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もし明日予定がないなら「して欲しいこと」


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記事:メッツィンガー広美(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
「こんなに白髪が多かったかな」
 
コロナ禍を経て再会した両親は、前より歳をとって見えた。
当たり前だ。両親だけじゃない。私だって間違いなく見た目も体力も変わった。
前回の帰国から3年も経ったのだ。
 
私はドイツ人の夫と結婚すれば、いつかドイツに移住するであろうことは分かっていたし、特にそれが障壁だと考えることもなかった。
もちろん、文化や言葉の差で苦労はするだろうと予測はしても、海外に住むことには抵抗はなかったのだ。
 
でも最近は気持ちに変化が出てきて、日本がとても恋しくなることがある。
明日どんなに暇で時間を持て余しても、家族に会えない距離がとてももどかしく感じ始めている。
 
きっかけは、そう、コロナだ。
 
コロナ禍に入る一年前。39歳といういわゆる高齢出産で息子を産んだとき、毎日毎日凄まじい変化を見せる小さな命を見ていると、アラフォーの私は日々そんなに変化はないのに、同じだけ時を刻んでいることに不思議な気持ちが芽生えた。
時計の針のように、子どもは「分針」で大人は「時針」。
スピードは違うけど、結果、重ねる時間は同じ。
 
でも、私には大人の時間はゆっくり進んでいるように見えたから、まだまだ特に変わることはなく、時間もあるように感じていた。
 
そんな中、2020年にコロナ禍が訪れた。
ドイツと日本。それまでは遠いとは言え、時差7時間とフライト12時間を超えれば会えていた家族や友人に会えなくなった。
日本に入国もできない、いや、ドイツでも日常の外出規制まで出ていたのだから、飛行機に乗るどころではない。元々、地球儀をぐるーりと半分ほど回さなければいけなかった2国間は、またぐんと遠くなった。
 
私たち家族は運良く、コロナ直前に日本帰国を果たしていたが、当時11ヶ月の息子は、それから3年以上、日本の祖父母に会わずに今4歳になっていて、会わない間に大病が発覚した当時71歳の父は、ありがたいことに既に完治もしている。
時間は確実に刻々と流れていた。
 
最近はようやく日常が戻り、会えなかった日本の家族や友人にも少しずつ会えるようになる中で、よくこう考えるようになった。
 
「今日が最後になるとしたら、何を話そうか」
するとその時間がとても大切なものに思えた。
 
でも、「久しぶりに会ったくらいで大袈裟か」と我に返ったとき、ふと、ある言葉を思い出した。
 
In life, it’s not where you go, it’s who you travel with.
「人生において大事なのは、どこに行くかではなく誰と行くかだよ」
 
スヌーピーの名言だ。
そう、あのスヌーピー。深く、ときに哲学的な発言で誕生から70年、世界中の人の心に足跡を残してきたビーグルだ。
 
 
大事なのは、どこに行くかではなく誰と行くか。
 
そういえば、昔、ドイツ人である夫の妹と「旅」について話したことがある。
多くのドイツ人は休暇時期になれば数週間の長い休みをとり、一箇所に長く滞在する。
1、2泊で宿を変え、各所を見尽くす旅はあまりしない。
さらに義妹にいたっては、毎年決まってポルトガルに行くのだ。
 
いやいや、せっかく陸続きのヨーロッパ。他にも行きやすくて素晴らしい観光地もあるのだから、毎年いろんなところに行くのはどうか? と私はひそかに思っていた。
 
一度、理由を聞いてみたことがある。
 
「場所? 子どもたちが楽しくて、家族でいい時間が過ごせればどこだっていいのよ」
と彼女は答えた。
 
それを聞いたときは「そんなものか」と思っていたが、私も子どもをもち、コロナ禍を経て、会えない間に両親が年齢を重ねるのを実感して今やっと、その領域にたどり着いた。
 
彼女はスヌーピーと同じだった。
 
私は昔、短期間で各所を点々とするスタイルの旅をたくさんした。今だってそんな旅も大好きだ。
学生時代は2つ上の姉と旅をすることが多くて、その旅は毎日が忙しいものだから、旅のスケジュールに追われて、うまくいかないとことに腹を立てたり、マイペースな姉と喧嘩したりすることもあった。
それも私たちの旅の醍醐味といえばそうなのだが、今は少し違う考え方もできる。
 
「まぁ、うまく行かなくてもいいじゃないか。
こうしてお姉ちゃんと特別な時間を過ごしていられるのだから」
 
 
泣いても笑っても時間が過ぎるのは止められないし、その間にまた予期せぬことも起こるかも知れない。だからいつも心に留めておきたい。
 
「自分は自分の大切な人との時間を大切に過ごしているか」
 
もしかしたら、優先度はそれほど高くないものに執着したり、小さなプライドに縛られたり、一時の感情に支配されて大切な時間を無駄にしてはいないだろうか。
 
毎日が忙しくて、その中で築く人間関係はいつも「平坦な道」ではないかも知れない。
でも大切な人というのは、たとえ途中で紆余曲折があっても、最後はまた大切に人として自分の心に戻ってくることが多いのではないかと私は思っている。
その時になって、もっと会っておけばよかったと後悔しないように、私は会えるときに会えるだけ会いたい。
 
もしも、あなたも明日予定がないなら、ぜひ大切な人に会いに行って欲しいと思う。
特別な場所に行く必要はなく、ただ時間を共有するだけ。
歳を重ねるお互いの姿をそばで見られる幸福を噛みしめながら。
 
 
 
 
***
 
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2023-08-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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