メディアグランプリ

外の音越しに聴く、お気に入りの曲


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山葵(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「ピーポーピーポー!」
「キキーッ!」
「ガタンゴトン!」
「ウィーン、ダダダダ!」
「ザワザワ、ガヤガヤ……」
 
街を歩くと聞こえてくる環境音は、私にとってかなりの騒音だ。
聴覚が異常なまでに過敏であるため、私はイヤホンなしでは一人で外を歩くことができない。
 
外の音が大嫌いだ。唐突に鳴り響くパトカーのサイレンも、けたたましいセミの鳴き声も、後ろから急に話しかけてくるナンパも。私はとにかく外の音が大嫌いだ。
聞こえるたびに心臓が飛び跳ねて、体がカチコチになってしまう。疲れているときは涙まで出てくる。しゃがみこんで震えることさえある。
特に救急車が通過するときは「けがや病気の方が無事病院にたどりつけますように」と心の中でお祈りするものの、私にはサイレンが音割れして聞こえて痛いので、どうしても走って逃げなくてはならない。
 
だからいつもノイズキャンセリングイヤホンを両耳に装着して出かけている。
 
最近のノイズキャンセリングイヤホンはとても優秀だ。
嫌な音を全て消してくれる。
 
私が使用しているものは3つのモードがある。
どんな音もクリアに届ける「外音取り込みモード」に「通常イヤホンモード」、
そして大きな音もたちまちかき消してくれる「ノイズキャンセリングモード」だ。
ノイズキャンセリングがある時代に生まれることができてよかったと心の底から思う。
 
私は基本的にノイズキャンセリングモードしか使わない。
人と会話するときはマナーのことも考えてイヤホンごと耳から外している。
だから通常モードはまだしも、外音取り込み機能の良さが正直最近までまったく分からなかった。必要あるのか? と思っていた。
 
騒音をカットするだけでは退屈なので、私はいつも音楽を聴いている。
私の周囲には音楽活動をしている友人が多いので、彼らが作った曲をかけノリノリで街を歩く。
外の騒音を忘れて、大好きな友人たちの声を聞くことができる毎日が幸せだ。
一方で、イヤホンを外す瞬間が一番憂鬱だった。外の世界は本当にうるさい。
 
耳から入る音すべてが友人の歌声のように心地よければ、どんなにいいだろう。
外が無音で、彼らの声だけが聞こえたらいいのにと何度も思った。
 
 
最近のお気に入りの曲がある。友人が先月リリースしたばかりのサマーソングだ。
“シティーポップ”というジャンルらしい。
ジトっとした夏が苦手な私でも、明るい気持ちで出かけられる、素敵な一曲。
 
 
先日もリピート再生に切り替えてこの一曲だけを延々と流しながら、
いつもの騒音だらけの通勤路を歩いていた。
 
まだ気温が上がりきっていない、すっきりとした青空のもと、
スキップしたくなるようなリズムの、最高の夏曲だけを耳に入れながら仕事へ向かう。
風が心地よくて、ゆるく巻いた髪の毛をふわりと通り抜けていく。
 
調子よく進んで、あと一つ横断歩道を渡れば到着……。
というところで、
 
「ジリジリジリジリ!」
 
急につんざくような大きな音が私の頭を貫いた。
セミの声だ! もう夏だもんね……。
 
というか、なんで!?
ノイズキャンセリングのはずなのに!
 
焦ってスマホの表示を見る。
どうやら髪の毛を耳にかけたときに外音取り込みモードのスイッチを押してしまっていたようだ。
 
 
びっくりしすぎたので一旦休憩。
少し離れたところに移動し、ベンチに腰掛けた。
 
あまりに慌ててしまったため、外音取り込みモードのまま曲の音量だけ上げていた。
さっきより小さくなったセミの声と、友人の歌声が半々で聞こえている。
 
あれ?
今、最高に夏かも……!
 暑
気が付いてしまった。友人が作った夏の曲と、ザ・夏の音、セミの声。
なんて立体感のある音なんだろう!
 
そのままよく耳を澄ますと、夏の音が聞こえた。
ホースで花に水をやる音、隣のベンチでシャツをパタパタさせている音、どこかの家の風鈴の音、暑いねと言いながら横切るカップルの声。
この曲の夏らしさを裏付ける、あらゆる夏の音が聞こえた。
 
外で聞く音はすべてと言ってもいいほど嫌いだったけれど、
思わぬハプニングで取り込んでみると、実はそこまで悪くないのだと思えた。
単体で聞けば騒音でしかなかったセミの声も、なかなかおしゃれに聞こえる。
そして何より、ただでさえ大好きなこの曲が、外の音が加わることで一層わくわくが溢れる「神曲」になった。
 
夏の音越しに聴く、夏の曲……。
 
私は一瞬にして外音取り込み機能の虜になった。
街の中を歩くのが楽しい。
 
これまでは消していた音たちも含めて、好きな音楽の一音になったような気がする。
 
必要だと思っていなかったものでも、意外と素晴らしいものなんだな。
積極的に外音取り込み機能を使おうと決意した日だった。
 
 
もし、あなたが持っているイヤホンに外音取り込み機能があれば、ぜひ外の音とセットでお気に入りの一曲を聞いてみてほしい。
 
季節の音や街の音が、心地よいコーラスに聞こえてくるはず。
 
 
 
 
***
 
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2023-07-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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