fbpx
メディアグランプリ

陸奥湾と兄


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:さよ(ライティング・ゼミ8月コース)
 
 
「次は、陸奥湾で釣りをしよう」
今年のゴールデンウィークに、青森に住んでいる兄が発した言葉だ。
私には、ちょうど一回り離れた兄がいる。
私が物心つく頃から、兄は母との折り合いがつかず、青森の祖母の家に同居していた。
一時、東京で住む時期もあったが、東京の空気が肌に合わず、結局青森に戻り、奥さんと3人の子宝に恵まれ、祖母の家を増築して一緒に住んでいた。
98になる祖母は、胃がんを患い昨年の夏に他界した。
兄の3人の子ども達も自立し、今青森に住んでいるのは兄夫婦だけとなった。
 
正直、兄と私は仲が良いとは言えない。
兄は、4人兄弟の長男、私は末っ子という関係で、12も離れている妹を両親が可愛がっている姿が許せなかったようだ。小さな頃から、家族で祖母と兄の住む家に帰省していたが、兄とまともに会話をしたことがなかった。話しかけても「ああ」「うん」程度の返事しかなく、「感じ悪いな」という印象がついてしまい、自然とこちらから話しかけることはなくなった。
 
そんな兄の元を訪れたのは、きっかけがある。私が結婚したからだ。
夫は、大の釣り好きで、多い月は毎週船釣りに行っている。
私の両親が青森出身で陸奥湾沿いに実家があることを知ると、「陸奥湾で釣りがしたい」と言い出したのだ。
まともに会話したことのない兄なので、携帯番号も知らない。
まずは、旅行がてら軽く挨拶に行こうと決めて訪問したのが5月のゴールデンウィーク。
そこで、兄と夫は意気投合し、「夏に釣りに連れてってやる」と約束したのである。
 
そこからは早かった。
「8月の1週目なら、友達に船を出してもらえそうだ」
「釣り竿は、こっちで準備するから持ってこなくていい」
「陸奥湾の真鯛は、テンヤ釣りをしない」
「陸奥湾は、ほとんど波がないから酔わないと思う」
8月の旅行に向けての連絡が続々ときた。
 
来たる8月4日、私達夫婦は車で青森へ出発した。
朝8時に出て、ちょうど12時間後の夜8時すぎ実家に到着した。
兄夫婦は、ホタテの刺し身や寿司の盛り合わせを準備して待っていてくれた。
兄とまともにお酒は交わすは今回が初めてだ。
「長旅お疲れ様、まずは、ゆっくり休んで」と声をかけてくれた。
「明後日は4時に出船だから、3時半には家を出発するぞ」
「今年は、海水温が上がっているからあまり釣れないかもしれない……」
兄が発する一言一言が新鮮すぎて、記憶に残る。
 
釣り当日、船を出してくれる兄の友人に挨拶し、いざ出航。
初めての船での陸奥湾は驚くほど穏やかで、湖で釣りをしているようだ。
餌を垂らして10分、さっそく夫の竿が揺れた。
「きた!!」
さすが、釣りが趣味の夫である。落ち着いて、リールを巻き一匹目を獲得。
 
休憩する間もなく、今度は私の竿が引いた。
私は、釣りが初めてだったため、へっぴり腰になり、すごいスピードでリールを巻く。
兄から「早い早い、もっとゆっくり巻かないと釣り糸が切れるぞ」と大きな声が聞こえた。
ふと、兄の方に目をやるとゲラゲラ笑いながらスマホで動画をとっている。
「え、こんな笑うんだ……」
私は、必死にリールを巻きながら、同時に今まで見たことのない兄の姿に、なんとも言えない感情が湧き上がっていた。
 
その後も、順調に釣り上げ合計で18匹の真鯛が釣れた。
下船する時には、兄の友人である船長さんから
「夏よりも春や秋の方が釣れるぞ」「次はいつ来るんだ」
と声を掛けてもらった。なんて、良い人達なのだろう。
 
実家に戻り、真鯛をどう処理するかを考えていると、兄が別の友人に電話。
すぐに魚を捌きに駆けつけてくれる。
 
夫が「鯛は昆布締めにすると、うまいですよね」と言うと、
兄はすぐさま別の友人に電話をして昆布をもってきてもらう。
 
一体、どれだけの繋がりがあるのだろう……。
 
兄の人脈に寒気すら感じた。と同時に、私が抱いていた兄に対する印象は大きな勘違いで、兄は兄で、青森での生活を謳歌していたのだ。
 
2日間滞在させてもらい、東京に帰る日は丁度ねぶた祭りが開催されている日だった。
 
兄から「せっかくだから、もう一泊してねぶた見て帰れば?」と声を掛けてもらったが、
東京でも他の予定がある。
後ろ髪を引かれながら、東京へと出発した。
 
東京への道中、兄にお礼メールを送ろうとスマホを出すと、兄からたくさんのLINEが届いていた。
釣りとねぶたの動画である。
 
釣りのときには、私達夫婦の竿に反応があった時の様子をすべて動画に収めておいてくれたのだ。
ねぶたは、ベストポジションから撮った動画。
言葉足らずな兄ではあるが、行動から優しさが伝わってくる3日間だった。
 
「次はいつ行こうか」
私から夫へ、自然に出てきた一言だ。
今まで気づけなかった素敵な兄に、改めて出会えた3日間だった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2023-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事