メディアグランプリ

作詞という呪いに興味を持ってしまった人が逃げてはいけない本


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村人F (ライティング実践教室)
 
 
作詞ならできそうだと思っていた私にとって、「『歌詞なんて誰でも書ける』って思うなよ」と帯に書かれた本書ほどちょうどいい入門書はなかった。
タイトルは『作詞少女~詞をなめてた私が知った8つの技術と勇気の話~』
ライトノベル形式で読みやすい点も決め手だ。
こうして買った本を読む中で、私は作詞という作業が背負う呪いを突きつけられることになった。
 
本書は友達に作詞を依頼された初心者女子高生「江戸川 悠」が歌詞を書き上げる中で、この奥深さ、恐ろしさを実感する物語だ。
師匠は同じ女子高校生にしてプロとして活躍している「伊佐坂 詩文(しふみ)」
悠は挑発的な詩文に喰らいつきながら作詞の面白さ、そして責任を知っていく。
本作はライトノベルでありながら、実践的な工程をそのまま描写しているのが特徴だ。
そのため同じく初心者の私もスムーズに読み進められた。
 
技術の話は当然ながら参考になった。
「その曲の一番印象的な場所の歌詞を最初に決める」
「気持ち良い母音をまず決めて、そこから歌詞を決めていく」
詩文の厳しくも愛のある口調から示されるテクニックは、いずれも急所を得ており実践したくなる内容だ。
 
しかしそれらより印象に残ったのはスタンス、心構えを示した部分だった。
 
例えば序盤で示された作詞家のあるべき姿勢。
それは、歌詞が「音楽語の日本語吹き替え」にすぎないと考えることだった。
詞は曲が持つニュアンスを理解し、それに合致する言葉でなければならない。
だからこそ、まずは音楽について理解する必要があると本書は示す。
つまり初心者が思いがちな、なんとなく音にマッチしている言葉を選んでいるようなスタイルは問題だということだ。
 
これは言われるまで盲点だった。
考えてみれば作曲家も音楽を通して語りかけているのだ。
その意図を理解せずに作詞をするなど、何語かわからない映画に字幕を付けるような所業ではないか。
このような当たり前のようなことすら認識していなかった自分に驚いてしまった。
 
他にも「作詞は(作成前の)資料読みが勝負なんだよ」など、あらゆる分野で通用する考え方もあった(カッコ内筆者注釈)。
 
しかし数あるメソッドの中で本書が特に強調していたのは、音楽が呪いであることだった。
 
私たちは曲から、多くの影響を受けている。
気分を盛り上げ作業の集中力を高める。
失恋で悲しくて仕方がない心境を慰めてもらう。
人生の中で、音楽に救われた経験は誰しもあるだろう。
 
そして、曲作りはこのような力がある存在を生み出すことだ。
これはある種の呪術、呪いだろうと本書は述べる。
しかも、歌詞はその中でも特別だ。
曲に込められたパワーを、一般人に理解できるよう翻訳するのだから。
そのため行為の危険性を理解しなければならないというメッセージを本書から感じた。
 
だから、後半部は入門書とは思えないほどドロドロとした描写が繰り広げられる。
 
「作家とは――その本質は、見たくない自分と向き合う心の専門家であるというということにほかならない。臆病さに立ち向かい、勇気を持つからこそ、アタシらは作家だ。この人種についてのみ――この人種であると自称する者についてのみアタシは、臆病であることを断じて許さない」
 
この詩文のセリフに象徴されるように、作詞だけでなく全ての創作に当てはまる都合の悪い本質が容赦なく示される。
 
しかし、これは絶対に忘れてはいけないことなのだ。
私たち人間は、生きている限り何かを表現し続ける存在である。
意図の有無にかかわらず言葉を発し、誰かの心を動かす。
ちょっとした目線の動きで相手を心配させることもあるだろう。
まるで呼吸をするように他人に影響を与えてしまうのが人の宿命だ。
 
ならば与える影響度が桁違いに大きい歌詞を扱う作詞家は、誰よりも心得なければならない。
この責任を、呪いを。
これらは作家である以上、決して逃げてはいけない存在なのだ。
 
だから、本書は同時に示してくれる。
どうしようもない闇に立ち向かうための勇気を。
曲を書き上げ、その意味を理解し潰れそうな悠を通して。
そして確固たる決意の中、厳しくも優しい姿勢で導く詩文の言葉で。
これらは全てのクリエイターに響く物語だろう。
 
この本を買った理由は作詞を簡単だと思っていた自分に喝を入れようとしたからだ。
しかし得られたのは奥深さだけなく、全ての表現の恐ろしさであり面白さであった。
私も本書で培った技術と勇気を共にして1曲書いてみよう。
そして作業を終え恥ずかしくも誇らしい歌詞を眺めながら、「音楽」の本当の楽しさを実感できる未来を手に入れたい。
 
・紹介した本
題:『作詞少女~詞をなめてた私が知った8つの技術と勇気の話~』
著者:仰木日向(小説)、まつだひかり(イラスト)
出版社:ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
 
 
 
 
***
 
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2023-07-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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