李(すもも)も桃もモモのうち
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:コスモス(ライティング・ゼミ4月コース)
早口言葉の定番に“すもももももももものうち”がある。同じようなもの、たいして違いはない時のたとえとして使われることもある。
でもね、同じバラ科とはいえ、味も食感も見た目からして違う。共通しているのは旬の時期に出回る美味しい果物という点だ。年中出回ってないところがいい。旬の時期は手ごろな値段で手に入れられる。それも嬉しい。
「一学期だけでしたが、二学期もお願いできませんか?」
と、派遣会社の担当者から、ジムのプールで歩こうと夕方、道を急いでいるときに電話がはいった。
「それはまた、なんでですか」
ピンチヒッターで雇用されただけの使い捨てのコマなのだ。だから、作業用机は曜日ごとで使用者が変わり、共用だったりしている。員数合わせだけの雇用なのだ。
それなので、「しばらく考えさせてください」と即答を避けた。
大学非常勤講師の職が定年でなくなり、昔取った杵柄とばかりに非常勤の高校教師として週2日ほど働いている。2校目だ。有難いことにどこに行っても、DX化の進行によって、授業資料の共有が容易になり、私などは大いに恩恵にあずかっている。
つまり、同じ科目、同じ学年で別々のクラスを受け持った時に、同じ教科書を使っているならばすでに作成してあるPPT資料などをダウンロードして、教室に行っては映写しながら解説ができる。作成者の労力を思うと申し訳ない気持ちだが、指導内容を一定に保つにはすこぶる効果がある。授業者の伝え方によっていろいろと工夫できるところも有難い。
でもこれって、授業を受ける立場のニーズに合っているのかと大いに悩むところだ。
授業者は学習者が教科書教材を読み込む前に解説してしまうので、押し付けになりかねない。それでも受験勉強では、そうした細かい事柄を知っておくことも必要なのだけれど。
「え~!! 今学期で辞めちゃうの~! いやだ~! 困るぅ~!」
女子生徒たちのあくまで明るい叫びを聞くと、心が躍る。
恥ずかしながら、今までこんなにモテたことはない。しかも乙女たちにだ。
私が、目の前の乙女たちの祖母にあたるくらいの年齢だから、彼女らは私に対する遠慮がない。そのうえ、私が彼女らを孫のように可愛く思っているのが伝わるからか、いつの間にか私の授業は、発言を競い合うようになって活気に満ちてくる。
しかもテストが近づくと点取り虫がそこいらじゅうに、やる気スプレーをシュッシュ・シュッシュとし始めるからますますヒートアップする。
私もやる気にあてられ、テスト点数を上げるやり方にシフトしまっている。ここの部分がポイントで点が稼げるところなどと、わざと皆に知られるように言ってしまっていたのだ。
桃とスモモでは全く違うのだが同じバラ科だ。
学習者も同じように見えて、パターンがある。
一方の学び方は、学び方を学ぶなどという学びの原則はどこかに飛んでしまい、点数が稼げるのは此処ねというところをしっかりキャッチする。
もう一方の学び方は、教えこまれただけのことでは満足しない。授業時にはもちろん、終わった後まで質問にやってくる。アイパッドを持ってはしきりに写メを撮る子たちをしり目に、その科目専用に作ったノートを片手に質問にやってくる。かなわないなと思いながらも嬉しくてならない。
「良い質問ですね」と、まずは勇気を出して教卓までやってきたことを労ってから答えることにしている。私は学校現場に12年のブランクがある。間違えて教えてしまうこともある。だから、鋭い質問には冷や汗だ。ただ、そこはそれ、亀の甲より年の効で、あなたのお蔭で訂正できたわとさりげなく逃げる。
私もそうだが、知恵がつく過程は皆、同じだとつくづく思う。知識というもの、興味というものはその人に必要があってこそなのだ。必要から始まったことが、探究心となり知恵になって実際に活用できるようになる。それがいつになるかは誰にもわからない。私のように年をとってから高まることだってあるのだ。
今、彼女らに必要なのは受験に必要な知識や、質問に答得られるだけの理解力だ。学びが好きな甘い桃であろうと、つぎのステップを踏みたいために詰め込みをやっているに過ぎない少しばかり甘酸っぱいすももであろうと、長い目で見れば、いかほどの差があろうか。
「いや~ 今日でお別れッていうので、生徒さんから嬉しい言葉をたくさんいただいたのに、終わりにならずに、嘘をついたようで恥ずかしいです。それでも、私でよければ喜んで働かせていただきます」
とは、私の派遣会社への返事。
あくまでも私は派遣社員に過ぎないから、会社から学校に経験を重ねたところに私の強みがあるのだとうまく伝えてもらわなければならない。。
李(すもも)も桃も旬な果物だ。時期を逃すと店頭に並ばなくなる。現代は四季を問わず店頭に並ぶ果物が多い。そんな中で、李(すもも)も桃も、その時期だけに出会えるものだ。
多様な個性と感性を持った人たちが、若い時期ならではの素晴らしさを見せてくれるのが学校というものだ。旬の時期をとっくの昔に通過したからこそ、学校生活が貴重だということをよく知っている。だから、私は、学校の様々なドラマを見せてもらっているだけで嬉しいし、心が弾む。しかも研究のフィールドでもあるから。
常勤だとか、非常勤だとか、派遣だとか、それらは雇用形態の差でこそあれ、実力の差ではない。私だとて、“桃のうち”
つまり、多様な人材の一つだと開き直って、仕切り直しだ。
***
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