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それだけは言わないで!


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記事:カワハラチエコ(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
私はネタバレが嫌いである。
 
連続ドラマの結末やミステリーの犯人を口走るなどは論外だが、ちょっと先の展開すら知りたくない派なので、最近LINEなどで朝の連続テレビ小説の次の日の予告などが出てきてしまうのは困ったものだと思っている。
映画も本当は見に行く前には予習どころか、少しの予備知識も欲しくないのだが、近ごろは油断するとSNSの広告でほぼあらすじに近いものが公開されているし、テレビを見ていてふいに予告編などが流されることも多いので、そこはある程度あきらめているのが実情だ。
 
だがメディアよりもずっと始末が悪いのが、一般人、つまり邪気のない家族や友人たちのネタバレである。
 
たとえば、私の姉にはネタバレの概念というものがあまりない。
それ故、油断していると、私が録画して楽しみに見ようと思っていたドラマの展開をとくとくとしゃべってしまったりするのだ。
それでも二人とも見ているドラマの場合はまだ、その罪深さを話せばある程度は理解してくれる。
だが、自分の読んだ本について、面白かったといいながら、その本の内容をあらかたしゃべってしまったりするのには閉口する。
「その本、私は読んでいないから何も言わないで!」というと、「だってどうせ読まないでしょ」と返してくる。
何を言っているのか。私がその本を読むか読まないか、どうしてわかるというのだ。
今読まなくても、10年後に読みたくなるかもしれないではないか。そのときに結末を知ってしまっていたら、読む楽しみは半減、いや、十分の一くらいになってしまうではないか!
まあ、聞いても10年後には忘れてしまうかもしれないけれど、それは別として。
 
だが、姉以外にもネタバレが平気な人は多い、ということを、偶然にも最近発見した。仲良しのトレーナーさんにネタバレについて愚痴をこぼしたところ、「私は別にネタバレ平気ですよ」と言われたのである。驚愕して、何人かの知人にインタビューしてみたところ「私は別に平気」「気にしない」という人が続々現れて、衝撃を受けている。
それどころか、「結末を知らないと安心して読めないから、まず結末から読む」という人まで現れて、愕然とした。
ネタバレを気にしない人は少数派であるという自分の常識が、単なる思い込みであったことが証明されてしまったのだ。
 
それどころかネタバレは死んでも嫌、という私のような気質の人のほうが、どうやら少数派らしいということに気がつき始めてしまった。
 
私の娘も、「ドラマを録画して楽しみにしていても、ツイッターでみんなが書いてしまうから、見る前にわかっちゃってガッカリ」と言いながらも、そこまでショックは受けていない様子だ。私なら半日くらい落ち込んでしまうのに。
 
だが角度を変えて考えれば、「気にしない」派のほうが、ネタバレに必要以上に神経質になり、他人に不寛容になってしまう私のような人間よりもずっと心穏やかに生きられるはずなのも確かである。
だから気にしない派に対してはむしろうらやましく思うのが本当のところだ。
でも、「知る権利」に対して「知らないでいる権利」は、一般的にあまりにも軽んじられている気がしてならない。
 
もう30年近く昔のことになるけれど、私が出産した当時は、生まれる前に赤ちゃんの性別を教えてもらうということは、まだそこまで一般的ではなかった。
おそらく性別診断の技術などもいまほど発達していなくて、精度が低いという理由もあったのかもしれない。だがそれだけではなく、生まれる前に性別を調べるということに、どことなく抵抗があったのは確かだと思う。
今となっては笑いごとだが、なんとなく「神の領域」を侵すような気がして、罪の意識を感じていたのかもしれない。
 
ともあれ、医師のほうも、特に聞かれない限り性別は教えない人が多かった。
だから油断していたのかもしれない。
おそらく妊娠7か月くらいの時だったと思う。
私の担当医はある日の診察でぽろっと、「女の子ですね」と口にしたのだ。
私は絶句した。
声を大にして言いたいのは、私は女の子だったからショックを受けたのではない。「男の子ですね」と言われたとしても同じだったと思う。
ただ、生まれるまで知りたくなかったのだ。
本当ならば、あと2か月以上は、私のお楽しみは続くはずだった。
出産時に「男の子ですよ/女の子ですよ」という助産師さんの宣告を聞くという私の最大の楽しみは、その医師の不注意な(たぶん)一言であえなく終了してしまったのである。
盛大なネタバレだった。
 
性別はわかっても言わないでください、と念を押すべきだったのかもしれない。
それは私のミスだ。だけど、「赤ちゃんの性別、知りたいですか?」と一言、告知する前に聞いてほしかったな。と今でも思っている。そんな執念深い自分にちょっとあきれてもいる。
 
でも、絶対にないとは思うけど、もしあのときの先生に映画館で遭遇することがあったなら、私は彼女の耳元でそっと、その映画の結末を教えてあげようと妄想している。それぐらいなら許されるよね。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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