田舎から飛び出したくてたまらなかった高校時代
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小林 遼香(ライティング・ゼミ4月コース)
「早くこんな田舎から飛び出して東京に行きたい」
高校生だった私の口癖はいつも「東京に行く」だった。もちろん志望校は、すべて東京にある大学。東京に行けば何かが変わると本気で信じていた。
「なんでそんなに東京に行きたいん。東京におる人なんておもんないで」
東京に行ったこともない友人が言ってきた。
「映画をつくるんやったら、現場が多くある東京行かなあかんの。関西なんてあんまチャンスないやん」
上京したい理由の8割は「映画をつくるため」で、2割は「いまの環境から抜け出したい」だ。
わたしが生まれ育ったのは大阪から電車で30分ほどにあるベットタウン。よく映画にでてくるような田畑に囲まれ、若者は少ない「究極的な田舎」でなく、中途半端に田畑があり、若者はそれなりにいる「中途半端な田舎」だ。都会ほど多くの情報に溢れているわけではなく、「究極的な田舎」より情報が制限されているわけではない。
だからなのか、「近くにいる存在が気になって仕方がない」病に冒されている人が多くいた。たとえば、ある日近所で大人しい女の子がいきなり金髪になったとする。すると、次の日にはマダムの井戸端会議のネタになり、根も葉もない噂とともに地域に広がるのだ。学校でも「Aは大学生の彼氏がいる」や「Bの夢は女優らしい」など、他人の個人的な情報を共有したがる。正直わたしにはどうでもよかったし、この環境にいることでは「自分のアップデートを阻むリスク」ではないかと考えていた。
「早く東京に行きたい、映画につながる架け橋がほしい」
高校三年生の夏休み、受験勉強の合間に映画関係の掲示板を見まくった。ほとんど東京が現場のなか、1つだけ「大阪」で撮影がされる映画の現場を発見した。
「うわ、わたしの年齢の募集ないやん」
とりあえずエキストラで現場に携わろうと思っていたが、残念ながら40歳以上の募集しかなかった。諦められなかったわたしは勝手に母として応募に出した。
「わ、どうしよう受かっちゃった」
次の日「オーディション会場にきてください」というメールが届いた。「今日どうしてもショッピングがしたくて大阪に一緒に行ってほしい」という理由で母をだまし連れ出した。
「実はオーディション会場やねん。ママは話さなくて大丈夫。うちが喋るから」
半ば強制的に会場に連れていき、監督の質問に母ではなくわたしが応答した。監督と話しながら心のどこかで「どうせこのままだと落ちるし、なんかお手伝いでも参加できればいいな」と思っていた。
「おもろいですね、お母さんよろしくお願いいたします」
まさかの母がオーディションに合格した。わたしの作戦は成功し、映画の現場に携わることになった。
映画現場の見学を許可もらったわたしは、映画の舞台は日雇い労働者が多く住む釜ヶ崎に何回か足を運ぶことになった。身分証明書もいらない無料の宿泊所「あいりんシェルター」というのがあったり、飛田新地という遊郭もある。その町に住んでいる人がつくりあげてきた文化が至る所に染みついている。
「この釜ヶ崎が釜ヶ崎らしさが失われてきてんねん」
数年前から開発が進み、道路が補修され「キレイ」になっているらしい。一方、オブジェが置かれたことでホームレスは立ち退きをしなければならなくなり、そこでしか生きられなかった人は住めなくなっている。
「なんか町が『キレイ』になるっていいことだって決めつけていた。一部分で物事を捉えていたわ」
「それでいうとよく住んでいる町のことも『つまらない』場所って決めつけてへん。東京、東京って言うけど、あそこもいいところやで」
帰りの電車、普段「東京行く」宣言に対して何も言ってこない母がぽつりと言い放った。
「はるかちゃん、なんか顔色悪くない、車乗っていき」
学校からの帰り道、腹痛で苦しんでいたわたしに近所の人が声をかけてくれた。こんな優しさもいつものわたしなら「鬱陶しい」と思っていた。
「そんなに悪い町じゃないかもしれない」
他人に興味あるからこそ、誰かが困っていたら率先して助け合いが行われるのだ。母に言われたあの日からよそ者として自分が住んでいた町を見るようになった。釜ヶ崎に行ったことで、住んでいる町への見方が偏っていたことに気がついた。「自分のアップデートを阻むリスク」は、町ではなく自分自身で作り出していたのだ。
「早く東京に行きたいのは変わらないけど、住んでる町も別に悪いところじゃないと思う」
映画の現場への行き道、わたしは母に言った。母は少し嬉しそうな顔をしていた。
***
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