑えてくれる薬はむしろありがたい存在になる。一人暮らしを始めてから数年で、常備薬もそれなりに充実した。いまなら、薬には助けられていると思える。
 
でも、その薬は、うーん、ちょっと。えー、でも。それ、どうしても?
その薬というのは、高血圧の薬だ。
 
去年の健康診断でいろいろと引っかかった。簡単に言えば、全部ひっくるめて生活習慣病。しっかり診断をしてもらって、本気で何とかしようと思って、生活習慣病を専門にしている内科に足を運んだ。「まずは血糖値と血圧をコントロールした方がいいのだけど、節制しますか、薬使いますか」。そう聞かれて、薬という選択に抵抗感を覚えた。
 
それさ、ずっと飲み続けるんでしょう?
飲まないとどうなるの?
飲んでて効かなくなったりしないの?
効かなくなったら、もう後がないってことにならないの?
それ、いきなりファイナルステージって感じするんだけど?
 
そんな思いは、舌じゃなく心に苦かった。
 
節制を選んだ。食事療法として、朝食メニューの見直しとか、全体的な食べ方の指導とか。それから運動療法として、毎日一定量の運動とか、有酸素運動より筋トレをみたいな内容指導とか。「これぐらいの数字なら、体重が落ちれば概ね落ち着くと思いますよ」。そう言ってくれた医者の言葉にホッとした。
 
そして、真剣に節制を始めた。真剣に薬から逃げ始めた、とも言う。でもそれだけじゃない。食事で我慢をすれば、その分だけ体重が減る。運動をすれば、体重が減っても筋肉量が減らない。つまり脂肪だけが減ったことになる。やればやっただけ、そうした結果が数字で出てくるのは、性に合った。9か月間、一度の横ばいがあっただけであとは体重が減り続けた。
 
ずいぶん変わっただろう。そう思いながら、診察にも行った。体重が今月も減りましたね。先月の血液検査の結果、出てますよ。血糖値も、コレステロールも、それからあれもこれも。ずいぶんよくなってますよ。そんな話の後に、「でも」と続いた。
 
「血圧が、ずっと変わらないんですよね。様子を見てきましたけど、そろそろお薬始めませんか」
 
その一言は、前よりいっそう心に苦かった。前の「いきなりファイナルステージって感じするんだけど? 」へと続く一連の思いに、もう二つ加わった。
 
ここまで続けてきた減量チャレンジ、ダメだったってことだよね?
減量チャレンジはダメだったから、もうおしまいってことだよね?
 
薬って、大人になっても苦い。それが舌に苦いだけなら、がまんできるようになった。でも心にも苦い。苦い×苦いで苦々しい。そう思った。不摂生を積み重ねてきた自業自得なんだとか、年齢を重ねてきた避けられない老化なんだとか、どちらももう終着点へ向かう旅路なんですよと言われてように思った。結果を出せないうちに引退を勧告された、そんな感じがして、苦かった。
 
実は性懲りもなく、ここでもう一度逃げた。「でもまだ、減量も続いてて、踊り場とか底を打ったという感じしないですよね?」と言ったら、「そうですねえ」と言ってもらえた。でも翌月もまた「薬を」と言われてしまった。もう、逃げちゃいけないところに来てるんだろうな。まだ逃げたかったけど、そうも思った。説明を、改めてちゃんと聞くことにした。
 
「血圧が高いと血管はダメージを受けるんです」
「血圧が高い期間が長いほど、ダメージが溜まります」
「だから高血圧の薬は早く飲み始めた方がいいのです」
「体質的になりやすい人もいる、そんな人には20代だろうと飲み始めるよう勧めています」
「多くの人が飲み続けている、穏やかで安全な薬です」
 
あれっ、と思った。僕は勘違いしてるんじゃないか? 飲み続けるなら、高血圧を治す薬じゃないということだ。それって、減量チャレンジはまだ必要ってことだよね。引退していいとか引退しろという話じゃない。むしろ血管のダメージを抑えて、引き続きじっくりチャレンジしていくための延長戦期間を作ってくれる、そういう薬ということだよね。
 
おかしな話だけど、治らない程度の薬だというのが、むしろうれしく思えた。薬を飲まなきゃいけないってのは、まあしょっぱいシチュエーションだ。でも苦いって程じゃない。まだ薬以外の部分で、体の回復に期待できる。回復次第では、薬が要らなくなる可能性だってまだある。体の回復に期待して、減量チャレンジを続ける意味がある。まだ負けと決まったわけじゃないぞ、と思った。
 
この薬は苦い薬じゃない。しょっぱい薬。
 
そう考え方を変えたら、ちょっと飲んでみるかと思うことができた。「クスリ苦いかしょっぱいか」なんて口にしながら、処方薬を受取って帰る。「塩気は食事に欠かせない」なんてつぶやいて、朝ごはんの横に一錠の薬を並べる。朝の食卓はほんのちょっと変わって、僕のチャレンジは変わらずに続いていく。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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