メディアグランプリ

手ぬぐいと、祖母が教えてくれたこと。


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記事:とみづか みほ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
手ぬぐいが好きで何枚か持っている。特に大事にしているのは赤い実の手ぬぐいだ。クリスマスやお正月を思わせる丸い小さな実が描かれている。
 
亡くなった祖母が入院している時に、この柄の手ぬぐいを贈った。
祖母の家には千両の木があり、それを思い出してもらえればと思ったのだ。
病気でだんだん体の自由がきかなくなっていった時も、狭いベッドの上で一生懸命体を向けてその手ぬぐいを眺めていたと、後から聞いた。
 
祖母に贈った手ぬぐいは、葬儀の日に棺に納めてもらった。
今私の手元にあるのは、同じ柄を後から買った別物。
それでも、なんだか祖母とのつながりを感じて、大事な日に使うお守りのような1枚だ。
 
祖母は、私にとって結婚生活の先輩だ。
 
祖母には何でもお見通しだった。
大人になってから遊びに行くと、私と少し話しただけで私が恋愛していることが分かると言った。
だから失恋して祖母に会うと、それも気づかれてしまったりした。
 
恋愛って難しいなと思っていたある日、祖母に聞いたことがある。
 
「結婚相手に大事なことって何だと思う?」
 
祖母の答えはこうだった。
 
「尊敬できるところのある人がいいよ」
 
祖父は理系の学問を修めていた。理系ではない祖母にとって、自分や周囲の人と異なる考え方をするのが新鮮で、憧れを抱いたのだという。
 
この話を聞いたときは、めったに聞くことのできない祖父母の馴れ初めを聞き出せて、ほほえましく思う程度だった。
 
ただ改めて考えた時、ハッとした。
「結婚相手に大事なこと」という問いに対して、相手に求める性格や特徴の話をせずに、自分自身が相手に対してどういう姿勢でいるか、という視点で答えている。祖母は人にとても真摯に向き合う人だった。
 
もう一つ、祖母は私にとって、おもてなしの先生でもある。
 
親族の好きなものを覚えていて、遊びに行くとそれを用意してくれていた。
私の場合は、三色のそぼろ丼。甘い卵としょう油味の鶏そぼろ、ほうれん草等の青菜が行儀よく並んでいるのを見ると、途端に嬉しくなった。
 
お正月のお節料理でも、小さい頃に誰かが好きだったナポリタンとハムが、お重とは別に添えられていた。律儀だなあと思う。
 
祖母がごはんを食べ始めるのは、家族の中でいつも最後だった。
全員にお皿が行き渡ってから自分の分をよそい、おかわりをしたいという人がいれば、食事を中断してよそいに行った。
 
そんなこんなで食べ終わるのも最後だったが、いつも食後のお茶を出すタイミングを気にしながら
 
「あれもこれも食べたくて、なかなか食べ終わらないの」
 
と言っていた。食事を楽しんでいるところがかわいらしい。お茶は周りの誰かが準備していた。
 
東北に移り住んだ今の私の暮らしを、祖母が見たらどう思うだろう、とよく考える。
季節ごとに野の花が咲く庭は、きっと前の所有者のおばあさんが育てた恵みだ。花が大好きだった祖母ならきっと、名前もすぐに分かるのだろう。
 
そして、様々な世代の人が訪れるこの家で、祖母ならどのようにおもてなしをしただろうと想像する。
もっと上手く場を支え、盛り立てたのではないか。
 
ただ少し考えてみて、私が小さい頃に祖母の家で見ていた光景と、私の置かれている環境は同じではないことに気づく。
祖母が生き抜いた時代の感覚。あの時家に集まっていた親族たち。
私が生きる令和。この家に訪れるのは人生の先輩方もいれば友人知人も多い。
 
今の私が祖母の教えをどう活かすかは、手ぬぐいを使い込むことに似ている気がしてきた。
 
手ぬぐいは、物を包んだり汗をぬぐったり敷物にしたり、いろいろなことに使える。切りっぱなしになっていれば、簡単に引き裂くこともできる。
たくさん洗って使い込むうちに、布が柔らかくなって手に馴染んでくる。新品の布とは別物のようになる。
 
祖母が「結婚相手に大事なこと」として「尊敬できるところがある方がいい」と言ったけれど、これだって結婚相手に限ったことじゃないのかもしれない。
人と接するときに、その人の良いところを見つけたり尊敬できたりする方が、関係を気持ちよく保てそうだ。
 
祖母は親族のおかわりを必ずよそっていた。私が今必ずそれをした方が良いかというと、そんなことはないように思う。
目上の人や、我が家の台所を知らない人には、おかわりを持っていくと思う。
ただ、友人なら自分でよそってもらっても構わないだろう。教えを使い込んで柔らかくするのも、使い手の自由なのかもしれない。
 
こうやって私が少しずつ、与えられる側から与える側に回ろうとするのを、できることなら祖母にも見ていてほしかった。
祖母はもういないけれど、そのふるまいの根っこには祖母が与えてくれた優しさがある。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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