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メディアグランプリ

「78回目のヒロシマに平和の祈りを捧げます」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ひーまま(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
もうすぐまたヒロシマにあの日がくる。
8月6日、今年で78年目の暑い朝がくる。
 
「うちは今日久しぶりに旦那さんに逢える日なんよ。一月に結婚してからすぐに勝利さんは広島の江波の練兵場に配属されちゃったけん、大竹にもなかなか帰ってこれんのんよ」
今日は大竹から村の人と一緒に朝早く準備して、広島市内の建物疎開の奉仕に出てきたのだった。久しぶりの外出でなんだか気持ちがウキウキしている。知り合いの奥さんとそんな話をしながら、大竹の駅から広島駅に着いたところだった。
 
昭和20年1月19日結婚したばかりの、わたしシゲノ20歳。夫の勝利は27歳。勝利さんはお兄ちゃんのお友達。いつも我が家に遊びに来ていた勝利さんは優しいひとで、絵が上手。ときどき描いた絵を話のタネにとこっそり渡してくれたりしていた。
 
「今日はホンマに久しぶりに会えるけえちょっとかわいいモンペをはいてきたんよ!」隣にすわった奥さんはくすくす笑ってる。
「今日はえらいようけの子どもが電車に乗ってくるねえ」
「ホンマじゃね。夏休みなんじゃのにねえ」
「やっぱり建物疎開の作業にようけの子どもらまでが駆り出されとるんかね」日本各地の都市が空襲で焼かれていると新聞に大きく出ていた。
「ほいじゃけど広島はなんの空襲もないけえ、今のうちに建物疎開して爆弾がおちても火が広がらんようにするんと」
(あさの間に勝利さんに会ってそれから作業に戻ったらええって、会長さんが言うてくれちゃった。よかった。)心の中で呟いて、隣の奥さんにはうんうんとうなずいて見せた。
 
結婚したらすぐに単身赴任。新しい家族になかなかなれなくって少し苦労している。(今日は大事な相談があるんよね。どういうたらええかなあ)
広島駅から市内電車に乗り換えて、市内の一番賑やかな繁華街、八丁堀を過ぎたころ、ぼんやりと電車に揺られながら考えていた。
 
広島駅で満員くらいの人が乗っていたけど八丁堀でずいぶん人が下りたのでさほどの込みようではなくなっていた。がったんごっとん。暑い中を市電はゆっくり進んでいく。
 
隣の奥さんが「今日はホンマに暑いねえ。蝉がうるさいくらいにないとるわ。おひるは何を食べるんね? たまには卵焼きでもたべてみたいよねえ」
と本当におなかがペコペコと言う表情で、思わず吹き出してしまった。
 
「今日は久しぶりに旦那さんに逢えるけえ、白い握り飯を作ってきたんよ。喜んでくれてじゃろうか?」
「まあ!!そりゃあ嬉しいにきまっとるわ! ええことしてきたね」
そんな話をしながら(もうすぐ勝利さんに逢える。大事な話があるんよねえ。最近ご飯のにおいがしたら胸が悪うて吐きそうになる。お母さんにゆうたらもしかしたら子ができとるかもしれんで。って。勝利さん喜んでくれてじゃろうか?)思いながら思わず顔が赤くなってしまった。
 
電車が紙屋町を通り過ぎたころ遠くに広島県産業奨励館(後の原爆ドーム)が見えてきた。
「見てみんさい、ハイカラな建物よねえ、今度はゆっくり見にこようや」奥さんがそういった瞬間だった。目もくらむような光があたりを包んだ。瞬間地表の温度は3000度から4000度を超えたと言われている。
8時15分だった。
 
シゲノさんの身体は一瞬にして溶けた。あるいは消えてしまった。
ヒロシマに世界で初めて原子爆弾が投下された瞬間だった。
 
8時過ぎ、勝利は広島の江波の練兵場から徒歩で己斐駅に向かっていた。
はやる気持ちを抑えて、しかし足が自然に早足になる。
1月に結婚してからゆっくり新婚生活を楽しむ間もなく自分は練兵場へ単身赴任だ。
 
(今日は久しぶりにシゲノに逢えるんじゃ。元気にしとるかの?今日は暑いけえ一緒に氷でも食べようかのお)何となくウキウキする気分が自分でもおかしくて思わず声を出して笑ってしまった。
 
(憲兵の仕事は人にはわからん。みんなに恐れられとるんはわかるが、わしはほかの憲兵と違って人を殴ったり脅したりは苦手じゃ。酒はなんぼでも飲めるが昨日はひどかった。友達の憲兵がどっかの民家が隠しとったんを押収してきたゆうて、3人で4升のんだけえの)
 
それでもぜんぜん酔いも残っていない自分をちょっとほめてみた。
もうすぐシゲノに逢えるけえ。いっぱい話をせんといけん。
 
ちょうど己斐橋を渡りきると思った瞬間だった。
すごい光に包まれたかと思う間もなく市内電車の電線がぱあっと溶けながら走ってきた。
アッと思う間もなく熱風に吹き飛ばされて身体は宙に浮いていた。
どんっ。と地面に叩きつけられ気をうしなってしまった。
 
8時15分。爆心地から2キロの己斐駅手前のことだった。
勝利は全身にやけどをおって、意識が戻った時には己斐駅から30キロほど離れた廿日市の駅前に並べられていた。
 
次々と全身やけどで亡くなっていく人の列の中に並べられていたのだ。
 
この話はフィクションです。
78年前の8月6日のこの出来事は、私の主人のお父さんと最初の奥さん、シゲノさんの物語です。その後お義父さんは九死に一生を得て焼かれる列の数人前で回復して自宅まで帰れたそうです。
 
原爆投下の一月後、やっと歩けるように回復したお義父さんは連日広島へ通い、妻のシゲノさんを探してさまよったそうです。
シゲノさんが被爆したのはほぼ爆心地に近い「紙屋町」だったそうです。
遺体もなく遺品もなく広島駅までは一緒だったという近所の人の証言で亡くなったことを確認したそうです。
 
その後もお義父さんは毎年8月6日が近づくと、一人身元不明者の名簿を探しに行かれていたそうです。翌年再婚した主人の母を気遣ってあの8月6日以降、お義父さんは最初の妻「シゲノ」さんのことは一切話しませんでした。あの日何があったのか?原爆とはどんなものだったのか?
主人は一度もそれを聞いたことはないと言っていました。
 
私が嫁にきて、最初の奥さんのことを思いだしたのでしょうか?私にはぽつりぽつりと戦争のお話をしてくれたお義父さんでした。
 
今日はあの日のお義父さん。勝利さんとシゲノさんの気持ちが伝わってきたような気がして書かせてもらいました。
原爆で亡くなったすべてのみ霊が安らかでありますように。
世界が平和になりますように。心よりお祈りいたします。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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